猫が教える、人間のトリセツ
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愛情の確かめかた。by あんずちゃん(飼い主・福島真樹子さん)

人間を思うがままに操る、飼い猫たちの実例集「猫が教える、人間のトリセツ」。
猫と暮らすニューヨーク」の筆者、仁平綾さんと、イラストレーターのPeter Arkle(ピーター・アークル)さんがお届けします。

看板猫って、いい仕事だなあと思う。店先で寝ているだけで、お客さんを呼びこめるし、接客もレジ打ちもしなくていい。骨董(こっとう)店タユタフの看板猫、あんずちゃんは、かなり勝手気ままなタイプで、お客さんが来店すると、そそくさと姿を消し、しれっと職場放棄することも。普段の生活も自由奔放、飼い主をずいぶん振り回しているようです。


トツ、ニコラス、まめ、あんずちゃん。4匹の猫と暮らすのは、石川県加賀市で骨董店タユタフを営む、福島真樹子(ふくしま・まきこ)さん。

「多いときは8匹の猫を飼っていた」という福島さんは、いわく“猫や犬を引き寄せてしまう体質”だそうで、「とくに自分が弱っているとき、さみしい気持ちのときなんかに限って、犬や猫と出会ってしまう」と話す。

もしや動物たちは、福島さんをなぐさめようとして姿を現すのか……。猫のまめは小学校のゴミ箱に捨てられていたところを、あんずちゃんは、なんと金沢バイパスという交通量の多い車道の真ん中で偶然見つけたのだそう。

愛情の確かめかた。by あんずちゃん(飼い主・福島真樹子さん)
保護したばかりの頃の、小さなあんずちゃん

それは、2017年5月のこと。福島さんが仕入れの市場から車で戻る途中、いつものようにバイパスを走っていたところ、前方の路上に毛の塊のようなものを発見。トラックや他の車が、その上をビュンビュン通り過ぎていく。どうやら塊が三毛柄っぽいことから、子猫であることを確信した福島さん。

「血も出ていないし、大丈夫かも、と思って。すぐに車を止めて、隙を見て道路の真ん中へ走っていって、パッとつかんで保護しました」

想像しただけでも、鳥肌が立つような救出劇。奇跡的にも、子猫は無傷だったという。ちなみにバイパスがある場所は、高台になっていてまわりには何もない。なぜそんな場所に子猫が?という謎なシチュエーション。当時、猫を6匹飼っていた福島さんだけれど、三毛柄の子猫に運命的なものを感じ、譲り渡さず自分で飼うことにした。

愛情の確かめかた。by あんずちゃん(飼い主・福島真樹子さん)
あまりに謎な発見場所に「カラスが偶然、道路に落としていったのかも?」と福島さん

あんずちゃんと名付けた三毛柄の子猫は、すぐに家になじみ、勝手気ままな暮らしを謳歌(おうか)。先住猫のニコラス(おじいちゃん猫)が寝ているところを踏みつけたり、気に入らないときはかみ付いたりとやりたい放題。2階建ての一軒家を自由に行き来し(他の猫は2階だけで暮らすなど、自分の縄張りのなかでつつましく生活)、1階にある骨董店では店番を買って出るものの、お客さんが来ると一目散に逃げて、仕事を投げ出すこともしばしば。

愛情の確かめかた。by あんずちゃん(飼い主・福島真樹子さん)
愛情の確かめかた。by あんずちゃん(飼い主・福島真樹子さん)
看板猫のあんずちゃんに会えるのを楽しみに訪れるお客さんもいるけれど、たいてい叶(かな)わず

自由奔放に暮らすあんずちゃんは、人使いも荒い。

「家のなかにロフトみたいなスペースがあるんですが、そこに自ら登って、すぐに降ろせって鳴くんです。私に降ろして欲しくて登る、という感じ。降ろすときは、あんずちゃん専用のキャットハウス(ドーム形の猫用ベッド)を私が持ち上げて、その上に乗ったら下へ降ろす、という決まりがあります……」

降ろしてもらったら、また登る。再び降ろしてもらって、登る。の繰り返し。飼い主をエレベーター係のように使うのだとか。「1日に何回も連続してやらされるので……。腰を痛めてしまいました」と嘆く福島さん。

愛情の確かめかた。by あんずちゃん(飼い主・福島真樹子さん)
エレベーターに使われるキャットハウス
愛情の確かめかた。by あんずちゃん(飼い主・福島真樹子さん)
エレベーターしてほしい時のあんずちゃんの必死な表情

エレベーター係のほかに、福島さんはトイレ応援係も担っている。

「あんずちゃんはうんちをするときに、トイレからニャーって鳴いて呼ぶんです。うんちするところを、見ていて欲しい、応援してほしい。だから、がんばれーって励まして、終わったら、すごいねーって褒めます(笑)」

