おふたりさま図鑑
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人はなぜ、誰かと一緒にいようとするのか? 二人になって手にするもの、失うもの

Tetiana Garkusha / Getty Images

二人組に特化したインタビューシリーズ「おふたりさま図鑑」。昨年10月の連載開始以来、各界の第一線を走る様々な二人組のコンビ事情に迫ってきました。

特定の相手と密な時間を過ごすことで生まれるパートナーシップ。その多様性に光を当ててきた筆者の奈々村久生さんには、この連載にかける思いがあります。今回はいつもと趣向を変えて、筆者が二人組を取材し続ける理由を綴(つづ)ります。

     ◇◆◇

 奈々村久生です。2020年10月に「おふたりさま図鑑」の連載がスタートして一年をむかえることができました。二人という単位のパートナーシップにフォーカスし、関係性のあり方の可能性を探る連載ですが、どのコンビの方々にも紆余(うよ)曲折があり、人間関係の豊かさを感じずにはいられません。

 このように述べると、人と人との結びつきを信じ、コンビ愛や「絆」的なものをたたえているようにも聞こえるかもしれませんが、残念ながらそうではありません。私自身はまったくと言っていいほど人づき合いの才能がなく、集団行動も上下関係も苦手で、待ち合わせすらろくにできない人間です。

 極論を言うと、個人的には、無理をしたりしんどい思いをしてまで人との関係を維持したりする必要はないと考えています。チームプレーが個人プレーより勝っているわけでもないので、それぞれの責任は引き受けつつ、自分に合った生き方を選べばいいと思っています。公共のメディアでその立場からものを言う難しさは感じていましたが、「おひとりさま」「ソロ活」といった価値観が広まってきたりして、より生きやすい世の中になっていけばそれに越したことはありません。

 もちろん私も一人で生きてきたわけでありません。人との出会いに学び、刺激を受け、誰かと痛みや苦しみを分かち合ったり、力を合わせて一つのことを成し遂げる楽しさや喜びも知っています。自粛期間中に寂しいと思うこともありました。だからといって考えを改めたわけでもないのですが、せめて寂しいと感じたことを自分で認めようと思えるぐらいには孤独です。

 それでも他者と密につき合って生きるには、相手への気遣いが欠かせず、不満や葛藤、関係を続けるための煩わしさやしんどさがつきまといます。人と深く関わり、その関係をサステイナブルに保っていくことは、私にとって常に極度の緊張やストレスをともない、莫大(ばくだい)なエネルギーを消費する行為と言わざるを得ません。ときに他者とのバランスがうまく取れず、自分を見失っては、そのことをよしとはできず、疲れ果ててしまいます。自分らしく生きることと、他者と関係を築くこととの両立はほぼ「無理ゲー」で、どちらか一つしか手に入らないならば、前者を選びたい。

 だからこそ、人はなぜ、誰かと一緒にいようとするのか、ずっと気になっていました。それによって手にするもの、あるいは失うものとは何なのか。そこでたどり着いたのがコンビの存在です。長年続いた国民的グループでさえ解散する時代に、自ら特定の相手とコンビを組んで活動する人たちがいるのは、ほとんど奇跡のように感じられましたが、決して簡単なことではないとも思います。仕事仲間としてコンビという形を選んだとしても、プライベートと完全に切り離すことは難しく、公と私の両面が複雑に絡み合っているはず。お互いに受け入れている(たとえ不満はあっても)ことと、それでは割り切れない感情との間で、どのように折り合いをつけているのか?

