いしわたり淳治のWORD HUNT
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“恥ずかしいくらいに青くて真っすぐな歌” ザ・マスミサイル『拝啓』

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載ではいしわたりが、歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の6本。

 1 “期待通りに育たなくてゴメンな”(ザ・マスミサイル『拝啓』/作詞:高木芳基)
 2 “心配り”(アンミカ)
 3 “そこらへんの草”(埼玉県のスーパーで販売されている商品シリーズ)
 4 “CDデッキ食い”(ブラックマヨネーズ 小杉竜一)
 5 “興奮している。”(精神科医・藤野智哉)
 6 “家でただ泣くだけでいい”(ラランド ニシダ)

日々の雑感をつづった末尾のコラムも楽しんでほしい。

“恥ずかしいくらいに青くて真っすぐな歌” ザ・マスミサイル『拝啓』

10月7日放送のテレビ朝日『かまいガチ』でのこと。ブレーク芸人たちが若手時代によく食べていた「下積み飯」を、当時を思い出して作って初心にかえるという企画で、それぞれが持ち寄った貧乏料理を懐かしんで食べていた時、かまいたちの濱家隆一さんが、当時よく聴いていた曲だと言って、ザ・マスミサイルの『拝啓』をかけた。

夢を追って家を出たきり、結果を出せずにいる息子が、親へ手紙を書くという内容の歌で、ついさっきまで笑って騒いでいた芸人たちは急にしんみりと聴き入って、誰からともなく号泣し始めた。

見ていて私ももらい泣きしてしまった。いつからだろう。最近はこういうロックは流行(はや)らなくなった。久々に聴いたものすごくストレートな歌に、カウンターパンチを食らったような気分がした。SNSが流行ったせいもあるのかもしれない。自分の毎日の中のキラキラした部分だけを切り取って見せるのが当たり前になって、世の中の歌もたとえ「つらさ」や「悲しさ」を表現するにしても、おしゃれで生活感のない言葉で表現する曲がずいぶん増えた気がする。人前で生々しい本音をさらけ出すことは、今の時代には流行らないのだ、きっと。でも、この『拝啓』のような、その時にしか歌えない純度の高い想(おも)いが詰まった、恥ずかしいくらいに青くて真っすぐな歌は、いつの時代もなくならないで欲しいなと思う。

“恥ずかしいくらいに青くて真っすぐな歌” ザ・マスミサイル『拝啓』

9月22日放送のテレビ東京『あちこちオードリー』でのこと。森三中の黒沢かずこさんが「サンダルで歩いている人が許せない」と話していた。サンダルで歩いている人は、自分はすぐに走らなくていい、自分は足を踏まれない、という自信がある人で、その自信がどこから来るのか、理解が出来ないのだそう。黒沢さん自身は、自分に何かあった時に人に迷惑をかけてしまうのではないか、困っている人がいた時に助けてあげられないのではないかと不安で、サンダルで街を歩くことなど絶対に出来ないのだと言う。

その話を聞いていたアンミカさんが、やさしくほほ笑んでうなずきながら、「心配性の方っていうのは、同じ字を別に読むと“心配り”も出来るんですね。表裏一体なんですよ」と言った。そして、「もしかしたらその人は外反母趾(がいはんぼし)かもしれない、指を骨折して靴を履けないのかもしれないと心配りをして、自分の中で丸く収めて気にならない方に、ポジティヴな方に持っていくのが大事」と続けた。

アンミカさんのポジティヴ変換力はすごいと思う。幼少期の貧乏だった話や、元彼が本物のスパイだったといったパンチの効いた話も、あの表情と大きな口で笑いながらされると、どれも良い思い出に聞こえてくるから不思議だ。

「不安は生きてる証。生きてる以上、不安に思わない人はいません。人っていうのは生きてる限り不安はある」とアンミカさんは説いていたので、つまりは今は幸せそうにしか見えない彼女にだって不安はあるのだと思う。でも、その不安とうまく付き合っている、ということなのだ、きっと。

たしかに、目の前の不安に対して正面からぶつかって頑張り続けるか、あるいは逃げるか、の二択しかないと考えてしまうと苦しくなるものだ。答えを急がずに、その不安とうまく付き合っていけばいい、と思えば別のやりようも見えてくる。アンミカさんの日めくりカレンダーを買ってしまいそうである。

“恥ずかしいくらいに青くて真っすぐな歌” ザ・マスミサイル『拝啓』

2019年に映画化されて話題になった『翔んで埼玉』。その中に出てくる「埼玉県民にはそこらへんの草でも食わせておけ」というセリフにちなんで、埼玉県内のあるスーパーで「そこらへんの草天ぷら」という総菜を発売したところ、大ヒットしたという。地元で採れた旬の野菜を天ぷらにしたものだそうで、以前から同じようなものは売っていたが、名前を変えたことで、大ヒットにつながったのだそう。今では、埼玉県内のさまざまなスーパーや飲食店で「そこらへんの草」と名のつく商品が提供されているそうだ。

シンプルにひどいセリフだし、それを真に受けて怒ったっておかしくないのに、こうして面白がれる埼玉県民がすてきである。ユーモアなんて単純な言葉では言い表せない、もしいつか誰かにディスられてしまった時に忘れてはいけない大切な何かが、ここには隠れている気がする。

NEXT PAGE心が軽くなる言葉は、「興奮している。」

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