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「あきらめるつもりで1歩だけ」 ゴリこと照屋年之、映画を撮って15年

猪俣博史撮影

お笑いコンビ「ガレッジセール」ゴリのもう一つの顔、映画監督・照屋年之。これまで15年にわたり映画を撮り続け、脚本・監督を手がけた2018年公開の『洗骨』では、日本映画監督協会新人賞を受賞した。今やライフワークとなった映画制作だが、そのきっかけは、思わぬ「波」に流されたことだったという。

誰かの意見でガラッと変わるのが面白い

――昨年公開された最新作の短編『演じる女』には、同じ沖縄出身の満島ひかりさんが主演されました。

照屋 あの作品は、満島ひかりさんの名演技のおかげです。満島ひかり、ここにありだなと思いました。まず、出演をオッケーしてくれると思わなかった。低予算の短編映画なので、ギャラなんて交通費くらいしか出てないと思います。でも、『洗骨』でご一緒した奥田瑛二さんが、僕のことをほめてくれて、「もし出演依頼が来たら絶対断るなよ」って言ってくれていたそうなんです。「だからオッケーしました」って言われました。巡り合わせのように出会いましたね。

照屋年之監督
猪俣博史撮影

映画の案はいくつかずっと持っているんですけど、どれを撮るかっていうのは、やっぱりタイミングと、僕がどれだけ脚本として広げられるかなんですよね。僕の中で、この役はこの人だなってイメージしながら書いたりもするんですが、プロデューサーさんとかと話していると、その俳優さんの方がいいですねっていう話になったりする。大人数が関わる映画って、予想もしない人の意見が映画をガラッと変えるのが面白いんですよね。

この人はこういう部屋に住んでいるって思って脚本を書いているのに、美術さんが読んだら、「彼女は絶対に花が好きなはずだから、ここに花を置くべきです」って違うイメージでくる。衣装さんも、こういうのを着せたいとか、髪形はこうしたいとか、役者さんの言いたい言い回しも出てくる。

サチコっていう役がいたらみんながサチコに感情移入して、それぞれのサチコを表現したくなってくるわけです。「違う、サチコはこんな人じゃないです」って言い出しますから。ちょっと待って、俺、脚本書いたんだけど……みたいな。でも確かにそう言われればそうかっていうこともある。そこのせめぎ合いが面白いですよ。

「チャンスをつかんでから努力を始める人も」

――これまでの監督作品は、短編と長編で13作品に上ります。どんな経緯で映画制作を。

照屋 僕は、大学の映画学科の演技コースに入って、最初は演者になりたかったんです。大学を中退して吉本興業に入り、お笑いもしながら、ドラマや映画にも出させてもらいました。いわば自分の夢がかなった人生だったんですが、吉本の上層部があるとき、「吉本からも映画監督を輩出しよう」と。芸人50人に短編映画を撮らせる企画で、映画学科出身の僕にも声がかかったんです。

照屋年之監督
猪俣博史撮影

僕はべつに映画を作ることなんて興味がなかったんです。そのときまさに、演者として、紀里谷和明監督の「GOEMON」という映画の撮影中だったんですよね。監督を見ていて、やっぱり大変そうって思った。

それで雑談レベルで紀里谷監督に、「実は今、会社から短編映画を撮らないかって話が来ているんですけど、やっぱりしんどそうだから断りますわ」って言ったら、「ゴリくん、それ間違っているよ!」ってマジモードで言われて。「チャンスっていうのは限られた人にしか来ないんだから、目の前のチャンスをつかまないなんてバカげたこと、だめだよ! 何も準備していなくても、チャンスをまずつかんでから努力を始める人だっているんだよ」って。

じゃあ、とりあえず経験として1回だけやってみようかな、みたいな感じで引き受けた。それで初めて脚本っていうものを書くことになるんですけど、コントじゃないから、ただボケを書けばいいっていうものではないし、起承転結の物語が必要。書けないんです、脚本が。そこでまず悩む。

