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苦境の香港映画界 30代監督が描く、癒やしと再生のストーリー

©2019 Dadi Century (Tianjin) Co., Ltd. Beijing Lajin Film Co., Ltd. Emperor Film Production Company Limited Shanghai Yeah! Media Co., Ltd. All Rights Reserved.

かつて「東洋のハリウッド」と言われた香港映画界も、いまや中国政府の意向を受けて検閲は厳しくなる一方。だが、そんな中でもしたたかに撮り続ける映画人たちがいる。

現在、監督、脚本、プロデューサーと多方面で活躍するヘイワード・マック監督もその一人。彼女の最新作が「花椒(ホアジャオ)の味」だ。2020年香港のアカデミー賞と称される「香港電影金像奨」で11部門にノミネート、最優秀美術指導に輝いた。

メガホンを取るきっかけは、本作のプロデューサー、香港映画界の重鎮アン・ホイ監督からのオファーだった。アン・ホイ監督といえば、香港電影金像奨で唯一、最優秀監督賞を6度受賞した名匠。そんな彼女がプロデュースした一番の理由が、ヘイワード・マック監督の才能だという。

ヘイワード・マック監督 先達から学んだ人へのまなざし

ヘイワード・マック監督は言う。「私はアン・ホイ監督を非常に尊敬しています。彼女の映画では『望郷』(1982年)や『千言萬語』(99年)、『桃(タオ)さんのしあわせ』(2011年)などからたくさん学んでいますが、特に『望郷』と『獣たちの熱い夜 ある帰還兵の記録』(81年)といった80年代の作品には、人への心遣いや人間を非常に繊細な目線で見つめているものが多い。彼女は映画に対してすごく真面目で非常にこだわりを持っている。今後もそこはずっと学びたいと思っています」

「花椒の味」は突然亡くなった父の葬儀で初めて出会った3人の異母姉妹の癒やしと再生を描いた物語。ヘイワード・マック監督の言葉の通り、心に痛みを抱える3姉妹を見つめるまなざしや、彼女たちとかかわる人々にも温かな心遣いを感じさせるのは、アン・ホイ監督の影響があるのかもしれない。

苦境の香港映画界 30代監督が描く、癒やしと再生のストーリー
「花椒の味」の一場面 ©2019 Dadi Century (Tianjin) Co., Ltd. Beijing Lajin Film Co., Ltd. Emperor Film Production Company Limited Shanghai Yeah! Media Co., Ltd. All Rights Reserved.

物語の中心となるのは長女のユーシュー(サミー・チェン)。彼女はある日、疎遠だった父リョン(ケニー・ビー)が、自身が経営する火鍋店で突然倒れたとの連絡を受ける。病院に駆けつけたものの、父はすでに他界したあと。遺(のこ)された携帯電話には自分の名前に似た知らない2人の名前があった。メッセージを送ると、葬儀の日、台北から次女のルージー(メーガン・ライ)、重慶から三女のルーグオ(リー・シャオフォン)がやって来た。初めて出会った異母姉妹だが、愛する父を亡くした悲しみから互いに心を通わせていく。

「原作はラブストーリーで書簡形式の小説です。(映画の中心となる)家庭の話はそれほど出てきませんが、私がまず引かれたのは、3姉妹がそれぞれ違う立場で父親を慕っていることでした。共通する父親を亡くしたことで、物語を広げやすいかと思いました。その要素を広げて、親と子の情、そして女性の成長を描きました。もう一つ、私が気に入ったのが火鍋です。鍋というのはご存じの通り、みんなで囲んで一緒に食べるもの。家族が一緒の時間を過ごすということを表現できると思いました」とヘイワード・マック監督。

苦境の香港映画界 30代監督が描く、癒やしと再生のストーリー
「花椒の味」の一場面 ©2019 Dadi Century (Tianjin) Co., Ltd. Beijing Lajin Film Co., Ltd. Emperor Film Production Company Limited Shanghai Yeah! Media Co., Ltd. All Rights Reserved.