 答えは最後まで出ないかもしれません。正解を求めているわけでもないし、ただ多くの言葉に耳を傾けて考えることができればいいと思っているけれど、もし自分の価値観を揺るがすような発見があれば、それに勝るものはありません。「二人」は人づき合いの最小単位。その関係性に触れ、多様なコンビのあり方から、他者と共に生きるためのヒントを探していきたいです。

 ちなみに、この連載を始めたいと思うきっかけになったあるコンビがいるのですが、まだ取材は叶(かな)っていません。いつかそれが実現できることを願いつつ、今回はこれまでの感想戦で過去回を振り返ってみたいと思います。

第一回:中川敦子さん×亀山達矢さん(クリエーティブ・ユニット「tupera tupera」)

 恋愛関係から始まって創作上のユニットを結成し、さらに夫婦になったお二人。アーティスト同士のジレンマや子育てと仕事の両立、共働き家庭における男女の働き方についても語ってくださいました。同業者の場合は特に、一番近くにいる相手こそ、自分と比べることはとても苦しいものですが、二人で一つという認識で考えれば、個人としての自意識やプライドからは解放されることができる。それは目から鱗(うろこ)の発想で、この連載を続けるための大きな道しるべとなってくれました。

第二回:山下敦弘さん(映画監督)×向井康介さん(脚本家)

 「面白さ」という言語を持った監督と、それを伝える通訳としての脚本家。映画を志していたお二人が出会い、一方が相手の面白さに気づいたとき、その役割分担が職業につながったというお話。自分で面白いことを思いついて、かつ自力で第三者に伝えられれば苦労はありませんが、必ずしもそうではないからこそ生まれる関係の必然を感じました。それと同時に、関係が長く続くほど「何もしなくても一緒にいる」ことが贅沢(ぜいたく)なものになってくるというのは、なんとも悩ましいところです。

第三回:石野卓球さん×ピエール瀧さん(電気グルーヴ)

 ピエール瀧さんの活動再開後の露出ということもあり、非常に大きな反響をいただきました。事件をめぐる諸々についても、散々聞かれてきたであろう質問に対しても、裏表なく率直に答えてくださったことが何よりクールでした。記事公開後に開催された単独オンラインライブが最高に楽しめたのは言うまでもありません。無観客のフロアで、ステージの正面を向くのではなく、サポートメンバーの方々を交えたチームで向かい合ってパフォーマンスするフォーメーションが再出発の姿勢を物語っていたと思います。

第四回:手塚貴晴さん×手塚由比さん(建築事務所「手塚建築研究所」)

 風通しのよい関係というのは、言葉にすると美しいですが、実践は意外と難しいのではないかと思います。建築家夫婦であるお二人の場合は、育った家の構造がそもそも「壁のない」ものであり、その住環境で養われた人との距離感や他者とのつき合い方の感覚は、後から身につけようとしても手に入らない気がしました。同じ感性の持ち主同士が出会って一緒にいるのは、それができている側にとっては自然で当たり前であり、できていない側からすると数学の未解決難題のようなものであることがよくわかりました。

第五回:小幡泰久さん×小幡夕起子さん(眼鏡ブランド「kikiki optique」)

 「二人とも組織が苦手」という言葉に励まされた回。集団作業の苦手なお二人が、それでも相手の存在によって、一人よりも確実にできることは広がっている。あくまでもそれぞれが個人として自立しつつ、他者との関係性によって得られる可能性を、ミニマルな形で実現されているのは理想的に感じられました。メガネユーザーとして、初めて眼鏡を作ったときは視力が落ちたことへのショックと罪悪感でいっぱいだったのですが、眼鏡をかけることで世界が見えるようになるって素敵だなと思いました。

第六回:平出和也さん×中島健郎さん(アルパインクライマー)

 心身ともに密なパートナーシップのあり方としては、一つの究極形とも言えるお二人でした。ある意味では家族よりも濃密な時間を共に過ごしてきたにもかかわらず、 いつどうなるかわからない、より自分が成長できる相手がいればその人と組むほうがいい、ゆえに「ドライ」な関係だと言えてしまうのは、自信と信頼がなければできないことだと思いました。常に対等であろうとするとむしろしんどいですが、二人にとっての最善を第一に行動すればいいと考えれば、もう少し楽になれそうな気がしました。

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