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坂手洋二の「世界は劇場」
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駅弁と、友と、出会い直す コロナ禍下の旅の飲食事情

崎陽軒の「シウマイ弁当」(筆者撮影)

社会的テーマに切り込み、異彩を放つ舞台作品を世に送り出してきた劇作家・演出家の坂手洋二さんが森羅万象を論じます。

この二カ月、朗読会で全国を飛び回っていたという坂手さん。旅先での食事を振り返りながら、コロナ下で失われたものに思いを馳(は)せます。

旅の魅力は、人に会えること

久しぶりに崎陽軒の「シウマイ弁当」を食べた。先月末、京都入りの前、品川で買ってしまった。さまざまな要件が重なった日で、そうした方がいいという予感があったのだ。「駅弁を買わない派」の私としては、例外的なことである。もっとも「シウマイ弁当」を、「駅弁」のカテゴリーに入れてしまっていいのかどうかは、わからないが。案の定、その日は夜の本番を終えるまで何かを食べに行ったり買ってきたりする時間がなかったので、その判断は正しかった。

もう二カ月近く、1人で旅している。もちろん国内である。沖縄から北海道まで、今のところ十三カ所を巡った。新型コロナウイルスに罹患(りかん)した自らの体験談を戯曲化したイギリスの劇作家デヴィッド・ヘアの『悪魔をやっつけろ 〜COVIDモノローグ〜』を、講演会方式のリーディング(私が自分自身の講演をするのに近いやり方で戯曲の内容をつづってゆく形式)として、全国で上演している。途中、間があく時期もあるが、旅は来年まで続く。

「エアロゾル感染」を「空気感染」に近いものと考える人が増えてきた、深刻度の増したこのコロナ禍下のご時世、移動以外はほぼ、劇場か宿に籠(こ)もっている状態だ。「緊急事態宣言」と「まん延防止等重点措置」のお陰で、終演後には開いている飲食店はない。こんなにコンビニの食材ばかりにお世話になった日々も、かつてない。

劇場は客席の50%しか入場を許されないし、観客と俳優の間は最低でも二メートル以上の距離をとる、という公のガイドラインによる規制を受けている。コロナとの闘病体験の劇を上演しつつ、じっさいにコロナ禍の洗礼を受けている。

それでも旅に出る。そんな状況でも旅の魅力は、人に会える、ということだ。

駅弁と、友と、出会い直す コロナ禍下の旅の飲食事情
アーケードの照明が一部消灯され、閑散とする大街道商店街=2021年4月27日午後8時42分、松山市、照井琢見撮影(朝日新聞社)

松山では、終演後、大きなアーケード商店街「大街道」も、ファストフードの店とコンビニしか開いていない状態だった。だが、どうしても話したい人たちがいた。そこで、開催劇場である「シアターねこ」の隣、東雲(しののめ)神社の石段中腹の広場で、真っ暗な中、五メートル以上のソーシャルディスタンスを保ちながら、計三人で缶ビールをいただいた。もちろん話しているときは必ずマスクを着用した。

たいへん充実した交流が出来たが、こうしたコミュニケーションを、どこか後ろめたい思いの中でしなければならないというのは、残念なことであった。

札幌の夜は町の真ん中でも、ラーメン屋さえ開いていなかった。海の幸に恵まれた青森でも、マグロ丼の店などが開いている時間帯には出歩けなかったし、那覇は私が到着した日、沖縄県知事から県民に2週間の外出自粛要請が出た。そして静岡も、私が到着した翌日に緊急事態宣言の適用が決まった。

宿の前にソウルフードの店 旅先で出合った美味 

旅していると各地のいろいろなものを食べられていいですね、と言われたりするが、もともと演劇の旅は移動や準備片付けに追われ、そういう時間を持てないことが多かったりする。せめて夜に期待するわけだが、それにしても、静岡、京都、松山、岡山、たつの(兵庫)といった、盛り場が魅力的な町でも、居酒屋営業は御法度なのだ。

