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作り手の熱量を感じさせるデザインと実績の魅力 メルセデスAMG

「レッドピッグ」と愛称がつけられていた

クルマがおもしろいのは、カッコイイというときの概念が、かなり広義であること。たとえば、流麗なスタイリングをカッコイイという人がいるし、大型SUVの押し出しの強さをカッコイイと思う人だっているだろう。

メルセデス・ベンツの「AMG300SEL6.8」を私はすばらしくカッコイイと思っている。このクルマのばあい、スタイリッシュとはいえない。でも、じつに個性的なパワーの表現として傑出しているように感じているのだけれど、どうでしょう。

24時間レース出走のため灯火類フル装備
24時間レース出走のため灯火類フル装備

目玉が飛び出してしまったようなヘッドランプや、くちびるがもぎ取れて歯がむき出しになったようなバンパーレスのグリル……。表現がグロですみません。ものすごい迫力だ。

こんなの、カッコ悪い、という人だっているかもしれない。でも、作り手のものすごい熱量を感じさせるデザインや、じっさいにレースでみごとな成績を残した実績ゆえ、大きな魅力を持つ。

いまでこそ、AMGは高級で高性能なモデルとして世界中で人気だ。AMG300SEL6.8こそ、AMGとメルセデス・ベンツを結びつけ、人気のベースになったといえるモデルである。

当時のメルセデス・ベンツの高級大型セダンであるSクラス(コードネームW109)をベースに、ハンス・ベルナー・アウフレヒトと、エアハルト・メルヒャーが、不要なものはすべてはぎ取り、エンジンとサスペンションを強化して、耐久レース仕様に仕立てあげた。

AMGが大きなメルセデス・ベンツのセダンをベースにレース車両を作ろうとしたのは、おそらく、300SEL6.3(68年)というパワフルなモデルが存在していたからだろう。そのうえを行く高性能を追究して、排気量をさらに大きくしたのだ。

AMG社の本領発揮はエンジンチューニング
AMG社の本領発揮はエンジンチューニング

たぶん当時は、メルセデス・ベンツは公式にはこれを自分たちのクルマと認めていなかったはずだ。小さなチューナー(クルマの性能を上げてレースなどをする専門家)の仕事、といったぐらいの位置づけだろう。

ただし、AMGの仕事ぶりは徹底していた。300SEL6.3同様、ジョージ・ハリスンやエリック・クラプトンも乗っていた「メルセデス・ベンツ600」という、性能も装備も世界最高をうたったセダンに搭載されていた6332ccV型8気筒エンジンをベースに、排気量を6835ccにまで拡大。

エンジンでは、摩擦を減らすべく高精度に仕上げたカムシャフトや、カムの動きに合わせてバルブを開くロッカーアーム、軽量化したコネクティングロッド(ピストンの上下運動をクランクシャフトに伝える部品)、大径化した吸気バルブ、内部研磨した吸気および排気用ダクト、レースカー用エグゾーストシステムなどを、自社製(おそらく)のものと交換。さらに、マーレというすぐれた部品メーカーに発注したピストンも組み込んだ。要するに、ていねいに、ていねいに仕上げたエンジンだ。

後年ヒストリックカーラリーを走った際の雄姿
後年ヒストリックカーラリーを走った際の雄姿

1971年に完成されたこのモデルは、315kW(428ps)の最高出力と620Nmの最大トルクを発生。現代の基準でも、匹敵するパワーのクルマを探すほうがむずかしいぐらいのパワフルさだった。71年の7月にベルギーの有名な耐久レース「スパフランコルシャン24時間レース」でデビュー。

当初、レースファンの下馬評では、AMG300SEL6.8への期待は高くなかったようだ。パワフルなエンジンに加え、195キログラムもの軽量化とはいえ、それでも車重は1635キロ。そもそもベースになったのはオカネモチが後席に乗るリムジンだし。

スパフランコルシャンのような耐久レースがとりわけ得意だった
スパフランコルシャンのような耐久レースがとりわけ得意だった

はたして、AMG300SEL6.8がとりわけ得意とする直線路の多いコースも幸いして、期待以上の高性能ぶりを発揮。加えて耐久性も高く、つぎつぎにライバルが脱落していくのを尻目に、総合2位という成績をおさめた。

6.8リッターのV型8気筒エンジンといえば、自動車好きな人なら、75年にメルセデス・ベンツが発表した「450SEL 6.9」というスーパーリムジン(速いセダン)を思い出すかも。

じつはAMG300SEL6.8と450SEL6.9のエンジンが基本的に同じものかどうか。書籍をひもといた。さらに、メルセデス・ベンツに通じている周囲の人たちに確認してまわった。しかし、あいにく、そのとおり、という確証は得られなかった。

フルレストアされて現代のクラシックカーレースでの人気者
フルレストアされて現代のクラシックカーレースでの人気者

排気量は、AMG300SEL6.8が6835ccとされているのに対して、450SEL6.9は6834cc。差はほぼ誤差の範囲。しかも、AMGのエアハルト・メルヒャーは、もとメルセデス・ベンツのエンジニア。

450SEL6.9は、総数7000台少々と、ごく少数しか生産されず、かつ本来はドル箱である北米市場にも2000台未満しか輸入されなかったモデル。そのために、メルセデス・ベンツ本体が、エンジン開発にわざわざ手を染めることはなく、はたして、AMGが2つのエンジンにかかわっている。と、ファンは推論しているのだ。

AMG300SEL6.8は、71年と72年のレースシーズンで走り、72年のルマン24時間レースにも出走しようとしたものの、結局、本戦には姿を見せなかった。いくつかのレースで優秀な成績を収めたものの、73年にはレース出走のための排気量制限が設けられたことで、レース活動はそこで終了。 活動期間が短かったこともあるのだろう。文献もろくに残っていない。そこで、エンジンのことなど、あれこれ論議したくなる。これこそ、クルマの楽しさだ。

【スペックス】
車名 AMG300SEL6.8
全長×全幅×全高 5000x2000x1320mm
6835ccV型8気筒 後輪駆動
最高出力 315kW@5500rpm
最大トルク 620Nm@4800rpm

(写真=Mercedes-Benz提供)

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