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いしわたり淳治のWORD HUNT
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高度な作詞術 Creepy Nuts『のびしろ』が示した「伝え方」の本質

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載ではいしわたりが、歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の7本。

 1 “俺らまだのびしろしかないわ”(Creepy Nuts『のびしろ』/作詞:R-指定)
 2 “ご機嫌こそ最強”(銀シャリ 橋本直)
 3 “これはシャクシュカです。”(Pasco「超熟フォカッチャ」のCM)
 4 “工業高校の学園祭でウケたら一人前”(小籔千豊)
 5 “キャパい”(ゆうちゃみ)
 6 “時代を追うな”(タモリ)
 7 “デジタル庁”

日々の雑感をつづった末尾のコラムも楽しんでほしい。

高度な作詞術 Creepy Nuts『のびしろ』が示した「伝え方」の本質

HIPHOPの枠を超えてタレントとしてもすっかりお茶の間に浸透した感のあるCreepy Nuts。HIPHOPマナーでは、これから俺はのしあがるんだとか、メイクマネーするんだとか、いかに自分がすごいか、みたいなことを直接的に言葉にすることも多いのだけれど、それとまったく同じ内容を彼らならではの脱力感と一流のスキルでリリックに落とし込むと、つまりは「俺らまだのびしろしかないわ」という言葉に変わるのだなと思って感心した。

「おれたちはハンパねえ、やったるぜ、お前ら見てろ」というような高圧的な物言いはどうしてもある意味で聞く人を選ぶというか、構えてしまう人も多いだろうと思う。自分の思いを伝えようとする時、大切なのは伝え方である。できることなら、TPOに合わせて、歯に衣(きぬ)をおしゃれに着せることができたほうが、絶対にいいのだとあらためて思った。

高度な作詞術 Creepy Nuts『のびしろ』が示した「伝え方」の本質

8月30日放送のテレビ朝日『さまぁ〜ず論』でのこと。さまぁ〜ずの大ファンであるという銀シャリの二人がゲストだった。橋本さんが「人って、面白いことを言うとか、エッジの利いたことを言うんじゃなくて、“ごきげんなやつ”が最強なんですよ」と言い、さまぁ〜ずの二人は常にごきげんで、オチのある話じゃなくても永遠に二人で話せて、しかもそれが年を取ったことで太極拳の極みのように今はまったく力んでなくてさらに最強になっていると力説していた。

その通りだなと思った。いつもごきげんな人はそばにいて嫌じゃない。自分も出来ることならいつもごきげんでいたいものである。

去年あたりからオンラインの打ち合わせが増えた。真剣に仕事の話をしている時の自分の顔を初めて客観的に見て、私はこんなにも恐ろしい形相で仕事をしていたのかと愕然(がくぜん)としたのを覚えている。

以来、自分の目に映る世界は、自分の目尻と口角の角度で決まるのかもしれないと思うようになった。もし、いつも目尻を吊(つ)り上げて、口角を下げていたら、自分に接する人たちは皆「不機嫌そうな人に接する時の態度」を取る。そうなると、自分をとりまく世界はそういう態度の集合体で出来上がることになる。

常にマスクをしていなければならない生活を逆手にとって、このごろ頃はマスクの中でわけもなく口角をぎゅんぎゅんに上げて怖いくらいの笑顔で暮らしてみたりしている。そのうち普段の表情に良いクセがついてくれないかしらと思いながら。穿き込むうちに真っ青なジーンズにいい色落ちが出るみたいな感じで、自分の表情にもごきげんなしわが出ないかなと。

高度な作詞術 Creepy Nuts『のびしろ』が示した「伝え方」の本質

ある日、「これは作詞家です。あ、作詞家風です」とテレビから聞こえてきて驚いた。振り返ると女優の杉咲花さんが熱々のトマト系の料理をおいしそうに食べていた。私は作詞家を生業(なりわい)にしているけれど、そんな言葉はCMどころか日常会話にだってなかなか出てくるものではない。

調べてみると「これはシャクシュカです。あ、シャクシュカ風です」と彼女は言っていたようである。とはいえ、「ああ、そっか。なあんだ、シャクシュカかぁ〜」とはならない。むしろ「シャクシュカって何?」という新しい疑問が生まれたので、再び調べてみると、シャクシュカというのはイスラエル料理の一つで、ニンニク、パプリカ、玉ねぎなどをトマトソースで軽く煮て卵を割り落とした家庭料理のことらしい。

ニューヨークやロンドンのしゃれた人々の間で少し前から人気なのだという。なるほど。知らない料理が次から次へと出てくるものだ。私も今度作ってみよう。料理名はもちろん『作詞家のシャクシュカ』だ。

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