THE ONE I LOVE
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音楽に作為を介入させてはならない──人気ドラマ曲も手がけるbutajiが選ぶ愛のプレイリスト

こんな時代だからこそ、愛を聴きませんか、語りませんか──。実力派アーティストが“愛”にまつわる楽曲を紹介する連載「THE ONE I LOVE」。

今回は、10月6日にニューアルバム『RIGHT TIME』をリリースしたbutajiによる選曲。STUTSと共作した人気ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)の主題歌「Presence」が話題を呼び、注目度を上げている彼が「あえて“狭義のラブソング”に絞って選曲した」と語るプレイリストとは。

〈セレクト曲〉
01. Jamie Lidell「Alone Together」
02. John Lennon「Love」
03.  James Blake「Godspeed」
04. STUTS & 松たか子 with 3exes「Presence Reprise (feat. butaji)」
05. butaji「中央線」

■Jamie Lidell「Alone Together」

ジェイミー・リデルは2016年に『Building A Beginning』というアルバムを出していまして、それがすごく好きなんですよ。それまでのエレクトロニクスを駆使したギークっぽい音楽から、生演奏主体のモータウンっぽいサウンド感になっていて。彼自身にお子さんが生まれたことも影響していると思うんですが、歌詞も愛についてストレートに歌うものが増えた印象があります。この「Alone Together」はそのアルバムと同じ年にリリースされた曲で、アルバム以上に“そばにいる人に向けて歌う”という方向性が明確に打ち出されたものになっている。すごく好きな曲なんです。

気に入っているフレーズは……全部なんですけど(笑)。中でもやっぱり「no more waiting for the right time to live」のところですかね。ここが要というか。直訳すると「生きる時をもう待つな」となりますが、つまり「思うままに生きていいんだ」というような意味ですよね。それは「相手を認める」「許す」「受け入れる」というようなメッセージだと思うんですよ。僕の今回のアルバムが『RIGHT TIME』というタイトルなので、ちょっと重なるところもあって。意味的にも同じことだと思うんですよね。

楽曲の構成としても、このフレーズの部分はフックになっています。J-POPで言うところの“大サビ”みたいな展開で、この人の曲としてはかなり珍しい作りなんです。すごくメロディアスだし、それまでこういう手法をあまりやらなかったという意外性も含めて、グッと来たポイントですね。

■John Lennon「Love」

すべてのラブソングの“基準”みたいな曲だと思います。“愛の歌”をテーマに選曲するなら、これは押さえておかないとって思ったんですよね。これさえ押さえれば、ほかで遊んでも大丈夫だろうと(笑)。

J-POPを始めとした日本の音楽では、ラブソングというと“感情を歌うもの”と認識されているような感覚もあるんですが、これは「愛とは」という大きなテーマを歌っていて、解釈を聴く人に委ねる形になっている。自分の中で見いだした真理のようなものを平易な言葉で繊細に書いていて、こんな歌詞を書かれちゃったら、のちの時代の我々はたまらないですよ(笑)。シンプルゆえに謎めいた部分もあって、ソングライターとしてはこの域まで到達してみたいと思わされますし、素直に憧れます。マイナーからメジャーに切り替わるコード感なんかも、アレンジの妙がありますね。

ジョン・レノンを始めザ・ビートルズにはもちろん影響を受けていますし、ビートルズに影響を受けた人たちからも影響も受けてきました。“教典”みたいな感じですよね。ただ個人的には、ブリティッシュ・ロックの範囲で一番ダイレクトに影響されたのって実はキンクスなんですよ。もしかしたら意外に思われるかもしれませんけど、キンクスが歌う詩情みたいなものには大いに刺激を受けてきたんです。

■James Blake「Godspeed」

オリジナルはフランク・オーシャンの名盤『Blonde』の収録曲ですが、単体の曲として選ぶならジェイムズ・ブレイクのカバー・バージョンのほうが聴きやすいかなと思って、こちらを選びました。この表現も大好きなんで。最近その『Blonde』を聴き返す機会があったんですけど、これはその中でも「とくにシンプルなラブソングだな」と改めて感銘を受けまして。出だしの「I will always love you/How I do」という部分が、曲調とも相まってすごく尊く響くんですよね。神々しいというか。「Glory, glory」のところがとくに顕著ですけど、これはゴスペルだと思います。

僕はゴスペルというジャンルにもけっこう影響を受けてきているんですよ。とくに和声の部分で、そういう要素を取り入れて作った曲も多いんです。まあ、和声に影響を受けたと言っても、ゴスペルの和声ってすごくシンプルな和音なんですけど……コーラスの重ね方という意味ですね。今作で言えば「acception」のアウトロとか、前作なら「抱きしめて」もそうですね。それこそ、次に選曲した「Presence Reprise (feat. butaji)」なんかもその影響が感じられると思いますよ。Bメロの掛け合いのところとかですね。

