(140) 偶然訪れた谷間の時間 永瀬正敏が撮った南仏
国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回は南仏アンティーブで撮った一枚。教会の前に偶然訪れた「谷間の時間」が写っています。それは……。

教会の前に1人の女性がたたずんでいた。
鉄枠の十字架の前に、ひとりで。
十字架を支える土台の上に、
十字架の両脇を彩る伸鉄のオブジェ(飾り)のようなものがあり、
腕を後ろに組み、その場にたたずむこの方のフォルムは、
何となくシンメトリーのような一体感がして、カメラに収めた。
両サイドのアーチと十字架の直線、
そのコントラストも何だか気に入った。
たくさんの人がこの教会の前を行き交っていたのだが、
ある一瞬、その人混みが消えた瞬間があった。
その谷間の時間にシャッターを切った。
そして偶然、ここにはこの方しかいないような写真が撮れたのだ。
偶然? 必然?
たまにそういう瞬間がある。
その時レンズを向けていなければ、その瞬間をとらえることは出来ないわけだし、
タイミングも含め、ある時間の狭間を切り取れた幸運なショットだ。
「神様が撮らせてくれた瞬間かもしれないな……」
教会の前という場所柄、そんなことも考えながら、
僕はカメラを頭上に向けていった……。
(次回へ続く)
奇跡のショットですね!
この写真、とても素敵です。
次回も楽しみにしています。
写真のフレームの外は人混みなのに一瞬だけ訪れたシャッターチャンス。それを神様がくれた〝谷間の時間〟と表現された永瀬さん。
それを読む前の私は〝谷間の時間〟と言うタイトルに別の谷間を感じていました。
十字架が掲げられているアーチの奥の景色が右と左で全く違うので、この十字架の前、女性が立っている場所に〝谷間の時間〟を見ていました。
先ずは永瀬さんのコメントを読まずに写真を眺めて、充分堪能させて頂いてからその時のエピソードやその写真への思いを知って改めて眺める。
いつもそうやって楽しませて頂いてます。今回はまさにその醍醐味、写真の楽しさを感じました。