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花のない花屋
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「取り越し苦労であって…」食事会の日、つながらなかった父への電話

読者のみなさまから寄せられたエピソードの中から、毎週ひとつの「物語」を、フラワーアーティストの東信さんが花束で表現する連載です。
新型コロナウイルスで大きな影響を受けた花の生産者を支援している全国農業協同組合連合会(全農)に、その活動の一環として連載にご協力いただいています。
あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら

〈依頼人プロフィール〉
高田やす子さん(仮名) 51歳 女性
自営業
東京都在住

    ◇

いつものように取り越し苦労であってほしい……。駆けつけながら祈った思いもむなしく、玄関ドアのチェーンの隙間から、父が倒れている気配がしました。

80代半ばの父は、それまで人間ドックでもお医者さまから褒められるほど、健康が自慢でした。約10年前に母が急逝し一人暮らしになってからは、実家を引き払って、我が家からほど近いマンションで暮らしてもらっていました。

父は母を亡くしてから、ことあるごとに「さみしい」と言っていましたが、自身で興した会社を引退したあとも、相談役として仕事をしたり、スポーツクラブに通ったり。そしてお友達とのお付き合いも多く、案外忙しい日々を過ごしているようでした。子育てと仕事に追われている私とは、月に数回一緒に食事をしたり、年に一回ほど私の家族と旅行をしたりというつかず離れずの関係で、父が体調を崩した時などには、食事の手伝いや家事をするようにしていました。

昨年6月ごろ、腰痛で病院に行ったという父に、買い物をして届けるなどの手伝いを続けていましたが、ある日「買い物はあるか?」と尋ねたところ、「すっかり良くなって、今も自分で買い物に行ってきたよ」との返事が。数日後に約束していた私の子どもたちとの食事会にも行けると、とても楽しみにしていました。

やれやれ、よかった……と安心したのもつかの間、その食事会の前夜に、遠方に住む妹から私宛てに「パパって今日どこかに出かけるとか言っていた? 電話に出ないの」 と電話がありました。

とはいえ、つい先日も父と電話がつながらず、様子を見に行こうとしているところに父から「いつもと違う時間にお風呂に入っていただけ」いうことがあったばかりでした。そしてこの日は私の仕事が忙しかったことに加え、「どちらにしても明日は食事会で会えるのだから」と考え、父に電話することは控えました。

翌朝、食事会の確認も兼ねて電話をすると、携帯にも家電にも出ない……。さすがにおかしいと思い、慌てて父の家に向かいました。

チェーンがかかっている玄関ドアの隙間から見ると、父が奥のリビングに倒れているような気配がしました。チェーンを切ってもらい、救急車で運ばれた病院で、脳卒中だと告げられました。なぜ昨晩すぐに連絡をしなかったのか……。そんな後悔が、私の頭の中を駆け巡りました。身体(からだ)の状態も決して楽観できるものではなく、このまま父が逝ってしまったらと自身を責めながら、思い出していたのは私が幼い頃の父のことでした。

仕事で忙しくても休みの日には父の膝に乗せてもらい、かわいがってもらったシーンが走馬灯のように頭の中を流れました。

あれから1年。当初は意識不明に陥った父ですが、多くの方にお世話になり、なんとか一命をとりとめました。コロナでなかなか面会できなかった父に、病院を転院するために久々に会った際、「おはよう」と声をかけると、声は出ないながらも目でしっかりと“おはよう”と返してくれた時は、本当にうれしかったです。「生きていてくれてありがとう」と、つくづく父のがんばりに感謝しました。

現在は高齢者ホームに入所し、リハビリに励む毎日。父は若い時からフランス語を趣味で学んでいたほか、忙しい時間を縫って、香りのいいバラを自身で育てていたこともあります。最近は、ホームのエントランスに飾られているお花を私と一緒に眺めてうっとりしたり、調子がいい時には片言の言葉が出るようになりました。

命の大切さ、家族の大切さを身をもって教えてくれた父に感謝し、「生きているものならではの力」で、父を元気にしてくれるお花を贈りたいと応募しました。

「取り越し苦労であって...」食事会の日、つながらなかった父への電話
≪花材≫バラ(アマダ・タマンゴ・ガーネットジェム)、スプレーバラ、ドラセナ

花束をつくった東さんのコメント

バラを自分の手で育て、フランス語もたしなむ--。とても素敵なお父様ですね。そこでお父様も育てていたという、赤いバラをメインにしたアレンジに仕上げました。

使ったのは、「アマダ」「タマンゴ」「ガーネットジェム」という3種類のバラのお花です。一般的にアレンジは、真ん中のお花を葉で取り囲むようにすることが多いのですが、今回はおしゃれなお父様をイメージし、お花の間からドラセナという赤い葉を飛び出させるというユニークなデザインに。

数種重ねることで色のインパクトがますます強くなったバラのアレンジで、お父様に元気を与えられればと思います。

「取り越し苦労であって...」食事会の日、つながらなかった父への電話
「取り越し苦労であって...」食事会の日、つながらなかった父への電話
「取り越し苦労であって...」食事会の日、つながらなかった父への電話
「取り越し苦労であって...」食事会の日、つながらなかった父への電話

文:福光恵
写真:椎木俊介

読者のみなさまから「物語」を募集しています。

こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。

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