花のない花屋
連載をフォローする

医学部で学ぶ息子。原点は小学生のあの冬に

読者のみなさまから寄せられたエピソードの中から、毎週ひとつの「物語」を、フラワーアーティストの東信さんが花束で表現する連載です。あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら

〈依頼人プロフィール〉
世木田志乃さん 48歳 女性
団体職員
東京都在住

    ◇

19歳の息子は、長年の目標である医師になるために、現在医学部で学んでいます。医師を目指すきっかけは小学5年生の冬にさかのぼります。年末から腹痛を再三訴えて、かかりつけ医などいくつかの病院を受診しました。ところが体調は好転せず、念のため大病院で検査を受けることになりました。

さまざまな精密検査を受けました。診断は小児がんでした。まさに奈落の底に突き落とされたように目の前が真っ暗になりましたが、その後、医師から先の命があることを知らされ、世界が変わりました。そこから最低でも「半年、1年ほどを見込むように」という長い治療、闘病生活が始まりました。

出会った主治医と治療チームが、息子の治療と、さらには人生すべてを受け止めてくださいました。主治医は、出会ったその日に息子としばらく話してから、彼には病名の告知も治療方針も副作用も、大人と同じ用語を用いて伝えるのが賢明だと言われ、実際に息子を子ども扱いせずに接してくださいました。

とはいえ11歳の子どもにとっての治療は壮絶なものでした。子どもにとって治療はダメージが大きいため、同じがんを大人が治療するのと比にならないほど、短期間で、“濃厚な治療”が必要ということでした。

そんなつらい治療に立ち向かおうと、息子はいつものようにもりもり食事をするなどして、弱音も吐かずにがんばって乗り越えました。そのかいもあってか、半年〜1年と言われた治療も、4カ月で完全寛解を得て退院。驚異的な速さで持ち直しました。

退院時、病棟入り口で先生たちと別れる際、息子は泣いていました。理由をたずねると、「先生と会えなくなるから」とのこと。入院中、お見舞いに来てくれた小学校の学級担任の先生や医師から、「将来お医者様になれば?」と勧められた息子は、日夜関係なく治療にあたる医師や看護師の皆さんを見て、「あんなにハードに働きたくない」と言ってみんなを笑わせていました。

そんな彼が医師を目指したのは、あの病棟の主治医と、退院後から今も定期検診でフォローしてくださるもうひとりの主治医がいるからだと思います。

退院後は、野球部に入り、ごく普通の学校生活を送っていた息子。どんなに部活で疲れていても、毎日の勉強は欠かさず、こちらが止めることもあるほどでした。でもそんな努力があったからこその現役合格。小児科の医師は、息子を「光」だとおっしゃいました。彼の生きる姿が誰かの光になりますよう、また彼が直接出会わなくてもその光が届きますように。

そんな息子へ、あらためてとびきりの花束を贈っていただきたいのです。何色? どんな花? 東さまに委ねたいと思います。

花のない花屋
≪花材≫チューリップ、ネリネ、オンシジウム、ソリダスター、ナズナ、デンドロキラム、グロリオサ、ドラセナ、ピットスポルム、アセボ

花束をつくった東さんのコメント

小学生のときの病気を乗り越えて、お医者様を目指しているという息子さん。闘病を支えてくれたお医者様や、また同じ病気と闘っている子どもたちなど、さまざまな人の希望の光になっていることでしょう。

そんな存在からインスピレーションを得て、光があふれんばかりに輝いている息子さんのイメージを元にアレンジを作りました。春先のお花もそろそろ市場に出回り始める季節。一足早く、明るい春を感じていただけるように、まだつぼみが堅いチューリップやナズナなどを加えました。アクセントは、花かんざしのように見えるランの一種デンドロキラムです。

この花束のように、いつまでもみんなを明るく照らしてくれるように、祈っています。

花のない花屋
花のない花屋
花のない花屋
花のない花屋

文:福光恵
写真:椎木俊介

読者のみなさまから「物語」を募集しています。

こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。

応募フォームはこちら

REACTION

LIKE
連載をフォローする

SHARE

  • LINEでシェア

FOR YOU あなたにおすすめの記事

POPULAR 人気記事

※アクセスは過去7日間、LIKE、コメントは過去30日間で集計しています。

RECOMMEND おすすめの記事

&MEMBER限定の機能です

&MEMBERにご登録(無料)いただくと、気に入った記事に共感を示したり、コメントを書いたり、ブックマークしたりできます。こうしたアクションをする度にポイント「&MILE」がたまり、限定イベントやプレゼントの当選確率が上がります。

&MEMBERログイン

ID(メールアドレス)
パスワード

パスワードを忘れた方はこちら

&MEMBER登録はこちら

&MILEの加算アクション

  • &MEMBER新規登録:100マイル
  • 記事に「LIKE」を押す:10マイル
  • コメントの投稿:30マイル
  • 自分のコメントに「LIKE」がつく:10マイル
  • *今後、以下のアクションも追加していきます

  • 朝日新聞デジタル有料会員の継続:100マイル
  • ログインしてサイト訪問:10マイル
  • アンケート回答:30マイル
  • 「朝日新聞SHOP」での購入:50マイル
  • イベント申し込み:50マイル

&MILEの獲得数に応じてステージがあがり、ステージがあがるごとに
&MEMBER限定のイベントやプレゼントの当選確率が上がります。詳細はこちら