花のない花屋
連載をフォローする

60歳で再出発した母。あの頃の母と同じ年になって

読者のみなさまから寄せられたエピソードの中から、毎週ひとつの「物語」を、フラワーアーティストの東信さんが花束で表現する連載です。あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら

〈依頼人プロフィール〉
大田さくらさん(仮名) 60歳 女性
主婦
大阪府在住

    ◇

私はこの春、還暦を迎えました。そして5年前に亡くなった母のことをよく思い出しています。

母がさまざまな事情で家を出て、仕事を見つけて一人暮らしを始めたのは、今の私と同じ、60歳のときのことです。結婚以来、家業を父とともに切り盛りしていたため、母が外で働くのは初めての経験。現在の自分の年齢と重ね合わせると、勇気を振り絞った大変な挑戦だったと思います。

その母が仕事を引退し、ようやく穏やかな生活を送っていたときのことでした。不運にも大変な交通事故にあい、なんとか一命は取り留めたものの、後遺症として高次脳機能障害が残ってしまいました。

当時の私の家族構成は、会社勤めの夫と、大学生の2人の娘。母は入院後、老健施設に入りました。施設の決まりで、私は片道2時間半はかかるその施設に、毎週2回ずつ通いました。パートで働きながらの遠方の施設通いで、今度は私が体調を崩す寸前になった数カ月後、運良く家の近くの老人ホームに入所することができました。

私はパートをやめ、午後は母のホームに通う日々となりました。母はその後、救急病院に搬送されたこともありましたが、最後は療養型の病院に転院。そこで5年間お世話になりました。

鼻からの管を抜かないように両手にミトンをはめたり、宇宙服のような服を着せられたりと、つらい入院生活だったと思います。転院当初は自分が施設にいることが受け入れられず、家に帰りたいと泣きながら訴えたこともありました。

「毎日お見舞いに通うから堪忍して」

母とのそんな約束を守り、毎日通った療養型病院での母の入院生活は、7年にも及びました。母の老いは次第に深まっていき、最後の1年間はほとんど意識もなかったと思います。

数年前には、母と別居していた父も亡くなり、私が小さいときに住んでいた実家を売却することになりました。母が家を出たのは、私たち子どもが家を出て独立してから。思い出が詰まった実家を手放すことになり、ますます母や当時の家族のことを思い出しています。服も紺やグレーの控えめな色ばかり、目立つことを戒める性格の母でしたが、「家にお花があると華やぐ」とよく言っていて、私は小学生のときから華道を習わせてもらっていました。

「おかあさん 長い間の闘病でつらかったね。よくがんばったね。家に帰してあげられなかった私を許してね。天国へお花を贈ります」

そんなメッセージとともに、亡くなった母へお花を作っていただければと思います。

60歳で再出発した母。あの頃の母と同じ年になって
≪花材≫マム、トルコキキョウ、ハラン

花束をつくった東さんのコメント

亡くなられたお母様は、八重のトルコキキョウや白い菊がお好きだったという追加情報がありました。そこで、その2種のお花を主役にした白いアレンジにまとめました。

まず中心には白いマム(菊)を使い、そのまわりを囲むように八重咲きの白いトルコキキョウを入れた構成です。マムは、パッと見ると白い菊なのですが、中心に黄色みがかった花びらがあるものと、真っ白なダリヤのようなものの2種類を使って、よく見ると質感の違いが楽しめます。

白い花は、比較的早く茶色がかってしまうものも多いのですが、マムもトルコキキョウも強いお花。長くお供えいただけるのではないでしょうか。

天国のお母様に、投稿者様のやさしいお気持ちが届けられるように、また投稿者様自身も心安らいでいただけるように、やさしいイメージに仕上げています。

60歳で再出発した母。あの頃の母と同じ年になって
60歳で再出発した母。あの頃の母と同じ年になって
60歳で再出発した母。あの頃の母と同じ年になって
60歳で再出発した母。あの頃の母と同じ年になって

文:福光恵
写真:椎木俊介

読者のみなさまから「物語」を募集しています。

こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。

応募フォームはこちら

REACTION

LIKE
連載をフォローする

SHARE

  • LINEでシェア

FOR YOU あなたにおすすめの記事

POPULAR 人気記事

※アクセスは過去7日間、LIKE、コメントは過去30日間で集計しています。

RECOMMEND おすすめの記事

&MEMBER限定の機能です

&MEMBERにご登録(無料)いただくと、気に入った記事に共感を示したり、コメントを書いたり、ブックマークしたりできます。こうしたアクションをする度にポイント「&MILE」がたまり、限定イベントやプレゼントの当選確率が上がります。

&MEMBERログイン

ID(メールアドレス)
パスワード

パスワードを忘れた方はこちら

&MEMBER登録はこちら

&MILEの加算アクション

  • &MEMBER新規登録:100マイル

    *今後、以下のアクションも追加していきます

  • 朝日新聞デジタル有料会員の継続:100マイル
  • ログインしてサイト訪問:10マイル
  • 記事に「LIKE」を押す:10マイル
  • コメントの投稿:30マイル
  • 自分のコメントに「LIKE」がつく:10マイル
  • アンケート回答:30マイル
  • 「朝日新聞SHOP」での購入:50マイル
  • イベント申し込み:50マイル

&MILEの獲得数に応じてステージがあがり、ステージがあがるごとに
&MEMBER限定のイベントやプレゼントの当選確率が上がります。詳細はこちら