花のない花屋
連載をフォローする

寄り道を重ねた30代。本当の幸せは身近なところに

読者のみなさまから寄せられたエピソードの中から、毎週ひとつの「物語」を、フラワーアーティストの東信さんが花束で表現する連載です。あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら

〈依頼人プロフィール〉
吉井雅子さん(仮名) 40歳 女性
派遣社員、ジュエリーデザイナー
東京都在住

    ◇

 11月末で、40歳という節目の歳を迎えました。海外での仕事に憧れ、20代後半で2年間スイスで仕事をして帰国。それが私の30代の始まりでした。東京に戻り、ドイツ系外資の会社へ就職して仕事に打ち込んでいた2014年、大学時代の同級生ががんで亡くなりました。私は怖くなって、人間ドックを受診。胆嚢(たんのう)に大量の石が見つかり、医師に胆嚢の切除を勧められました。

手術が決まった矢先、今度は両親が出先で交通事故にあいました。幸い2人とも一命は取り留めましたが、ドクターヘリも出動した大きな事故で、2人同時に入院。その後、治療の関係で、母のみが、私が手術を受ける予定の病院に転院してきました。

母を見舞う一方で、私もMRIやCTなどの事前検査を受けたところ、「肺に影のようなものがある」「甲状腺も腫れていますね」と、病気が次々に見つかりました。胆嚢切除を皮切りに、1年も経たないうちに乳頭がんで甲状腺の3分の2を切除、早期肺がんで右肺の11%を相次いで切除しました。

思いもよらない事態に、目の前が真っ暗になった私を励ましてくれたのが、治療をがんばる両親の姿でした。リハビリに打ち込む両親を、私が支えたいという気持ちが大きくなり、その気持ちが今度は自分のがんばりにもつながりました。両親はけが、私は病気と治療の種類は違いますが、両親の前向きさを間近で見られたからこそ、3回の手術を乗り越えられたと思っています。

私も手術後は1日でも早く仕事の遅れを取り返したいと、できるだけ早く職場に復帰。手術のたびに必死にはい上がり、昇進もしました。とはいえ手術以前の自分に戻ろうともがいても、どうしても身体はついてきてくれませんでした。がんばりすぎると無理がたたり、1年に何回も、風邪などで寝込むようになってしまいました。

私は何がしたいんだろう……そう自問自答を繰り返し、元の私に「戻る」ことは諦めました。自分がずっと憧れて、病気の前から講座などで勉強していたジュエリーデザインの世界へ飛び込むことを決め、心機一転、会社を退職しました。

迷いながら、人生の道筋をガラッと変えようとする私の背中を押してくれたのも、また両親です。「やりたいことをやりなさい」と、惜しみない応援を送ってくれました。

あれから約3年。夢を叶(かな)えてジュエリーデザイナーとなり、自身のブランドも立ち上げ、今度はもっとブランドを大きくしたい、デザイナーとしてもっと活躍したいという、新たな理想が生まれ、再び息切れを感じるようになりました。そんなとき訪れたのが、コロナ禍でした。

仕事ができなかった期間、しばしば実家に帰り、私の作った料理を食べたり、おしゃべりをしたりと、両親と長い時間を一緒に過ごすようになりました。両親を支えることが、今度は私の心に安らぎをくれました。その後、私は別の職種の会社で派遣社員として働くようになり、ジュエリーデザインは趣味として楽しんでいます。

夢を叶えようとがんばって人生の寄り道を重ねましたが、本当の幸せは実は家族という身近なところにもあったのです。そうしていろんな鎧(よろい)を脱いで、本来の姿で40歳のスタートを切れそうな私を支えてくれた両親への感謝の気持ちを伝えたくて、2人の大好きなお花を贈ることができればと思います。

寄り道を重ねた30代。本当の幸せは身近なところに
≪花材≫ダリア、マム、ストック、ナデシコ、トルコキキョウ、ヒペリカム、テクトラム、フリージア、ポリシャス、リキュウソウ、ピットスポラム

花束をつくった東さんのコメント

投稿者様にとっては40歳の節目の年。白と緑で、ご両親へのナチュラルな思いを表現しました。

春の花フリージアを一足早く使ったほか、トルコキキョウ、ナデシコ、そしてエアプランツのテクトラムなど、ナチュラルでありながら、投稿者様のイメージのようなモダンさも加えてあります。

ご自身も大変な事故を克服されたなか、投稿者様の苦難を一緒に見守ってくれたご両親。そして投稿者さまとご家族3人の癒やしになればと作った作品です。

寄り道を重ねた30代。本当の幸せは身近なところに
寄り道を重ねた30代。本当の幸せは身近なところに
寄り道を重ねた30代。本当の幸せは身近なところに
寄り道を重ねた30代。本当の幸せは身近なところに

文:福光恵
写真:椎木俊介

読者のみなさまから「物語」を募集しています。

こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。

応募フォームはこちら

REACTION

LIKE
連載をフォローする

SHARE

  • LINEでシェア

FOR YOU あなたにおすすめの記事

POPULAR 人気記事

※アクセスは過去7日間、LIKE、コメントは過去30日間で集計しています。

RECOMMEND おすすめの記事

&MEMBER限定の機能です

&MEMBERにご登録(無料)いただくと、気に入った記事に共感を示したり、コメントを書いたり、ブックマークしたりできます。こうしたアクションをする度にポイント「&MILE」がたまり、限定イベントやプレゼントの当選確率が上がります。

&MEMBERログイン

ID(メールアドレス)
パスワード

パスワードを忘れた方はこちら

&MEMBER登録はこちら

&MILEの加算アクション

  • &MEMBER新規登録:100マイル
  • 記事に「LIKE」を押す:10マイル
  • コメントの投稿:30マイル
  • 自分のコメントに「LIKE」がつく:10マイル
  • *今後、以下のアクションも追加していきます

  • 朝日新聞デジタル有料会員の継続:100マイル
  • ログインしてサイト訪問:10マイル
  • アンケート回答:30マイル
  • 「朝日新聞SHOP」での購入:50マイル
  • イベント申し込み:50マイル

&MILEの獲得数に応じてステージがあがり、ステージがあがるごとに
&MEMBER限定のイベントやプレゼントの当選確率が上がります。詳細はこちら