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アンチ贅沢。“否定”を活力に変えた、シャネルの生き方

撮影/猪俣博史

『シャネル ─その言葉と仕事の秘密』

私が担当している旅行書の棚のフランスに関する本は、ガイド本をはじめ食にまつわるもの、フランス人のライフスタイルや暮らし、パリジェンヌをお手本とするファッションまで、さまざまな内容の本が集まっています。なかでも、長く女性に支持されている本のタイトルを見てみると、「シャネル」の文字がたびたび目に留まります。多くの女性を惹(ひ)きつける「シャネル」の魅力とは……。

今回は、20世紀初頭から半ばにかけて、世の中が大きく変動した時代に生きたひとりの女性、シャネルの姿を、彼女が残した言葉とともにつづった『シャネル その言葉と仕事の秘密』をご紹介したいと思います。

著者は、フランス文学者の山田登世子さんです。山田さんの著書には、『シャネル―最強ブランドの秘密』や『晶子とシャネル』のほか、『ブランドの条件』『モードの誘惑』『贅沢(ぜいたく)の条件』など、本書の中でもキーワードとなる言葉がタイトルに見られる本がいくつもあります。また、訳書の一つであるポール・モラン著『シャネル 人生を語る』は、何度もモランのシャネル伝を読み返し、シャネルの言葉に惹かれたという山田さんご本人が強く影響を受けた一冊です。

シャネルが生きた時代、それは貴族の消費財が大衆にも伝播(でんぱ)し、消費社会が成熟していった過程でもありました。かつてヨーロッパでは、貴族はいくつもの装飾を施された高価なファッションを身にまとい、それを贅沢としていました。本書では、プルースト著『失われた時を求めて』に登場する名門貴族の公爵夫人を通して当時の貴族の気高さを表しながらも、シャネルがこうした贅沢を嫌い、強く否定していたことが分かります。

いったいなぜわたしはモードの革命家になったのかと考えることがある。自分の好きなものをつくるためではなかった。何よりもまず、自分が嫌なものを流行遅れにするためだった。

シャネルの登場は、まさにモード革命の始まりでした。山田さんが、初めてシャネルの言葉に出会った感動をそのままつづったという小論「シャネル 皆殺しの天使」について冒頭で触れられているのを見た時、「なんと強烈なインパクトのあるタイトルなのだろう」と私は感じましたが、次第にそれはまさにシャネルの人生そのものだったことに気づきます。

1900年代、多くの女性にとって価値があるとされた思考や行動は、シャネルにとって窮屈かつ退屈なものであったに違いありません。贅沢とされた装飾過剰な衣装に対してはアンチ・ゴージャスを唱え、そこから今日でも受け継がれているシャネルのシンプルな黒と白のモードを確立させます。

ほかにも、服にジャージー素材を取り入れたこと、日常のリラックスした装い、ショルダーバッグ、リップスティック、バイカラーのヒール、そして私たちが身につけている「アクセサリー」まで、いま日常にあるいくつものファッションがシャネルによって生み出されていたことには、驚かずにはいられません。シャネルが何を思い、どのようにモード革命を起こしてきたかの描写は、まさに本書の読みどころの一つと言えます。

どうしてシャネルの言葉に、私たちの心は強く惹かれるのか……? それは、海を越え、世代を超えて、シャネルというブランドが多くの女性にとって憧れの存在であり続けるからというだけでなく、むしろ「ココ・シャネル」という一人の女性の生き方が刺激的であり、魅力的であり、勇敢であるからに他ならないと強く感じます。シャネルは、現代の女性が抱くような価値観も持ちあわせていました。

1917年、わたしはふさふさとした髪を切った。初めは少しずつ切っていたけれど、最後は思い切って短くした。
― なぜ髪を切ったりなさったの?
― 邪魔だからよ。

本書にある「働く女が働く女のために作ったモード」「シンプルこそがエレガンス」という表現は、私にとってシャネルを象徴するかのような言葉です。そして、起業家として自らの力で生きるシャネルが、仕事をしながらも恋をし、時には仕事か結婚の選択をしていく姿は、同じ働く女性として共感でき、なんだかほっとする部分でもあります。

まちがった贅沢は消滅しなければならない――。そんな“否定”から始まったシャネルのモード革命。では、シャネルにとっての本当の贅沢とは何だったのか……。こたえは本書でも触れられていますが、シャネルが残した言葉と軌跡は、同じ女性として私たち一人ひとりに、それぞれのメッセージを届けているように思えてなりません。

アンチ贅沢。“否定”を活力に変えた、シャネルの生き方
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PROFILE
藤井亜希子

ふじい・あきこ
湘南 蔦屋書店 旅コンシェルジュ
旅行会社勤務時代は、海外ホテルやオプショナルツアーなど現地への手配を担当。その経験を生かし、ハワイ・北欧・フランス・イギリスなどを中心に、旅行書の選書をはじめ世界各国の自然や文化、人々の暮らしなどその土地にまつわるフェアや旅行イベントを提案。プライベートでは、自他ともに認めるハワイラバー。

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