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近代建築の巨匠ル・コルビュジエ、幻の自動車構想

「ル・コルビュジエ—旅・オブジェそしてコレクション」展の会場 (photo : Pinacoteca Agnelli)

次はル・コルビュジエとフィアットの関係である。筆者がさまざまな資料を確認しただけでも、彼は1925年、1932年、1934年そして1942年にトリノを訪れている。なかでも1934年には、トリノのリンゴット地区にあるフィアット本社工場の屋上テストコースで同社の1車種「バリッラ」を操縦したり、懐中時計を手にして走路に立つ写真を残したりしている。

ル・コルビュジエ展
1934年、フィアット・リンゴット本社工場の屋上テストコースで、「フィアット・バリッラ508Sコッパ・ドーロ」のステアリングを握る (photo : Fondation Le Corbusier)

そしてヨーロッパでも極めて先進的だったその建築物に感銘を受け、「そうだ、産業にとって最も印象的なスペクタクルのひとつだ」と絶賛している。

こちらも残念ながら詳しい解説がなかったが、展示された書簡をよく読むと、さらに名建築家とフィアットの興味深い関係がわかってくる。ル・コルビュジエは、ヴォワテュール・ミニマムの量産化実現を1936年10月6日付書簡でフィアットに打診しているのだ。自ら考案した自動車を製品として世に出すことを、コンクール応募と同年に模索していたことになる。

フィアットによる返信もあった。同9日付で「あなたがご存じのように、私たちはすでに小型車を研究し、イタリア生産に加えフランスのシムカ社でもライセンス生産しています」と説明して、丁重に申し出を断っている。ル・コルビュジエは他のメーカーにも同様に打診していたとされるが、こうした書簡を目の当たりにすると、彼の自動車への熱意が再びひしひしと伝わってくる。

ちなみに、今回企画展が催されたアニェッリ絵画館は、その屋上テストコース上に、建築家レンゾ・ピアノの手によって設計されたものである。

近代建築の巨匠ル・コルビュジエ、幻の自動車構想
旧フィアット・リンゴット本社工場の屋上にあるアニェッリ絵画館。(photo : Stellantis)

ピュリスムの自動車版

今日よりも自動車と建築の垣根が低かった時代である。仮に第2次世界大戦の断絶がなければ、名建築家の自動車が日の目を見ていたかもしれないと思うと惜しい。例のヴォワザンは戦後、ヴォワテュール・ミニマムに着想を得たことをにおわせる車「ビスクーター」を製造している。だがサイズが異なる超小型車であり、ル・コルビュジエの意図が100%反映されたものとは言い難い。

かくも幻に終わったル・コルビュジエの自動車構想であるが、生誕100年である1987年、イタリアを代表する工業デザイナーのひとりジョルジェット・ジウジアーロによって、木製の原寸大模型が制作された。これは現在、トリノ自動車博物館に収蔵されている。

近代建築の巨匠ル・コルビュジエ、幻の自動車構想
旧フィアット・リンゴット本社工場のアニェッリ絵画館から、今日も残る屋上テストコース跡を望む。2021年7月撮影  (photo : Akio Lorenzo OYA)

ル・コルビュジエは建築家として活躍する以前、画家として活動していた。ピュリスム(純粋主義)を提唱、作者の主観主義に走った従来のキュビスムを批判した。その代わりに、幾何学的かつ明快な画面構成を目指した。

昨今、車にとどまらず工業製品の多くは、過剰にエモーショナルなキャラクターラインやフォルムを抱いている。加工技術の進歩の功罪だ。そうしたなか、ヴォワテュール・ミニマムは、ピュリスムの自動車版であり、ものづくりにおけるひとつの原点を示している。

(写真/大矢アキオ Akio Lorenzo OYA、Fondation Le Corbusier, Pinacoteca Agnelli, Italdesign, Stellantis)

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