ドイツが誇る「オイローパ2」、キール運河をゆく 音楽・と美食の旅

運河とは、船舶の移動などのために人工的に造られた水路のこと。特に「スエズ運河」や「パナマ運河」が有名ですが、今回は北海とバルト海を結ぶ「キール運河」を客船オイローパ2で通航するラグジュアリークルーズを振り返ります。
■連載「クルーズへの招待状」は、クルーズ旅の魅力や楽しみ方をクルーズライターの筆者がご紹介します。
クルーズファンあこがれの名船

2014年、ある外国船の世界一周クルーズ中に、紅海から地中海へ抜けるため「スエズ運河」を通航しました。この運河では、数隻が船団を組み、列をなして進んでゆきますが、ちょうど私の乗った船の後ろが客船オイローパ2でした。すると、ドイツから来た乗客たちがオイローパ2を指さし、口々に「あれは、私たちの誇りの客船」「オイローパ2はすべてが最高!」「素晴らしいクルーズが体験できるから、ぜひあなたも乗ってみたら」と熱心に薦めてくれたのです。そこで、2017年9月にドイツの海運都市キールから出発し、2日目はデンマークのコペンハーゲン、3日目にキール運河を通航し、4日目にドイツのハンブルクに到着する3泊4日のクルーズに乗船しました。
2013年にデビューしたオイローパ2は、ドイツのハパク・ロイド・クルーズが運航する42,830総トンの客船で、就航当初から品質の優れたラグジュアリークルーズは高い評価を受け、世界のクルーズファンのあこがれの的となりました。その一方で、ドイツの乗客で満員になることが多く、海外に向けた情報も少ないため、全貌(ぜんぼう)がよくわからず、秘密めいた存在でもありました。
ハンブルクからキールまでバスで移動し、クルーズターミナルに到着すると、オイローパ2の乗客たちは、早速、シャンパンとカナッペでもてなされ、整列する乗組員に迎えられて乗船。丁寧なサービスに、早くも高級感が漂っていました。さらに、船内のロビーには、クルーズ船を格付け評価するスターンズのクルーズガイドブック(Stern’s Guide to the Cruise Vacation)で最高の「6星+」を獲得した認定プレートが飾られていたのも印象的でした。

客室の扉を開けると、デュバル・ルロワのシャンパンとフルーツ、そしてコチョウランが待っていました。この船の客室は全室バルコニーとバスタブ付き。木製のデッキチェアが置かれたウッドデッキのバルコニーは木のぬくもりが心地よく、誰にも煩わされず景色を眺め、ゆっくり風呂につかる癒やし旅にもピッタリと言えるでしょう。

出航前に避難訓練が行われ「ドイツ語が分からない乗客は、別室へ移動してください」という船内放送がかかりました。その結果、別室へ移ったのは、全乗客の中で夫と私の2人だけ。ここは、ドイツの世界なのだと再認識し「もし、日本の客船に日本語の話せない外国の乗客が2人だけ乗ってきたら、こんな感じなのかな」と思いました。そして、私たち2人には、インターナショナルホステスがクルーズ中を通して、英語で手厚く対応してくれました。
ソウル音楽・料理のコラボとスターシェフの料理教室
実は今回のクルーズのお楽しみはキール運河越えに加え、「ソウルキッチン」というテーマもありました。これは、船上に、ソウルミュージックのアーティストと、ドイツのスターシェフを招き、ソウルサウンドと魂に届く料理を提供しようという趣向です。
初日から毎晩午後10時を過ぎると、全天候型のプールエリアが会場となり、カラフルなカクテルやスナックがふるまわれ、華やかな心持ちになったころ、力強いステージが始まりました。タレントのヤレド・ディババの司会で、ゲスト歌手のキム・サンダース、ジェナ・ホフなどがソウルミュージックを熱唱し、乗客もダンス&ダンス。さらに、テレビの料理番組にも出演し、ミシュランの星付きレストラン「ゴルデナー・アンカー」を経営しているビヨルン・フライタークなどのスターシェフによるクッキングデモンストレーションも行われ、連夜、音楽と料理のコラボレーションが船のミッドナイトを盛り上げました。

2日目には、「ソウルキッチン」プログラムの一つとして、ミシュランの1つ星を獲得したホテル、オーレ・リーゼの「レストラン1797」総料理長フォルカー・フールベルクによる料理教室も開催されました。会場はオイローパ2自慢の料理教室専用キッチンスタジオ。「白身魚の山椒(さんしょう)風味」、「セモリナ団子のスモモソース」など3品を習いましたが、1品できるごとに、センターテーブルに先生と生徒が座り、素晴らしいワインのサービスと共に試食するという優雅な料理教室でした。そしてこの料理教室に費やした時間は、なんと3時間30分。長時間ではありましたが、ドイツのスターシェフから直接料理を教わり、オイローパ2のオリジナルエプロンと、レシピのお土産付きで、大満足でした。

コペンハーゲンの人魚姫、そして汽笛鳴らす体験
2日目、料理教室が終わった後、港から徒歩圏にあるコペンハーゲンの観光名物「人魚姫の像」を見に行きました。下船口で傘を借り、雨の中を歩いてゆくのは食後の良い散歩。海鳥の泳ぐシーサイドロードを歩き、花の咲く公園を通り抜けると、石の上に座る人魚姫の像が現れました。デンマークの作家ハンス・クリスチャン・アンデルセンの作品「人魚姫」は、人間の王子に恋をした人魚姫の悲恋物語として知られていますが、雨にぬれ、暗い海を見つめる人魚姫の姿は、いつにも増して悲しげでした。

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