昼食には、地元のものをいただくケースも、まったくないわけではなかった。そうめんで知られるたつのでは、にゅうめんをいただいたし、二日滞在した松山では、広島ふうお好み焼きのルーツという説もあるソウルフード・三津浜焼きの店が宿の目の前にあったのが、僥倖(ぎょうこう)だった。

駅弁と、友と、出会い直す コロナ禍下の旅の飲食事情
たつので食べたにゅうめん(筆者撮影)
駅弁と、友と、出会い直す コロナ禍下の旅の飲食事情
三津浜焼き(筆者撮影)

京都で買ったパンが翌日の夜に残っており、上演を終えた後の夜移動で、駅構内のコンビニで買って温めてもらったグラタンと一緒にいただいた。ナイスアイデアだと自分では思ったのだが、この話を聞くと、かわいいと思う人と、かわいそうと思う人に、分かれるようだった。

ともあれ、コンビニ通いが増えすぎた反動か、この旅の最後、東京に帰る新幹線に乗る前、姫路で駅弁を買ってしまった。「炙(あぶ)り煮穴子と焼き穴子のあいのせ重」である。穴子は、タレなしで炙ってわずかな塩でいただくときの甘みを、うまいと思う。

他の地域では駅弁の穴子はタレ焼きのものが多いのだが、タレなしで炙ってあるのは、たいへん贅沢(ぜいたく)である。もちろん焼きたてではないが、駅弁ならではの馴染(なじ)みかたで、ありがたく味わった。「あいのせ重」じたいは、瀬戸内のものらしく、福山でも売っているらしい。

駅弁と、友と、出会い直す コロナ禍下の旅の飲食事情
姫路駅で買った「あいのせ重」(筆者撮影)

しかし、新幹線の車内販売も、アルコール類は提供していなかった。列車内で弁当をいただくときは、それがバカンスの旅であれば、多彩なおかずが酒の肴(さかな)となる。シューマイが五個、唐揚げ、マグロの照り焼き等も入っている「シウマイ弁当」もそうだった。酒を飲まないときは、ご飯の量に対しておかずが多く、贅沢な気持ちになるのだが、そればかりが続くと、さすがに虚(むな)しくなる。

「安全」と引き換えに失うものの多さ

そして帰京後、政府が11月をめどに、酒類を提供する飲食店や劇場への行動制限規制を段階的に緩和するという報道があり、一瞬は喜んだ。

政府は、ワクチン接種済みであることを示す「ワクチン・パスポート」を推進する考えを打ち出している。劇場や飲食店で確認する形で、QRコードの導入も考えているらしい。

しかしそれは必ずしも「朗報」だろうか。「ワクチン・パスポート」は、ワクチンを打たない意思を持つ人たちとの間で、「自己決定権」を巡る論議が起きることは、必至である。因果関係は認められていないが、ワクチン接種後の死亡例も公式に報告されており、接種に抵抗のある人も一定数、いる。個人的には、そうした規制は、基本的人権に抵触すると思う。

西村康稔経済再生相は9月9日、ワクチン未接種の人向けに発行する「陰性証明」に、PCRに加え抗原検査の簡易キットも活用する方針を示した。未接種の人も検査で陰性が証明されれば行動緩和の対象となるようだが、簡易キットは精度が疑問視されているし、厚生労働省が市販化を認可したとしても、その費用を誰が負担するのかという問題が残る。

駅弁を買うか買わないかという判断を越えて困惑を余儀なくされる、コロナ禍下の旅の飲食事情だが、「安全」と引き換えに失うものの多さを、思う。

飛沫(ひまつ)防止のためには透明アクリル板の仕切りが必要なのだが、つまり、誰かと共に食事をしても、においや湯気のような口に入れること以外の要素は共有できない。それはさみしいことだ。

感染防止のため、極端に簡素化しているという学校給食を、子供たちが会話無しで食べているという話には、胸が痛む。それぞれ3年しかない中学・高校生たちも、そのほとんどをコロナ禍の中で過ごした同級生たちは、クラスメイトとの豊かな思い出を残すことができたのだろうか。

人生という旅もまた、道連れが必要だ。一人旅は、大人になってからの自由選択で、いいはずだ。友に会えてこそ、訪れる町の魅力は増す。

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