本作で苦労したのが原作から脚本に仕上げる時間が非常に短かったことと、短時間で俳優たちを役になり切らせること、そして、短い時間でいかにスタッフと連携を取るかだった。「今回は、自分がこれまで蓄積してきたことをいかに短時間でできるか、というテストをやらせてもらった感じです」。そんな苦労のかいあってか、本作は冒頭で書いた通り香港電影金像奨の受賞をはじめ、内外の映画祭で評価された。

1984年生まれのマック監督は2007年、23歳のときに「烈日当空(原題)」で長編映画デビュー、香港電影金像奨の最優秀新人賞にノミネートされた。以後、脚本や脚色、監督、プロデューサーと多方面で活躍。今では手がけた作品が映画祭でたびたび受賞する実力の持ち主だ。

苦境の香港映画界 30代監督が描く、癒やしと再生のストーリー
ヘイワード・マック監督(写真提供:ヘイワード・マック)

だが、聞けば、もともとなりたかった職業は「絵本作家だった」と言う。「子どもに絵本を見せたいと絵の勉強をしていました。ところが、ある時先生から『君の絵は子どもが怖がる。絵本にはちょっと向かないよ』と言われたんです。私もまだ子どもだったからか、なぜか簡単に諦められました(笑)」

人生の転機が訪れたのは大学時代だ。「(『恋する惑星』のウォン・カーウァイ監督ら著名監督が師と仰ぐ)パトリック・タム監督との大きな出会いがありました。彼が授業で教えてくださったのが脚本と編集です。特に編集は、自分が思い描いていたものと実際に教えていただいたものの違いが見えて非常にショックを受けました。そこから自分も何かを創作したい、映像を作りたいと思うようになったんです。ただ、それは映画監督になりたいと思ったわけではなく、脚本や編集をやりたいと思ったんですね。だから私は映画監督になりたいというより、映画にハマったと思っていただいたほうがいいかもしれません(笑)」

苦境の香港映画界 30代監督が描く、癒やしと再生のストーリー
「花椒の味」の一場面 ©2019 Dadi Century (Tianjin) Co., Ltd. Beijing Lajin Film Co., Ltd. Emperor Film Production Company Limited Shanghai Yeah! Media Co., Ltd. All Rights Reserved.

ブルース・リーを始めジャッキー・チェン、レスリー・チャン、トニー・レオン、チャウ・シンチー、ジョン・ウー、ツイ・ハーク、ウォン・カーウァイ……。日本人にもなじみのある多くのスターや名監督を生んできた香港映画。レスリー・チャンが大好きだった母親の影響を受け、ヘイワード・マック監督も彼が一番好きな香港俳優だという。そんな彼女にとって香港映画の魅力とは?

「香港の映画産業は多元的で奇妙な趣があり風変わりです。それは映画の内容でも運営方法でもです。香港に住み、また映画産業に身を置いているせいか、香港映画で(私に)一番衝撃を与えたのはそのバカバカしさとユーモアですね」

そう聞いて思わず、日本でも02年に公開され大ヒットした、荒唐無稽なコメディー映画「少林サッカー」を思い出した。

苦境の香港映画界 30代監督が描く、癒やしと再生のストーリー
ヘイワード・マック監督(写真提供:ヘイワード・マック)

存続危機が叫ばれる香港映画界だが、ヘイワード・マック監督は映画を撮り始めて以来、一貫して「成長」をテーマに掲げてきた。自身も映画を撮るたびに「いかに自分が成長するか、いかに人と付き合うか、人を愛するかを学んできた」と話す。そこにブレはない。

「いま最も自分に必要なのは、観察すること、好奇心を持ち続けること、型にはまらないことです」

彼女は映画を、「もう撮れなくなるまで」続けていくつもりだ。

フォトギャラリーへ(写真をクリックすると、くわしくご覧いただけます)
「花椒(ホアジャオ)の味」
苦境の香港映画界 30代監督が描く、癒やしと再生のストーリー
©2019 Dadi Century (Tianjin) Co., Ltd. Beijing Lajin Film Co., Ltd. Emperor Film Production Company Limited Shanghai Yeah! Media Co., Ltd. All Rights Reserved.

お互いの存在を知らずに育った3人の異母姉妹が家族と向き合い、自分自身を見つめ直して生きる癒やしと成長の物語。ある日、ユーシュー(サミー・チェン)は疎遠になっていた父親が突然倒れたとの知らせを受ける。会社から病院に駆けつけるが、すでに父は亡くなっており話すこともできなかった。遺された父の携帯電話には自分の名前に似た知らない2人の名前があった。葬儀の連絡をすると、その日、台北から次女のルージー(メーガン・ライ)が、重慶からは三女のルーグオ(リー・シャオフォン)がやって来た。初めて顔を合わせた3人だったが、父を亡くした悲しみを共有するのだった。一方、父の火鍋店「一家火鍋」の賃貸契約はまだ残っており、解約すれば違約金が発生する。従業員もいる。長女のユーシューは父の店を継ぐことを決意する……。

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