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ニッポン銭湯風土記
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愛すべき街「アマ」のええとこ 路地裏に残る唐破風 尼崎「第一敷島湯」

路地裏にたたずむ第一敷島湯=兵庫県尼崎市

旅が好きだからといって、いつも旅ばかりしているわけにはいかない。多くの人は、人生の時間の大半を地元での地道な日常生活に費やしているはず。私もその一人だ。が、少し異なるのは、夕方近くにはほぼ毎日、その地域で昔から続く銭湯(一般公衆浴場)ののれんをくぐることだろうか。この習慣は地元でも旅先でも変わらない。昔ながらの銭湯の客は、地域の常連さんがほとんど。近場であれ旅先であれ、知らない人たちのコミュニティーへよそ者として、しかも裸でお邪魔することは、けっこうな非日常体験であり、ひとつの旅なのだ。

電車が大きく傾く杭瀬駅、大阪との境界にのぞむ街

大阪梅田から阪神電車に乗ると、ものの10分ほどで府県境を越えて兵庫県尼崎市に入る。尼崎は関西では愛着を持って「アマ」と呼ばれるが、その一つめの駅が杭瀬(くいせ)だ。杭瀬駅はカーブの途中にある。普通列車しか止まらず、多くの列車が通過してゆく。その際、通過車両がスピードを落とさずにカーブを曲がれるよう、2本のレールに角度と高低差がつけられている。そのため普通列車は車体を南側へ大きく傾けた状態で止まり、乗降客は傾いた車内を上り下りすることになる。なんとも不思議な体感だ。

【動画】杭瀬駅の上りホーム。電車は大きく傾いた状態で発着する

この駅のホームの端から府県境の左門殿(さもんど)川まで200メートルほどしか離れていない。杭瀬はそんな「境界線上の街」だ。ここに、大阪の銭湯にも神戸の銭湯にもない特徴を備えた1軒の古い銭湯が残っている。

国道側には釜場があり、煙突がそびえ立つ。お湯は薪で沸かされている
国道側には釜場があり、煙突がそびえ立つ。お湯は薪で沸かされている

狭い通路にひしめく店、レトロな小市場

駅を出て国道2号を北に越えると、戦前から続く小さな市場群や商店街がそのまま残っていて、レトロなムードを強く漂わせている。戦後新たに形成された尼崎中心部の活気ある商業地とは異なるこの雰囲気こそが、杭瀬の街を特徴づけているといえる。少し歩いてみよう。


市場にはシャッターも目立つが、真ん中あたりの「杭瀬中市場」では、狭い通路に鮮魚店や精肉店、豆腐店、総菜店などがにぎやかにゆうげの食材を並べる懐かしい光景が今も生きている。

杭瀬中市場にはにぎわいが残っている
杭瀬中市場にはにぎわいが残っている
シャッター街と化している市場の一部
シャッター街と化している市場の一部

こういった昔ながらの市場はどこも存続に苦戦している。中市場でも古くからの店がじわじわと減ってきたが、空き店舗を別のかたちで利用し市場の活性化を図る動きも数年前から出てきたようだ。精肉店の隣の「好吃(ハオチー)食堂」もその一つ。「せかいの屋台メシ」をコンセプトに、週2日+α、いくつかの飲食店が日替わりでランチを提供する。この日は市内でスタンドバーを営む福田真也さんによる「台湾的焼豚丼」……これが美味だった!

愛すべき街「アマ」のええとこ 路地裏に残る唐破風 尼崎「第一敷島湯」
好吃食堂の「台湾的焼豚丼」(700円)。店内のほか店外席もあり、市場の空気を楽しみながら食べられる。営業日は現在、水・土、11:30~14:00過ぎ(なくなり次第終了)

その斜め向かいにある「二号店」という変わった屋号の店をのぞくと、壁に積まれた本箱にびっしりと本が並んでいる。ここはいくつかの古書店が本を持ち寄り、それぞれの「二号店」として共同で運営しているとのこと。市場の中に古書店があるということ自体もユニークだ。

二号店。11:00~16:00、木曜定休+不定休
二号店。11:00~16:00、木曜定休+不定休

鹿児島・沖縄・奄美出身者が多い街 並ぶ故郷の品々

中市場を北に抜けると「杭瀬北市場」が始まる。こちらはさらに通路幅が狭く、シャッターが多くなるが、営業を続ける数軒の店ではちゃんとお客さんが買い物をしている。生き残るにはそれだけの実績と信頼があるのだろう。

さらに北へ抜け、団地に突き当たる手前に「鹿児島物産」がある。杭瀬には鹿児島や沖縄、奄美群島出身の人が多い。今回訪れる第一敷島湯も店主一家のルーツは鹿児島だ。鹿児島物産はその人たちに向けた食材を50年ほど前から提供し続けてきた。店内には甘口のしょうゆや黒砂糖、沖縄そば、トビウオの干物、そして黒糖焼酎や泡盛……などなど、関西ではなかなかお目にかかれない商品がぎっしりと並ぶ。遠く故郷を離れた人たちにとってこんな店が身近にあることはどんなにか心強いことだろう。むろん珍しい南国の品々は鹿児島出身者ならずとも楽しめる。

鹿児島物産の店内。9:00~18:00
鹿児島物産の店内。9:00~18:00

国道開通よりも前からあった、大正期建築の銭湯

さて、市場での買い物を堪能したらいよいよ銭湯へ。第一敷島湯へは歩いて5分とかからないが、初めて訪れる人は見つけるまでに少し「あれっ?」と戸惑うかもしれない。

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