フィンランドで見つけた“幸せ”
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思い出と沈黙の場所 シベリウスの終のすみかアイノラ

シベリウス一家が暮らしたアイノラ

「ヤルヴェンパーの沈黙」を思う

1920年代まで経済的に苦しかったシベリウスは海外への仕事で不在にすることも多かった。家庭の日々の暮らしを支え、5人の娘たちを立派に育てあげたのは、アイノの力によるところが大きかったようだ。そんなアイノとシベリウスは、アイノの音楽家の兄アルマスを通して知り合った。

思い出と沈黙の場所 シベリウスの終のすみかアイノラ
9月のアイノラの庭

庭づくりを愛し、花や野菜を作ったアイノ。アイノラの庭には、今も夏になると花が咲き乱れ、アイノが設計したサウナもある。そして、シベリウス夫妻は、この庭の片隅で静かに眠っている。

思い出と沈黙の場所 シベリウスの終のすみかアイノラ
アイノが設計したというサウナ
思い出と沈黙の場所 シベリウスの終のすみかアイノラ
シベリウスとアイノの墓。添えられた「アイノ・シベリウス」の文字が愛らしい

シベリウスは1920年代後半ごろからは、大規模な作品を発表することはなかった。国際的にも高く評価された作曲家の長い空白の期間は、アイノラのある場所から、「ヤルヴェンパーの沈黙」と呼ばれている。しかし、シベリウスはその後も作曲には取り組んでいた。

実際、交響曲第8番はかなりの部分書き上げられていたようだが、シベリウスは1940年代、この交響曲を含むと思われる多くの譜面を焼き捨ててしまった。

思い出と沈黙の場所 シベリウスの終のすみかアイノラ
シベリウスの仕事場と寝室。1940年以降、シベリウスは2階から仕事場を階下に移し、ここで作曲した。作曲にはほとんど楽器を使わなかったという

3月の終わりにアイノラを訪れたとき、案内してくれた学芸員の方が、真っ白な雪に覆われた湖を指さしてこう言った。「春が来ると、ここには白鳥たちがやって来て夏を過ごし、冬が来る前に旅立っていくのよ。もしかしたら、その中にはシベリウスが見た白鳥の孫の孫のそのまた孫がいるのかもね」

アイノラのことを思い出すとき、シベリウスのピアノの小品「樅(もみ)の木」がいつも静かに心の中を流れている。少し憂いを含んだメロディーは、北国の厳しい冬にも耐え、けなげに立っている樅の木に似つかわしい。

そして、そのメロディーに耳を傾けていると、かつてのアイノラに流れた家族のあたたかく美しい時間、そして、作曲家として成功した後も、ついに完成することのなかった幻の作品を追い求め続けた、シベリウスの沈黙のその内側へと思いをはせずにはいられないのだった。

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