福島さんが見守りや応援をしないと、あんずちゃんはずっとトイレに入ったまま、用を足さないのだとか。そうやって日々、あんずちゃんは飼い主に試練を課すことで「こちらの愛を確かめてる」と福島さんは笑う。

愛情の確かめかた。by あんずちゃん(飼い主・福島真樹子さん)
猫がかわいすぎて「出かけてもすぐ帰りたくなる。なんなら出かける前から帰りたいって思うぐらい」と福島さん

あんずちゃんをはじめ、数々の猫と暮らしてきた福島さん。

「猫を飼うようになって変わったことといえば、以前は北海道に住んでみたり、ベトナムに1カ月ほど行ってみたり、放浪癖みたいなものがあったのですが、それがなくなったことです。今思えば、お店を始めたのも、猫のおかげだったのかもしれません」と話す。

また同時に、猫との生活では「猫に教わることが多い」とも。その一番の学びは、猫を見送るという辛い経験からだという。

愛情の確かめかた。by あんずちゃん(飼い主・福島真樹子さん)
先住猫のアビちゃんに、突然絡むあんずちゃん。「まるでチンピラ」

最初の見送りは、福島さんが人生で初めて飼った猫、ロシアンブルーのキキとジジ。キキは糖尿病と腸の病気で、4回の手術を受けた末にこの世を去った。ジジは急に具合が悪くなり、病院の酸素室に一晩入院させた。

「鳴き叫んで、すごく嫌そうだったけれど、治療のため預けたままにしました。やはり気になって家に連れて帰ったのですが、その日の夜に、亡くなってしまいました。たとえ死ぬのが1日、2日早くなってしまっても、家にいたほうが良かったんじゃないか。そう思いました」

愛猫にはできるだけ長く生きてほしい。それが飼い主の願いだけれど、「病院に連れていくのは、自分のエゴかもしれないとも思った」と福島さん。以来、保護犬のムギも、姉妹猫のミーとモーも、最後は自宅で看(み)取った。ごはんを無理やり食べさせたりせず、無理な延命もしない。住み慣れた家で、最期の時間を共に過ごす。

「もちろん、いろんな後悔も出てきます。でもそうやって自分で看取ったほうが、私にも猫にも、お互いに良かった気がしています。それは、最初の猫のキキやジジから教えてもらったと思っています」

愛情の確かめかた。by あんずちゃん(飼い主・福島真樹子さん)
福島さんの初めて飼い猫、ロシアンブルーのキキ(左)とジジ(右)。どちらもペットショップで売れ残っていた猫だった

何匹もの猫を看取ってきた福島さんは、「すっかり猫のプロになりました」とほほ笑む。

「点滴も、糖尿病の注射もできます。犬のムギが寝たきりになったときは、床ずれの処置も覚えました。動物病院の診察台で、注射や処置の際に猫をおさえることも、上手にできるようになりました」

猫のプロにはなったけれど、愛猫の看取りは何回経験しても、決して慣れることはない。一昨年から昨年にかけて、猫のアビー、ミー、モー、犬のムギが立て続けにこの世を去り、「ダメージがかなり大きかった」と話す。ミーが旅立った時の福島さんのブログには、こんな切実な言葉が、つづられていた。

“ミーちゃんは猫なので当然しゃべれませんが、わたしにいろんなことを教えてくれました。死とは、受け入れること。いつか必ずやってくること。どうしたいのかは、じぶんが決める。ミーちゃんの意志を尊重することにしました。感謝の気持ちでいっぱいです。”

愛猫から教わることは、本当に計り知れない。「ありがとう」。今日も、そんな感謝の気持ちを胸に。たとえどんなに猫に振り回されても、巧みに操られても、引っかかれても、かみつかれても……。

愛情の確かめかた。by あんずちゃん(飼い主・福島真樹子さん)
ミー、まめ、トツ、ニコラス。ニコラスの体臭はメープルシロップのような良い香り
愛情の確かめかた。by あんずちゃん(飼い主・福島真樹子さん)
完全に仕事放棄しているあんずちゃん
愛情の確かめかた。by あんずちゃん(飼い主・福島真樹子さん)
「お店の棚の上や間に数カ所、あんずちゃんのためにクッションを置いています。商品を置かずに……」
愛情の確かめかた。by あんずちゃん(飼い主・福島真樹子さん)
自分で勝手に高いところに登っておいて、降りるときは助けを呼ぶ。それが猫という生き物
PROFILE
福島真樹子

石川県加賀市にて骨董店タユタフを営む。京都の岡崎公園にて毎月開催されている「平安蚤の市」にも出店。
ホームページ:https://www.tayutafu.com
インスタグラム:https://www.instagram.com/_tayutafu/

タユタフ
石川県加賀市大聖寺中町48
13:00-18:00(冬期は13:00-17:00)
不定休(営業日はHPに記載)
mail:tayutafu8@icloud.com
TEL : 0761-72-0555

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