「目標だった場所にたどり着いても、幸せかどうかは分からない」上田慎一郎監督×皆川暢二 映画『ポプラン』

僕はいまだにつかめない。つかもうとするとスルッと逃げる、そんな魅力がある(皆川)
田上を演じた皆川さんは、ほぼ全シーンに登場している。スーツ姿から、シャツにスラックス、ランニングにショートパンツと、ポプラン探しが進むに連れて、徐々に裸に近づき、子供に戻っていくようなビジュアルも面白い。

皆川:「撮影は、2020年の9月から10月に約2週間で行いました。一瞬で駆け抜けた夏休みみたいな感じでした。本当に一生懸命ポプランを追いかけた、絵日記のような作品だと思っています。僕は作品を3回見たのですが、こんなに全シーンに自分が出ているというのもなかなかなかったですし、まだ客観的に見ることが出来ていないです。撮影していた時のイメージとガラリと変わった部分もあって、僕はいまだにつかめない。手でガシッとつかもうとすると、スルッと逃げるというか。そんな魅力がある作品だと思っています」
映画を見終わって何度も反芻(はんすう)してしまうのが、自分は田上のようになっていないか。情熱を燃やしながら、人生に向き合っていられるかという問いかけでもある。映画監督と俳優を生業(なりわい)にする2人は、どんな衝動や魅力に取り憑かれ、前に進んでいるのか。
上田:「それって“心の勃起”ですよね。大人になるに連れて、心の勃起がしづらくなるのは確かです。僕は中学生の時からハンディカムで自主映画のようなものを作り始めました。最初はただ撮りたいから、楽しいから撮っていました。お金をもらえるからとか、褒められるからとかではないんですよ。撮る行為自体が好きで撮っていたんですけど、それが職業になって、結果を残さないといけなくなる。そうなるとただ楽しむだけじゃない、考えなきゃいけないこともたくさん出てくる。でもそっちにより過ぎると、心の勃起が何もなくなっちゃうから気をつけないといけない」
皆川:「言葉だけ切り取るとインパクトがありますね(笑)。僕は、結構直感で動くんです。やりたいと思った瞬間にやらないと、タイミングを逃してしまうから。それは自分の経験上、そういうのが多かったからで、やりたいと思った瞬間にやる。ただし、やりたいことだけをやるわけにはいかない。でも、僕はやりたいと思ったことに、協力してくれる人がいたら、その人も一緒に巻き込みながら、進めて行けたらと思います。何かチャレンジしている瞬間が一番面白いんですよね!」

上田:「自分を出せない仕事が続いてくると、しんどい。自分がやりたいことをやりつつ、各方面の期待にも応える。このバランスが難しい。最初にも言いましたが、ゴールだと思っていた場所にたどり着いた時、そこを目指していた時と今、どっちが楽しいかな、と。お金と名誉と地位がある人と、それは無いけど好きな仲間に囲まれて楽しくやっている人と、どっちが楽しいか、どっちが成功と言えるのか。そういう問いかけはずっとあります。答えははっきりとは分からないし、ずっと分からないかもしれないですね」
皆川:「それは僕も同じです、答えはずっと出ない気がします」
あらすじはシンプルだけど受け取り方は十人十色。見る人を映す鏡のような作品(上田)
イチモツを探す旅は、見失った宝物を改めて探しに出る物語だ。最後に上田監督から、これから作品を見る人へメッセージをもらった。
上田「物語のあらすじはシンプルだけど、受け取り方は十人十色。見る人を映す鏡のような映画になった気がします。見て何を感じるか、何を表しているか、あえて見た人の受け取り方を広くしておきたいと思っています。見た人から感想を聞くのが面白いんですよね。この映画をきっかけに、それぞれの倫理観、価値観を話してくれたらいいと思います」
(文・武田由紀子/写真・花田龍之介)
1月14日公開
出演:皆川暢二、アベラヒデノブ、徳永えり、原日出子、渡辺裕之
監督・脚本・編集:上田慎一郎
音楽:鈴木伸宏 Lee Ayur
企画・制作:PANPOCOPINA
配給:エイベックス・ピクチャーズ
©映画「ポプラン」製作委員会
公式サイト:https://popran.jp/
公式Twitter:https://twitter.com/cinemalab_jp
東京の上空を高速で横切る黒い影。ワイドショーでは「東京上空に未確認生物?」との特集が放送されている――。田上は漫画配信で成功を収めた経営者。ある朝、田上は仰天する。イチモツがなくなっていたのだ。田上は「ポプランの会」なる集会に行き着く。そこではイチモツを失った人々が集い、取り戻すための説明を受けていた。「時速200キロで飛びまわる」「6日以内に捕まえねば元に戻らない」「居場所は自分自身が知っている」。田上は、疎遠だった友人や家族の元を訪ね始める。家出したイチモツを探す旅が今はじまる――。
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高校生の息子が上田監督作品が大好きなんです。
たぶん今回も映画館に観に行くと思います。
主人公は「今の時代から見れば最後の化石みたいな人物」なんだ。へー、と。
いつもなら父親や家族と一緒だけど、この作品は一人で観たがるかも(笑)
さっそく記事を息子に紹介します。