ニッポン銭湯風土記
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東京・三河島で出会う「江戸」の幻影(後編) 雲翠泉

目の覚めるようなペンキ絵・タイル絵。湯船が真ん中にあることでさらに輝いて神々しい=東京都荒川区の雲翠泉

旅が好きだからといって、いつも旅ばかりしているわけにはいかない。多くの人は、人生の時間の大半を地元での地道な日常生活に費やしているはず。私もその一人だ。が、少し異なるのは、夕方近くにはほぼ毎日、その地域で昔から続く銭湯(一般公衆浴場)ののれんをくぐることだろうか。この習慣は地元でも旅先でも変わらない。昔ながらの銭湯の客は、地域の常連さんがほとんど。近場であれ旅先であれ、知らない人たちのコミュニティーへよそ者として、しかも裸でお邪魔することは、けっこうな非日常体験であり、ひとつの旅なのだ。

【動画】東京都荒川区の雲翠泉。富士山ペンキ絵は帝国湯と同じく故・早川利光絵師によるものだが、保存状態が良い。おかみさんによると、「湯船が壁の絵と離れているから湯気による劣化が少ない」とのこと(男湯側から)

前編から続く

老舗のゆくえ案じ、再び銭湯密集地帯・三河島へ

私の知る関西の銭湯好きには、東京で一番印象に残った銭湯として「三河島の帝国湯」(荒川区)の名を挙げる人が多い、と前回書いた。だが実を言うとこれには続きがあって、「そこから歩いて3分の雲翠泉(うんすいせん)もね」と付け加える人が何人もいた。私はそこへはまだ行ったことがなかったので、その銭湯らしからぬ名前を聞くたびに「この人もまたウンスイセンの名を! うむむ、早く行かねばな」と思い続けていた。広い東京には多様な銭湯がたくさんあるのに、なぜ「三河島」の「歩いて3分」なのだろう。

ところが2021年の正月早々、「雲翠泉が休業している」との情報がSNSに流れた。私は瞬間的に嫌な予感がした。古い銭湯が休業した場合、そのまま廃業してしまう事例をこれまでさんざん見てきたからだ。

休業再開繰り返し、健在だった「レトロ宝石箱」

それからしばらくして、雲翠泉が再開したとのうれしい情報が流れた。ところが喜んだのもつかの間、1週間ほどで再び休業情報が流れ、その後2度目の再開情報。10月には3度目の休業、そしてまた再開。いったいどうなっているのか。ともかく今は営業しているらしい。次回東京へ行ったら必ず雲翠泉に行こうと決めていた私は、帝国湯を訪ねた翌日に再び三河島へ赴き、帝国湯の前を通り過ぎて3分の雲翠泉へとやってきた。実際に歩いてみるとこの距離は驚くほど近い。しかも銭湯が次々に廃業するこの時代に、どちらも昔ながらの風情を濃厚に漂わせる銭湯として生き残っていることに驚かされる。

玄関部分は帝国湯のような破風屋根ではなく、大阪の銭湯でよく見られる凸型玄関
玄関部分は帝国湯のような破風屋根ではなく、大阪の銭湯でよく見られる凸型玄関

靴を脱いで脱衣場へ入ると、年季の入った木製番台に女性が座っている。

配布されたポスターやカレンダーがすべて貼られた番台周辺。この銭湯が商売上の何らのコンセプトも狙っていない、いわゆる昔ながらのご近所銭湯であることが感じられる
配布されたポスターやカレンダーがすべて貼られた番台周辺。この銭湯が商売上の何らのコンセプトも狙っていない、いわゆる昔ながらのご近所銭湯であることが感じられる

脱衣場は帝国湯に比べるとコンパクトながらも、典型的な伝統的東京銭湯スタイルだ。

【動画】高々とした折上げ格天井(ごうてんじょう)と、大きな開口部の透明ガラス。この開放感が伝統的な東京銭湯の真骨頂だ

だが帝国湯の重厚な空間美に比べると、どことなくかわいらしくて、あたたかな雰囲気が漂っている。この時点で、「雲翠泉が好き」と言った人たちの気持ちがなんとなくわかったような気がした。

女湯脱衣場のほっこり感。ちょっと昼寝でもしていきたいような
女湯脱衣場のほっこり感。ちょっと昼寝でもしていきたいような
天井扇の渋い色合い
天井扇の渋い色合い
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