打ち合わせをしても、「衣装どうしますか」「この時、胸にペンは刺さってますか?」って、「そんな細かいこと、そっちで選んで!」って言いたくなることをみんなが聞いてくるんです。で、いざクランクインしたら、演出ができない。「このドアは開けるのか」「目線はどうすればいいのか」って演者さんも聞いてくるし、カメラさんも引きか寄りかとか、照明さんもどれくらいの明るさか聞いてくる。合っているかわかんないけど決断しなくちゃいけないから、頭も心ももうへとへとになるんです。

「あきらめるつもりで1歩だけ」 ゴリこと照屋年之、映画を撮って15年
猪俣博史撮影

夜10時に終わるスケジュールが朝の5時に終わったりすると、もう現場が最悪の空気。みんなが嫌々やっているのが顔にも出始めるんですよね。あまりに僕の段取りが悪くて、自分のせいだから後ろめたい。逃げたいけれども責任があって逃げるわけにもいかないし、ただただ苦痛な時間を過ごすしかない。「もう二度と監督なんてやんない、こんな苦しいこと二度とごめんだ」って思うんです。

それから編集を始めるんですが、撮ったカットがつながって、物語に血が流れ出して、呼吸をスーハーし始めると……めちゃくちゃ楽しいんですよ。今まで苦しかったものが急に快感に変わる。この世に存在しなかった物語が生まれて、この世の中にいるはずのない人間が、この中には存在している。そうなったら「超面白い! みんなに見てもらいたい!」ってなるんですよ。実際にお客さんに見てもらって、笑ってもらったりすると、「わー、うれしい。次も撮りたい!」。そこからはもう中毒ですよね。

――元々は会社の企画がきっかけだったんですね。

照屋 だから、自分でつかみとっていく人生ももちろんあるじゃないですか。大学を途中でやめる、芸人やる、吉本入るとか、自分で選んだ道もありながら、他人の力によって流されていく人生っていうのも混ざってくる。そこが人生っていう波の面白いところなんですよね。泳ぎたい方向と、波で流されていく方向のどっちもありながら、帆を立てて風を受けて、たまには帆を下ろして風のままにいく。

僕は本来、出たい人間だから、初期作は全部自分も出てたんです。でも演出することだけに集中したくなってくるから、後半は出なくなるんですよ。撮らせてもらえるなら撮ることに集中したい。出たがりだったのに不思議ですよね。

まさに今、今度の長編の脚本を書いてる途中なんです。やっぱり0から1を生み出すのが一番つらいんですけど、脚本を書いていくと、その人が僕の頭の中から巣立っていくんです。僕がセリフを言わせてるんじゃなくて、独り立ちして勝手にしゃべりだす。そしたらもう書きながら自分が泣くんです。「うわあ、こいついいこと言うな」「お前なんでそんなこと言うんだよ」って僕が突っ込む。そうなったら面白いんですよ。自分が多重人格になってくるんです。

掘り下げれば、どんな人でも映画にできる

――最近では、沖縄を舞台にした作品が多いですね。

照屋 沖縄には、映画になる面白い風習とか文化がたくさんあるんです。アメリカ文化っていうのも色濃く残っていて、日本の中でもまれな美しい自然や生態系がある。陽の部分から陰の部分までたくさんある。

照屋年之監督
猪俣博史撮影

いつか沖縄戦のことも撮りたい。ただやっぱり中途半端な知識で書くわけにはいかないので、かなり時間をかけて勉強して、リサーチして、本当に何を訴えたいのかというのを明確にしてから撮りたいなと思ってます。沖縄が進んできた歴史っていうものも表現して、みんなに知ってもらいたいんです。

沖縄にいる時は、「こんな田舎なんて嫌だ」と思っていたのに、東京に来て、ようやく客観的な沖縄の素晴らしさが見えた。「あんな狭い島」って言いながら、その狭い島の100分の1も実は知らなくて、知れば知るほど魅力的だと思う。書こうと思ったら、沖縄って実はでかいんですよね。

人間というものも、書こうと思ったらいくらでも映画になるんだっていうことを、沖縄から学んだような気がします。

僕、ゆっくり話して人生を深く掘り下げて聞いていけば、どんな人でも映画を作れる自信があるんです。絶対、人は面白いはずですから。「俺なんて普通に生きてきただけ」っていう人もいますけど、自分がそう思っているだけで、他人はまた違う風に受け取りますから。本当に発想次第なんだなっていうのを、沖縄に教えてもらいました。

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