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パリの外国ごはん
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ガレットも餃子も。しみじみ素朴なベジタリアン・チベット料理/Pema Thang

連載「パリの外国ごはん」では三つのシリーズを順番に、2週に1回配信しています。
この《パリの外国ごはん》は、暮らしながらパリを旅する外国料理レストラン探訪記。フードライター・川村明子さんの文と写真、料理家・室田万央里さんのイラストでお届けします。
次回《パリの外国ごはん そのあとで。》は、室田さんが店の一皿から受けたインスピレーションをもとに、オリジナル料理を考案。レシピをご紹介します。
川村さんが心に残るレストランを再訪する《パリの外国ごはん ふたたび。》もあわせてお楽しみください。

ガレットも餃子も。しみじみ素朴なベジタリアン・チベット料理/Pema Thang
ガレットも餃子も。しみじみ素朴なベジタリアン・チベット料理/Pema Thang

メトロ10番線Maubert Mutualité(モベール・ミュチュアリテ)の駅周辺には、コンビニくらいの広さのアジア食材店が数店並んでいて、中華街まで行かずともよく使う調味料や乾麺などは手に入るから、パリで暮らし始めた当初から今でも、時折行くところだ。

駅を出てノートル・ダム寺院のそびえるセーヌ川方面とは反対に歩くと、飲食店のひしめく坂がある。そこもまたアジア料理の店が半分ほどを占めるだろうか。けれど一度も、一軒も入ったことがなかった。カルチエラタンの端に位置するその通りでは、店先に貼られたバックパッカー向けガイドが推奨するステッカーも目について、安さ優先、あるいはツーリスト狙いの店ばかりの気がしていた。

でも、少し前から気になる店があった。温かみを感じる外観が私の目を引いた。チベット料理の店だ。ナチュラル&ベジタリアンと窓に書かれている。ただ、いつもひと気がない。時間帯にもよるのだろうと思いながら何度か通るうちに、よく見ると、昼間でも営業時間中は看板に電気をつけ、終わると消していることに気づいた。

ガレットも餃子も。しみじみ素朴なベジタリアン・チベット料理/Pema Thang

外に掲げられたメニューの写真を撮り、万央里ちゃんに送ると“行きたい”という返事が来た。それで翌日、ちょうど近くに用事があったので、観察がてら通りすがりに予約をすることにした。

入る前に、表から窓越しにのぞいてみた。やっぱり誰もいないようだ。それでも扉を開けると、カウンターの中から女性が現れた。「明日、ランチに予約をしたいのですが……」。そう伝えたら、「何人?」と聞かれた。「2人です」。私の答えを聞いて、彼女は、まあ何を言ってるの?とでも言うかのように、手首を前方にぱたっと倒すように振るジェスチャーでまずリアクションしてから、笑いながら屈託なく言った。「それなら必要ない。たくさん場所はあるから」

翌日出かけると、前日と同じ女性が、最初に受けた印象と同じおおらかさで接客してくれた。客は私たち2人だけだった。普通だったら少し不安になりそうだが、不思議と、逆に、華やかさが先に立つのではない実直な料理が出てきそうな気がして期待が高まった。

ガレットも餃子も。しみじみ素朴なベジタリアン・チベット料理/Pema Thang

メニューには、モモ(チベットの餃子〈ギョーザ〉)、自家製麺(生地)、穀物プレート、ターリーの4項目があった。モモと自家製麺はぜひとも食べたい。自家製麺のところに“詰め物をしたガレット”というのが二つ書かれていて気になった。これは蒸してあるのではなくて、焼いている、ということでホウレン草入りのものを頼むことにした。それにモモを一皿と焼きそばも注文。

梁(はり)のある天井に、入り口を入ってすぐの細い階段を見て、懐かしい気持ちになった。20年ほど前、料理学校のクラスメートがこの通りに住んでいた。このあたりに多い古い建物は、梁と年季の入った階段が特徴的だ。

