マイナス20度の風景 ラップランドの冬の魔法

15分でまつ毛が凍る、樹氷の森さんぽ
次の日の朝、イグルーのまわりを思う存分散策することに。このとき、おそらく外気はマイナス20度前後だったと思う。零下では、カメラやスマホのバッテリーがすぐになくなってしまうことを聞いていたので、スマホにカイロを貼ってみた。耳が隠れる帽子と首巻きは必須、手袋はスマホの操作ができる薄手のものに、寒冷地仕様の分厚いものを重ねて、準備は万全だ。

マジックアワーが続く薄明の森は、明け方の夢の中の世界のように幻想的だ。青い空気の中にたたずむ木々は雪と氷に覆われて、雪の中では物音がほとんどしない。真っ白にいてつく木々は、遠くから見ると美しいガラスのオブジェのようなのに、近くに寄ってみると積もりたてのやわらかな雪が枝の先々までふんわりとのっていて、なんともかわいらしい。
日の出が近づくと、東の空はほんのりと明るくなり、えもいわれぬ美しい色になる。
サーミの人たちが暖を取るのに使ったという、円錐(えんすい)形の小屋「コタ」が埋もれるようにして立っていた。軒先にはつららが連なり、窓枠も凍っていた。

風はなかったので、寒いという感覚はあまりなかった。ただ、カメラやスマホを操作するために、厚手の手袋を外すと、すぐに強い冷気が薄手の手袋を通して伝わってくる。
自分の息が湿ってあたたかい。スチームのようで心地よいけれど、呼吸をする度にまぶたがだんだん重くなり、瞬きすると妙に冷たい。スマホのカメラで自分の顔を確認してみると、なんとまつ毛がびっしり白く凍っていた。
楽しくなってそのままシャッターを押した瞬間、たっぷり充電したはずのスマホのバッテリーは落ちてしまった。わずか15分間程度の散策の間での出来事だった。
ラップランドの旅では、町から町へと移動する際に出会った、ひとときの風景も印象深く忘れられない。レヴィからサンタクロース・ヴィレッジのあるロヴァニエミへの長距離バスの窓から見えた、森の中にぽつんと立つ小さな家にともっていた明かりや、森の中のいてついた停車場で一人バスを待っていた女の子、車内から見た午前11時のマイナス20度の夜明け。



日本を発つ前から楽しみにしていた犬ぞりも、オーロラも、トナカイのそりも、どれも旅のハイライトだったけれど、本当に心の中に残るのは、いつも、こうした旅のふとした瞬間の風景なのかもしれない。そしてそうした風景が、また次の旅への憧れを駆り立ててやまないのだと思う。
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北極圏は白夜がベストシーズンだと思っていましたが、写真やエッセイから冬も貴重な体験ができることを知りました。ガラスイグルーでのオーロラ鑑賞、樹氷巡り…体験してみたいです。