宇賀なつみ わたしには旅をさせよ
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トンネルを抜け伊豆半島の落居へ 宇賀なつみがつづる旅(25)

フリーアナウンサーの宇賀なつみさんは、じつは旅が大好き。見知らぬ街に身を置いて、移ろう心をありのままにつづる連載「わたしには旅をさせよ」をお届けします。宇賀さんが2019年に訪れたのは、静岡県南伊豆町の落居(おちい)地区。トンネルを抜け、たどり着いた世界で気付いたこととは。

「つながらない 落居」

「トンネルを抜けると……」
かの有名小説の書き出しを思い出す。

長いトンネルを抜けた先は、雪国ではない。
楽園? 異世界? 秘境の村?
どんな言葉が、いちばんしっくりくるだろうか。

2019年9月。
ようやく秋めいてきたある週末に、
私は伊豆半島の南端で、海を眺めていた。

会社を辞めて独立したその年は、
自由な時間ができたことで、友達が増えた。

友達なのか、知り合いなのか、
大人になると、真面目に分けて考える人もいるが、
個人的には、プライベートで会えば、皆友達でいいと思っている。

そんな新しい年上の友達に、海に行こうと誘われた。
「電波も届かないようなところなんだけど」と聞いて、
これはいいと思った。

読みたいと思っていた本や、
考えなくてはいけないあれこれをバッグに詰め込んで
特急電車に揺られ3時間。駅からさらに車で1時間。
ようやく目的地である、落居という集落に着いた。

トンネルを抜けた瞬間、
時間の流れが変わったのがわかった。
スマホの画面を見ると、電波は1本立つか立たないかだった。

トンネルを抜け伊豆半島の落居へ 宇賀なつみがつづる旅(25)

観光客は私たち以外に数人。
初めて来たのに、親戚のような感覚で、
地元の人は皆ゆっくり優しく話しかけてくれる。

太平洋を眺めながらビールを飲んだ。
時々漁船が通る。
ダイビングをしている人もいた。

もう十分焼けてしまっていたから、
紫外線なんて気にならない。
ハイビスカスが元気に咲いていた。
ここでは、夏が終わらないのかもしれない。

トンネルを抜け伊豆半島の落居へ 宇賀なつみがつづる旅(25)

そのまま、夕日が沈むまで、何もしなかった。
何もしていないから、
自分とたくさん会話することができた。

民宿では、自分たちで食事を用意する。
最年少だから、いちばん働くつもりでいたのに、
「初めてなんだからゆっくりしてて」と言われて、
つい甘えてしまう。
結局、七輪の干物を眺める係になった。

トンネルを抜け伊豆半島の落居へ 宇賀なつみがつづる旅(25)

食堂の長いテーブルの端には、
知らないグループやひとり客もいたが、
数時間後に気づいてみると、
おかずを分け合いながら皆一緒にお酒を飲んでいた。

すっかり楽しくなって、海まで星を見に行くことになった。
街灯がないので、驚くほど真っ暗。
最初は少し怖かったが、だんだん目が慣れてくる。

空を見上げると、
信じられないくらいの星くずが散らばっていた。

伊豆半島で、こんな星空が見られるなんて。
「あ、流れ星!」
誰かが叫んでいた。
皆でしばらく、道に寝転がっていた。

翌朝、台所に下りていくと、
大きな鍋の中に、
イセエビが丸ごと入ったおみそ汁が出来上がっていた。
知り合いの誰かがくれたらしい。

テーブルにはイセエビの刺し身も出ていて、
顔も洗わずに、そのまま朝ごはんを食べた。
こんなぜいたくがあるだろうか。
なんだか悪い子になった気分だった。

気づけば2日間、誰とも連絡をとっていなかった。
今居る場所以外の世界と、四六時中つながっていることが、
すっかり当たり前になってしまったが、
果たして、本当に必要なことなんだろうか?

つながっているつもりで、
目の前にあるものを、見落としていないだろうか?

技術の進歩は素晴らしいけど、
決して、私たちが賢くなったわけではない。

トンネルを抜け伊豆半島の落居へ 宇賀なつみがつづる旅(25)

海の色や波の音や風の匂いを、
しっかり感じ取るには、手間も時間も必要。
そうして心の中に残ったデータが、
気づかないうちに、自分の力になっていると思う。

これからも、たまにはトンネルを抜けて、
あえてつながらない世界に行こう。

そんなことを考えながら、夏を終わらせた。

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