「信じてくれる人がいるから戦えた」 映画「ダーク・ウォーターズ」主人公のモデルにインタビュー

『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』より。© 2021 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.

12月17日公開の映画『ダーク・ウォーターズ』は、米大手化学薬品メーカーによる水質汚染を暴いた弁護士の孤独で長い闘いを描いた作品だ。サブタイトルは「巨大企業が恐れた男」。その主人公のモデルとなった実在の弁護士、ロバート・ビロット氏にインタビューした。

ビロット氏は1990年代の終わりに、訪ねてきた農夫から「牧場の牛が次々と死んでいる」と聞いた。地道な調査を重ねた末、汚染源は米大手化学薬品メーカーの工場でつくられる有機フッ素化合物(PFOA)であることを突き止める。それは、テフロンの名で知られる、焦げつき防止加工のフライパンに使われていた。

PFOAは水も油もはじく特性があり、フライパンに限らず、防水スプレーやレインコート、カーペットといった日用品から、半導体や自動車部品、さらには航空機火災用の泡消火剤まで用途は幅広い。「台所から宇宙まで」どこにでもある、と言われるほどだ。

「信じてくれる人がいるから戦えた」 映画「ダーク・ウォーターズ」主人公のモデルにインタビュー
ロバート・ビロット氏

一方で、なかなか分解されず、環境中や人間の体内に蓄積されやすいため、「永遠の化学物質」とも呼ばれている。その代表的なものが、焦げつき防止のフライパンに使われていたPFOAだった(製品そのものの使用による健康への影響はない、とされる)。

「信じてくれる人がいるから戦えた」 映画「ダーク・ウォーターズ」主人公のモデルにインタビュー
『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』より。© 2021 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.

ビロット氏は語る。

「牛が次々と死んでいるという話を聞いたときには、汚染源を探り、対策をとるようにすれば、すぐに解決できるだろうと思っていました。でも調べていくうちに、規制対象外の化学物質が原因で、PFOAを使っている工場の労働者や、工場近くを流れる川の流域住民たちに健康被害が相次いでいることがわかってきたのです」

しかし、メーカーに責任を認めさせるには、PFOAと健康被害の因果関係を住民側が証明しなければならない。壁は厚かった。ビロット氏は、内部文書を手に入れ、約7万人の健康調査をメーカー側に行わせることに成功する。

「誰も知らない大変なことが起きていると知ってしまった以上、それがやるべきことだと思ったのです」。だが、かつてない規模の調査だけに、分析には時間がかかる。そのうえ、いつ結果が出るとも知れない。もし、健康影響との因果関係が認められなければ……。

結論を待つ間、勤務先の事務所からの給料は減り、住民たちからはいらだちの声がぶつけられた。メーカーの責任を追及した依頼人たちは地域コミュニティーから疎外され、一人またひとりと命を落としていく。でも、どうすることもできない。ビロット氏は次第に孤立を深めていった。

「支えてくれたのは家族でした。信じてくれる人がいること。なにより、妻と出会えたことが大きかったです」

「信じてくれる人がいるから戦えた」 映画「ダーク・ウォーターズ」主人公のモデルにインタビュー
『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』より。© 2021 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.

7年後に出された結論は、六つの病気と関連する可能性を認めるものだった。腎臓がん、精巣がん、潰瘍(かいよう)性大腸炎、甲状腺疾患、高コレステロール、妊娠性高血圧症。

その結果、メーカーは和解に応じ、3500人を超える原告に760億円を超える和解金を支払った。とはいえ、闘いが終わったわけではない、とビロット氏は言う。

「PFOAは数千種類とも言われる有機フッ素化合物の一つにすぎません。でも、製造・使用を禁止されているのはPFOAとPFOSだけ。いまも多くが使われつづけているのです。アメリカだけでなく世界で、もちろん日本でも」

20年以上にわたる活動で、巨大企業に汚染を認めさせ、米政府を規制へと動かしてきた。ただ、無敵に見える弁護士にも弱点はあるらしい。

「(家の中のいさかいになれば)いつも勝つのは妻のほうです」

ビロット氏はそう言って、はにかんだ。

(文=諸永裕司)

『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』

1998年、オハイオ州の名門法律事務所で働く企業弁護士ロブ・ビロットが、見知らぬ中年男から思いがけない調査依頼を受ける。ウェストバージニア州パーカーズバーグで農場を営むその男、ウィルバー・テナントは、大手化学メーカー、デュポン社の工場からの廃棄物によって土地を汚され、190頭もの牛を病死させられたというのだ。さしたる確信もなく、廃棄物に関する資料開示を裁判所に求めたロブは、“PFOA”という謎めいたワードを調べたことをきっかけに、事態の深刻さに気づき始める。デュポンは発ガン性のある有害物質の危険性を40年間も隠蔽し、その物質を大気中や土壌に垂れ流してきたのだ。やがてロブは7万人の住民を原告団とする一大集団訴訟に踏みきる。しかし強大な権力と資金力を誇る巨大企業との法廷闘争は、真実を追い求めるロブを窮地に陥れていくのだった……。

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