花のない花屋
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わだかまりが消えた今。気が弱くて、やさしかった夫へ

読者のみなさまから寄せられたエピソードの中から、毎週ひとつの「物語」を、フラワーアーティストの東信さんが花束で表現する連載です。あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら

〈依頼人プロフィール〉
森佐喜子さん(仮名) 67歳 女性
カラオケ居酒屋経営
愛知県在住

    ◇

最初の結婚相手とは子どもが生まれてすぐに離婚。働きながらひとりで子育てしているとき、毎日のように私の勤める居酒屋にご飯を食べにきてくれたのが夫でした。お酒も飲めず無口でしたが、コーラ片手に私のおしゃべりを静かに聞いてくれる。そんな夫に安らぎを感じ、子どもが中学生になったときに、子連れで再婚することを決めました。

ところが当時の夫は運送業でバリバリ働いていて、景気が良かったからでしょう。遠くに住む義姉や義母から、「家を直したい」とか、「あれを買いたい」など、しばしばお金の無心が来るようになりました。心根はやさしく、気の弱いところもある夫は、それを断ることができず、工面して送っていました。

でも送っても送っても無心はやむことがなく、夫は私の持っていたマンションを担保に入れて借金をしてまで、お金を送りたいと言うようになりました。私は再婚で、しかも子連れという負い目もあり、10年ほどは苦しみながらも夫との生活を続けていましたが、この頃から義姉や義母との関係がいつも心の重しとなり、顔面神経麻痺(まひ)やパニック障害、うつ病などの病気に苦しむようになりました。

夫と2人で病院を受診すると、「しばらく離れて暮らしては」と医師にアドバイスされました。私たち夫婦は孫を養子に迎え、一緒に暮らしていましたが、その孫が残ってくれると言ってくれたので夫を託し、私はひとりひっそりと家を出ました。

半年ほどすると、夫や子どもと月1くらいの割合でご飯を食べにいくような、つかず離れずの不思議な家族関係が始まりました。結局離婚はせず、別居生活が始まって十数年が経ったとき、持病がもとで夫ががんになり、2カ月ほどで他界してしまいました。

あれから5年。時は本当に偉大です。当時の苦しさを忘れることはありませんが、気がつけばもう、夫に対するさまざまなわだかまりが消えています。私たちが別居せざるを得なかったのは、家族のお金のトラブルが原因。決して、やさしい夫との一対一の関係が悪かったわけではなかったことにも気がつきました。

同時に湧き上がってきたのが、さまざまな後悔です。夫が亡くなった当時、病院に駆けつけたものの臨終にぎりぎり間に合わず、対面した夫は最期によほど苦しかったのか、顔にたくさんの汗をかいていました。この汗を拭って、少しでも夫を苦しみから救ってあげられたら……。そう思ったことを今もよく思い出します。

また亡くなる直前に夫が一時退院をしたときも、こんなことがありました。夫を家に送り届けた私が自分の家に帰ろうとすると、普段は照れ屋で引き留めることなどない夫が「帰るんか……」とつぶやいたのです。そのさみしそうな声が、今も耳に残っています。

最後までごめんね。そんな気持ちとともに、お花を天国の夫に贈ってあげられればと応募しました。

わだかまりが消えた今。気が弱くて、やさしかった夫へ
≪花材≫バラ、ケイトウ、アルストロメリア、カーネーション、マリーゴールド、ハラン

花束をつくった東さんのコメント

心根がやさしかったという亡くなられたパートナー。そんなイメージにちなんで、暖色系のお花を集めた作品に仕上げました。

ユリズイセンの別名もあるアルストロメリアやカーネーションなどオレンジの花を中心に集め、そのまわりをマリーゴールドがぐるっと囲んでいます。まるでベルベットのようなオレンジのケイトウも、見る人をほっこりさせてくれるでしょう。

投稿者さまのお気持ちがお花とともに届くと同時に、投稿者さまもお花を眺めて心を癒やしていただけたらうれしいですね。

わだかまりが消えた今。気が弱くて、やさしかった夫へ
わだかまりが消えた今。気が弱くて、やさしかった夫へ
わだかまりが消えた今。気が弱くて、やさしかった夫へ
わだかまりが消えた今。気が弱くて、やさしかった夫へ

文:福光恵
写真:椎木俊介

読者のみなさまから「物語」を募集しています。

こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。

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