花のない花屋
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最後の書に感じた覚悟。友が生きた姿に

読者のみなさまから寄せられたエピソードの中から、毎週ひとつの「物語」を、フラワーアーティストの東信さんが花束で表現する連載です。あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら

〈依頼人プロフィール〉
山﨑基子さん(仮名) 64歳 女性
学術研究者
大阪府在住

    ◇

彼女は、聡明(そうめい)な女性でした。か弱そうでいて、心根は鉄骨並み。高校教師を見事に務めました。16歳で発症したという病との闘いをものともせずに——。

彼女は高校の2学年下の後輩。書道部で出会い、すぐに仲良しになりました。共に関西の大学生になった時、2人で東京に遊びに行ったこともあります。東京でたくさんの美術館をめぐるのが目的で、学生らしい宿に泊まり、思い出深い旅になりました。

それから約40年、「また東京に行こうね、こんどはあの坂の上のホテルにしようね」と約束しながらも、もうその約束は果たせません。数日前、彼女は62年の人生を終え、今日、私は彼女を見送りました。

病との闘いの人生でした。とはいえ、それはあとからわかったこと。病気のことはあまり周囲に知らせず、人知れず入退院を繰り返していたそうです。ときどき彼女からの連絡が途絶えることはありましたが、普段はあまりにも元気で、そして何より美しく輝いていたために、私を含め、病気のことに気がつく友人はほとんどいなかったと思います。

彼女の病気を意識するようになったのは、病状が進行した40代のことです。その後は何度も生死をさまよい、克服するたびに、「大丈夫、私は妖怪だから」とけろりと元気に笑ってくれました。寛容に自らの運命を受け入れる、そんな強さを彼女はもっていました。

書道科の教師だった彼女は、筆と墨と紙をこよなく愛し、好んで円相(〇)を書きました。筆に墨をたっぷり含ませて、グルーッと大きな円を書き、一言添えます。亡くなる数週間前の作品には、こんな文字がありました。「月と見るか日とするか、いや万十(饅頭〈まんじゅう〉)か煎餅(せんべい)か」。円相とチャーミングなメッセージを眺めるうち、まあるい宇宙に抱かれ、森羅万象を見つめる彼女の覚悟が感じられました。

最後の作品は、全紙(70×136㎝)6枚の大作だったそうです。別れの4日前のこと。体調に違和を感じながらも、病院に行くよりも作品作りを選んだと聞きました。

私は現在64歳、55歳のとき行くべき道に迷い、一度仕事を引退しましたが、60歳で再び研究者の道に戻りました。彼女の人生を思う時、「まだまだこんなもんじゃない! もっともっと頑張れる!」と、自らを叱咤(しった)激励する力が湧いてきます。これから海外に調査に出かけたり、80歳になっても研究を続けたりしたいと思うようになりました。

彼女は、生きる優しさと勇気を教えてくれました。ありがとう、あなたのことを思いながら、私はまた明日からの人生に挑戦してゆきます。お花が好きだったそんな無二の親友に、彼女との出会いに感謝するすべての人たちの思いも込めて、心からの花束を捧げることができればと願います。

最後の書に感じた覚悟。友が生きた姿に
≪花材≫テッポウユリ、サンダーソニア、マム、ピンポンマム、ネリネ、ベルテッセン(クレマチス)、宿根スイートピー、センニチコウ、サンタンカ、マリーゴールド、イソギク、リンドウ、ストック、カーネーション、ナデシコ、ハラン

花束をつくった東さんのコメント

チャーミングで聡明で、多くの人に慕われていたというご友人。生前は書道の教師をしていたということで、和の要素を入れながら、カラフルなアレンジに仕上げました。

和を演出してくれたのは、オリエンタルリリーのような派手さはないものの、清らかさを感じさせるテッポウユリや、宿根スイートピー、リンドウ、センニチコウなどなど。またナデシコやマムも入れています。

ご友人との出会いに感謝して、この先の人生を歩いていきたいという前向きなお気持ちを寄せてくれた投稿者様。そんなポジティブな気持ちが、天国のご友人に届くよう、明るいアレンジを心がけました。

最後の書に感じた覚悟。友が生きた姿に
最後の書に感じた覚悟。友が生きた姿に
最後の書に感じた覚悟。友が生きた姿に
最後の書に感じた覚悟。友が生きた姿に

文:福光恵
写真:椎木俊介

読者のみなさまから「物語」を募集しています。

こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。

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