■STUTS & 松たか子 with 3exes「Presence Reprise (feat. butaji)」

これは“自分に向けた愛”の歌だと思います。「人に向けている愛情を、自分にも同じように向けてあげてほしい」というような思いを歌っている。ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」に書いた曲ですが、純粋な主題歌とはちょっと違うんで、必ずしも“とわ子視点”というわけでもないんですよ。そう見ればそうとも取れるとは思うんですけど、もうちょっと普遍的なものとして書きました。

この曲には、5人のラッパーさんをフィーチャリングした5バージョンが存在するんですけど、歌メロも歌詞もある種ラップっぽいフロウになっています。節回しが速く細かくなる分、歌詞全体もいつになく長くなっちゃった(笑)。サビ自体もラップが入る前提で「それにフィットするものを」と作ったので、半分自然にR&Bのムードに寄っていったんだと思います。もう半分は意識的に、泥臭い努力でがんばってそういうものを作った感じです。「頭で考えたんじゃなく、身体感覚でそうなった」と言えばカッコいいんですけど(笑)、いかんせん「パッと降りてきた」みたいなことを言いたくないタイプなんですよね……。

■butaji「中央線」

愛についての表現が、butaji史上最もストレートな曲になりました。なんせサビの歌詞が「君を愛している」ですし、しかもそれを繰り返した上に「それでも愛している」とまで歌っている(笑)。もちろんこれを歌うのは勇気のいることでしたが、そういった気恥ずかしさとかを置いといて“歌うべきこと”に視点を向けられたという意味で、とても手ごたえを感じている1曲です。今までの僕の作風っぽくはない曲なんですけど、「そこにある感情を純粋に取り出して形にするのは自然なことだな」と思えたので。

冒頭の「荻窪 高円寺 阿佐ヶ谷 三鷹」という1行は、中央線をご存じの方からすると順番がめちゃくちゃですよね。行ったり来たりしている(笑)。ただこのフレーズに関しては、そのラフさこそが大事だった。“キッチンで適当に歌っている鼻歌”みたいなムードの歌い出しにしたかったんですよね。そこで駅の順番がきっちりしていると作為的な印象になっちゃうと思ったし、例えばここに「西荻窪」とかが入ったら、“鼻歌感”がちょっと薄れそうな気もするんですよね。

この曲ができたきっかけは、実は忌野清志郎さんの「スローバラード」なんです。梅津和時さんのライブで、七尾旅人さんをゲストボーカルに迎えて「スローバラード」をカバーされていて。「清志郎さんは亡くなってしまったけど曲はずっと残っていて、こうして歌い継がれている。変わらないものがある」ということにいたく感動したので、“変わらないもの”の象徴として「中央線」をモチーフにしました。戦前からずっと東京の街を走り続けてきた路線が今も現役でいる姿が、梅津さんの演奏を聴いた感動と重なった感じですね。

この曲が作れたのは、自分の中でも大きな出来事だと思っています。僕はこれまで聴いてきた音楽のことをすごく尊敬しているんです。だから、その尊敬すべきものをできるだけいい形で次の世代へつなげていきたい。僕が音楽家として担うべき役割は究極的にはそれだけだと思うんで、その仕事を全うしたいんですよ。そのためには、音楽という表現の中に自分の作為を介入させる必要はまったくない。「必要はない」というか、「そうであってはならない」とすら言ってもいいかもしれないです。

(取材・文/ナカニシキュウ、企画制作/西本心〈たしざん〉)

★他のアーティストのインタビューはこちら

■butajiセレクト「THE ONE I LOVE」プレイリスト
■butaji『RIGHT TIME』
音楽に作為を介入させてはならない──人気ドラマ曲も手がけるbutajiが選ぶ愛のプレイリスト
PROFILE
butaji

ぶたじ/都内で活動するシンガー・ソングライター。2013年の自主制作盤『四季』で注目を集め、2015年に1stアルバム『アウトサイド』を発表。2021年には大ヒットドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)主題歌をSTUTSとの共作で手がけ、同年10月にアルバム『RIGHT TIME』をリリースした。生演奏主体のアコースティックサウンドとエレクトロなトラックの両極を得意とする変幻自在な音作り、独特の重量感を持つリリック、甘い中低音ボーカルなどを武器に音楽シーンでの存在感を拡大させている。

■INFORMATION
【LIVE SCHEDULE】
butaji RIGHT TIME / RIGHT PLACE

2021年11月22日(月・祝前日) 東京 Shibuya WWW
チケット 前売り¥3,500(税込み・ドリンク代別)

info : WWW https://www-shibuya.jp/
WWWのコロナ対策ガイドラインに基づいて開催されます。
HPを必ずご確認の上で、チケットをご購入ください。

◆ご来場の際は「来場者名簿登録」の登録が必須となります。下記URLより事前のご登録にご協力お願い致します。
【来場者名簿登録】https://forms.gle/srM8Tef4V6tBWJE68

【関連リンク】

butaji.com
https://butaji.com/

butaji (@butaji_tw) · Twitter
https://twitter.com/butaji_tw

butaji(ブタジ) | SPACE SHOWER MUSIC
https://spaceshowermusic.com/artist/11768162/

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