THE ONE I LOVE
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目の前に歌い手が存在するかのよう “亡霊感”のある音を追求する柴田聡子

こんな時代だからこそ、愛を聴きませんか、語りませんか──。実力派アーティストが“愛”にまつわる楽曲を紹介する連載「THE ONE I LOVE」。

今回は、10月6日に配信シングル「雑感」をリリースした柴田聡子が選曲。“愛の歌”という選曲テーマに際し、柴田は「人類、生き物、自然など、恋愛や友情に限らず、包括的に愛について考えられるもの」を念頭に選んだという。その結果、世界的ヒットナンバーから定番歌謡曲、知る人ぞ知るインディーロックまで、ある種統一感のないプレイリストが完成。新曲「雑感」で彼女自身が表現した“とりとめのなさ”とも符合する印象の選曲について、その意図をじっくりと語ってもらった。

〈セレクト曲〉
01. TLC「Waterfalls」
02. Michael Jackson「Man in the Mirror」
03. SaToA「勇敢な君へ」
04. テレサ・テン「別れの予感」
05. 柴田聡子「雑感」

■TLC「Waterfalls」

TLCはすごく好きなんですけど、実際に聴き始めたのは2002年のアルバム『3D』くらいからなので、1995年にリリースされたこの「Waterfalls」は後追いで聴きました。「Don’t go chasing waterfalls(滝を追いかけてはいけない)/Please stick to the rivers and the lakes that you’re used to(慣れ親しんだ川や湖を大切にしよう)」というフレーズがある通り、刺激的なものばかりに価値を置いてしまう危険性を歌った曲です。基本的にはリリース当時の社会問題を歌った内容ではあるんですが、今の時代にもそのまま通ずるメッセージだなというふうに思っていて。心に留めておく価値のあるフレーズだと思いますし、こうやって曲がずっと残ってくれていることによって、その注意喚起をずっとしてくれているようなありがたさを感じますね。

私の作る音楽にはブラックミュージックからの影響をあまり感じないかもしれませんが、実はルーツの一つになっているんじゃないかなと思っていて。バンドメンバーに曲をアレンジしてもらうとき、私からは何も言わなくても、曲を聴いたアレンジャーが「これはスライ(&ザ・ファミリー・ストーン)の感じでやってみるよ」とか、ブラックミュージックの要素を自然とくみ取ってくれることが多いんです。グルーブ的にも「前に寄るよりは後ろめのほうがいい(※)」という話は以前からよくしてましたし、意識はしてなかったんですけどブラックミュージックの影響は意外と色濃いのかもしれません。

※音符で示されるリズムより早めのタイミングで演奏することを“前ノリ”、遅らせて演奏することを“後ノリ”と呼ぶ。一般的に黒人音楽では“後ノリ”気味のリズムが好まれる傾向にある。

■Michael Jackson「Man in the Mirror」

これもTLCと一緒で、いま聴いても響くメッセージだなって。「I’m starting with the man in the mirror」、つまり「この鏡に映っている(ありのままの)自分から始めよう」みたいなことですけど、マイケルほどの影響力を持っている人が歌ったからこそ、これだけ響くような感じがします。「自分の頭で考えて、自分から動かないと意味ないぞ」というのは、いつの時代の誰にとっても必要な決意だと思います。

この曲は、音のデザインもすごく好きで。音が大きく聴こえるバランスというか、レコーディングエンジニアさんからも理想的なサウンドデザインの作品として名前が挙がったりします。エッジの立った音でありながら温かみもあって……やっぱり温かい音が好きなんですよね。それは時代がどんなに流れても、私の中で変わらなかったことだと思います。

私の最近の音作りのテーマとして、“立体感”と“亡霊感”を意識しています。“亡霊感”というのは、“実存感”とも言い換えられると思うんですが、二つのスピーカーの間にある何もない空間に、演奏している人の姿が浮かび上がってくるようなイメージ。ただベタッと音が鳴っているのではなく、そこに立体物があるように感じられる音の鳴り方にすごく神秘を感じます。その音像に達するのはなかなか難しいことではあるし、実際にそれを実現するのは私ではなくエンジニアさんなんですけど(笑)。

■SaToA「勇敢な君へ」

SaToAの皆さんとはお友達で、一緒にお茶したりツアーをしたりする関係性。最近は会えてないですけど、常に「いま何してるのかな」と動向を気にしているし、新譜が出たら必ずチェックします。そのSaToAが7月にニューシングルを出したので聴いてみたら、すごく響きました。「よく知っている好きな人たちが作った新しい歌がすごい」と感じられたことがうれしくて、とても温かい気持ちになりました。この曲を聴いている時間は愛に満ちあふれていたので、そういう意味での“愛の歌”として選んでみました。

この作品は単純に恋を歌ったものではなく、もっと広い何かを見ている感じがあります。「勇敢な君が見てる」というフレーズがありますけど、その「君」との距離感を簡単には言い表していないですよね。作為的に「この言葉とこの言葉をこうつなげてダイナミクスを起こそう」という意識ではなく、ちゃんと誠実に言葉を選んでいる感じがします。それでもちゃんとピリッとしたものがあって、意外性もあるのが面白いです。もちろん歌詞だけじゃなく、メロディーやアレンジ、楽曲の流れも含めて優しいんだけど、冒険もあって。それらが全部絡み合って、総合的な音楽表現として強いものになっている。SaToAのそういうところが好きです。