記憶をさかのぼっていたら、ひょんなことを思い出した。「そういえば、昔、この通りの上の方に、ベジタリアンの店が何軒かあったんだよ。まだ、ベジタリアンっていうと一種の信仰のような空気が店内に漂っている頃で、でも1軒、普通のフレンチビストロみたいな内装のお店があって、そこはおいしいって知られてた。どこの店にもなぜか必ず“ワカメのタルタル”っていう一皿があったんだよねぇ」と話すと「へ~そうなんだ、じゃあこの辺はベジタリアンが集まってるところだったのかもね」と万央里ちゃんは言った。当時のベジタリアンレストランの独特の雰囲気を思い返していたら、ガレットが運ばれてきた。

ガレットも餃子も。しみじみ素朴なベジタリアン・チベット料理/Pema Thang

想像していたものと全然違った。思っていたよりも、ずっと大きい。立て続けに出てきた焼きそばは、太めの平麺かと勝手に思っていたけれど、日本で思い浮かべる焼きそばの麺みたいで、こちらも予想を裏切られて途端にワクワクした。

まずはガレットから食べることにした。モモを焼いたものと言われたけれど、揚げてあるようだ。添え物も取り皿に取り、ガレットを手でつまんだ。ずっしりした重みを感じて割ってみると、ホウレン草がぎっしりだ。そこに玉ねぎが少し入っている。

ガレットも餃子も。しみじみ素朴なベジタリアン・チベット料理/Pema Thang

ソースはつけずに、まずはそのまま食べた。塩味がしっかりついていて、でもきっと他の味付けはされていないんじゃないかと思う。すごくシンプル。皮が薄くて、粉と水だけで作っている感じで、素朴な味わいがとてもおいしかった。

そこへ、蒸し餃子も登場。焼きそばは後回しにして、温かいうちにと、こちらを先に食べてみると、肉汁があふれ出た。いや、肉汁じゃない。でもそう勘違いしてしまうような味だった。色からするとひき肉が入っているように見えるし、大豆がベースという印象も受けず、タマネギがたっぷりですごくジューシーなために、言われなかったらベジタリアンとはわからない。

ガレットも餃子も。しみじみ素朴なベジタリアン・チベット料理/Pema Thang

皮はモチっとしていながら薄めで、とても食べやすく、ついてきたコリアンダーソースをつけたら、甘みある柔らかい味が爽やかになった。このソースも、ナッツなどは加えられていなくて、コリアンダーと塩と水をミックスしただけに思える。もしかしたらほんの少し何かオイルを垂らしているかな。あとちょっとパセリも入っているかも。家で自分でよく作るハーブペーストと共通する味がした。

焼きそばに行く前に付け合わせをつまむ。春雨は、キクラゲとニンジンを具に、しょうゆと酢で味付けしたのだろうか。と言っても、しょうゆもごく少量のとても優しい味。塩ゆでの豆は、おそらく炒めてあるタマネギとニンジン、それにコリアンダーと一緒に、少ししょうゆをまぶした感じで、箸で一粒ずつずっとつまんでいたいような気持ちになった。発酵させた大根と書かれていたものは、塩漬けしたと思われる大根を、粗めの練りゴマ、もしくはすりゴマとカレー粉で和(あ)えているような味で、この日の料理で最もパンチを放っていたものだ。

ガレットも餃子も。しみじみ素朴なベジタリアン・チベット料理/Pema Thang

そして、最後にとっておいた焼きそば。大好物なのだ、焼きそばは。キャベツとニンジンに、薄い厚揚げがたくさん。上にはやっぱりコリアンダー。味付けは、これも、しょうゆベースと思われた。こんなにシンプルでいいんだなぁとしみじみするおいしさだった。厚揚げが、ジャンク感とボリューム感を演出していた。

皿の上に在るひとつひとつの味を全部感じられる料理に、そんなにたくさんのものは要らないんだよなぁと、自分をリセットしたような心持ちになって店を後にした。

ガレットも餃子も。しみじみ素朴なベジタリアン・チベット料理/Pema Thang

Pema Thang(ペマ・タン)

13 Rue de la Montagne Ste Geneviève, 75005 Paris

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