■テレサ・テン「別れの予感」

私が1歳のときにリリースされた曲なので、もちろんリアルタイムではなく後追いです。初めて聴いたのは、20代なかばくらいのときですね。当時の私は1stアルバムを出したくらいの頃で、音楽を一緒にやる人が増えてきたことでいろんなインプットが増えていた時期で。その中で、「亡くなった後もこれだけ世界中で愛され続けていて、毎年のようにベスト盤がリリースされるほどの人って、一体なんだろう?」と興味を持ったのがきっかけです。

「時の流れに身をまかせ」とも迷ったんですけど、あっちはストレートに泣かせにかかっている曲調なので(笑)。「別れの予感」は謎のアップテンポというか、軽やかなサウンド感と曲調で絶望を歌っているところがどうしようもなく胸に響くなと思って、こちらを選びました。“希望の先の絶望”という感じが、より絶望感を引き立たせている気がします。歌声からして、とてつもなくピュアでクリアですし。当時のレコード会社と(作詞の)荒木とよひさ先生は、なぜこれをテレサさんに歌わせようと思ったんだろう(笑)。でも不思議とそこに違和感はなくて、彼女が歌うことで、歌詞の意味以上の何かがきちんと生まれている感じがします。これもやっぱり、総合的な意味で気持ちを持って行かれた曲ですね。

■柴田聡子「雑感」

去年、ツアーが開催延期になっちゃったので、その日程に合わせて配信ライブをやったのですが、「最終日に新曲をやりたいな」と思って作ったのがこの曲です。会いたい人に気軽には会いに行けないご時世になって思うことだったり、もう会えない人に対しての「死んだばあちゃんなら、なんて言うかな?」という思いだったりを考えながら、つれづれなるままに書きつづった感じです。浮かんでは消えていくいろんな思いや考えが、まとまりきらないまま連なっているような歌詞ですが、自分の中では1本につながるんですよ。あまり自分の中で考えていないことを、人に聞かれるがまま答えていくような感じで曲が進んでいけばいいなと。

ある意味とりとめのない歌詞なので、ライブで歌うときはわりと間違えやすいです(笑)。でも、書くときにそういうことは一切考えないですね。歌えないメロディーも平気で書くし。楽曲構造としても、この曲は基本的に定型のコード進行がループするような作りなんですけど、ところどころで少し違います。演奏してくれるバンドメンバーにとっては、わなが仕掛けられている感じというか(笑)。「完全にループにしちゃえば演奏しやすいのに」という話ではあるんですけど、それでも私は変えたくなっちゃうんですよね。ちょっと塩を振って味付けしたくなる。そこにどれだけ意味があるのかはわからないし、すごく微妙な差でしかないのかもしれないけど、「こっちのほうがいい気がする」という直感はそのまま採用しています。

(取材・文/ナカニシキュウ、企画制作/西本心〈たしざん〉)

★他のアーティストのインタビューはこちら

■柴田聡子「THE ONE I LOVE」プレイリスト
■柴田聡子『柴田聡子のひとりぼっち’20 in 大手町三井ホール』(Blu-ray)
目の前に歌い手が存在するかのよう “亡霊感”のある音を追求する柴田聡子

日本全国をひとりでまわる12カ所13公演の弾き語りツアー「柴田聡子のひとりぼっち’20」 その千秋楽、東京・大手町三井ホール公演を完全収録。

PROFILE
柴田聡子

1986年生まれのシンガー・ソングライター。2012年の1stアルバム『しばたさとこ島』を皮切りに、これまでに5作のオリジナルアルバムを発表。2021年10月には配信シングル『雑感』およびライブBlu-ray『柴田聡子のひとりぼっち’20 in 大手町三井ホール』をリリースした。ライブ活動や音源制作のほか、楽曲提供、文芸誌への寄稿、映画・ドラマ出演など活動の場は幅広い。独特の言語感覚と意外性のある視点で紡がれる歌詞世界や、思慮深さとイノセンスを併せ持った特徴的なクリアボイスで、業界内外からの熱視線を一身に集めている。

【LIVE SCHEDULE】

柴田聡子のひとりぼっち’21

2021年10月16日(土) 東京 日本橋三井ホール
※会場は昨年の「大手町」ではなく「日本橋」三井ホールとなります。ご注意ください。
チケット 全席指定¥4,000(税込み・ドリンク代別) 

https://shibatasatoko.com/archives/show/hitoribocchi21

【関連リンク】

柴田聡子 / SHIBATA SATOKO | 柴田聡子オフィシャルウェブサイト
https://shibatasatoko.com/

柴田聡子|Shibata Satoko (@sbttttt) · Twitter
https://twitter.com/sbttttt

柴田聡子 SHIBATASATOKO(@batayanworld) •Instagram
https://www.instagram.com/batayanworld

柴田聡子(シバタ サトコ) | SPACE SHOWER MUSIC
https://spaceshowermusic.com/artist/11815060/

柴田聡子 / Satoko Shibata STAFF (@sbtstk_staff) · Twitter
https://twitter.com/sbtstk_staff

Podcast「柴田聡子のシャムゴッド・トーク・ドリル」
これまでYouTubeチャンネルのみで公開されていたWEBラジオ企画「シャムゴッド・トーク・ドリル」がSpotifyポッドキャストでも視聴可能に。

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