キネマの誘惑
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「目標だった場所にたどり着いても、幸せかどうかは分からない」上田慎一郎監督×皆川暢二 映画『ポプラン』

監督の上田慎一郎さん(左)と俳優の皆川暢二さん/写真撮影=花田龍之介

朝起きて、自分の男性器がなくなっていたら……そんなシュールな設定から始まる映画『ポプラン』が公開される。手がけるのは、『カメラを止めるな!』(2018年)で旋風を巻き起こした上田慎一郎監督、主演は『メランコリック』(2019年)で主演兼プロデューサーを務めた皆川暢二さんだ。

ファンタジー、人間ドラマ、ロードムービー、さまざまな要素を詰め込んだ“型破り”な作品は、どう生まれたのか。映画に込めたメッセージや2人が共有するある感覚、仕事観について話を聞いた。キーワードは“心の勃起”、あなたは何かに心動かされて生きているだろうか。

「目標だった場所にたどり着いても、幸せかどうかは分からない」上田慎一郎監督×皆川暢二 映画『ポプラン』
花田龍之介撮影

10年前に思いついたアイデア。朝起きたら、アレが家出している話(上田)

『ポプラン』の構想は10年前、上田監督がふと思いついたアイデアが発端になっている。映画実験レーベル・Cinema Lab(シネマラボ)から「メジャーには作れないような作品を作って欲しい」と声を掛けられ、提案したのが『ポプラン』だった。

上田監督:「僕がまだ20代後半でバイトをしながら自主映画を作っていた時に思いついたアイデアです。朝起きたら、自分のアレ(男性器)が家出をしていた、それを探しに行くロードムービーです。脚本もすぐに書きました。なぜそんなストーリーかと言えば、単純に面白そう、という思いつきだったのですが、当時から主人公像も変わってきていて。自分もこの10年の間に成功もあれば失敗もあったし、結婚して子供もできて。ここ数年で、男性観や女性観も変わってきましたからね。その中で、意味も少し変わってきたと思います」

「目標だった場所にたどり着いても、幸せかどうかは分からない」上田慎一郎監督×皆川暢二 映画『ポプラン』
花田龍之介撮影

男性器=イチモツを失う主人公、田上を演じるのが皆川暢二さん。皆川さんのキャスティングは、映画化が決まり脚本を書き直した時にある程度決めていた。その理由は、皆川さんが経験してきたこと、置かれた境遇が自分と似ていたことが大きかったという。

上田:「主演を誰かと考えた時、肩を組んでがっつりやってくれる人、そして自分が経験してきたことと近いものを共有できる人がいいだろうと思ったんです。『カメ止め』は2018年、『メランコリック』は2019年にヒットした。成功した後にいる人、成功の後の壁を知っている人がいいなと思いました」

「目標だった場所にたどり着いても、幸せかどうかは分からない」上田慎一郎監督×皆川暢二 映画『ポプラン』
皆川さんが演じる主人公は、オンラインの漫画配信で成功を収めた社長 ©映画「ポプラン」製作委員会

皆川:「内容については上田さんから直接説明していただくと、具体的な内容は、言い渋っていた感もありました(笑)。初めてZOOMで打ち合わせした際、イチモツを探すという設定が奇抜ではあるんですが、描きたいドラマの軸を共有してもらって、是非僕も参加させてもらいたいと思いました。コメディー一色なら、僕じゃない俳優さんの方がいいんじゃないかと思いましたが、直球で真剣に人間ドラマを作ろうとされているとお伺いして、さらに面白そうだし、挑戦させてもらいたいと思いました」

スターになっても次の壁が現れる。社会的地位が違っても、それは変わらない(皆川)

主人公の田上は、オンライン配信漫画で成功を収めた社長。ある朝起きると自分のイチモツがなくなっていた。田上は“ポプランの会”なるイチモツを失った人が集まって、取り戻すための講習会に参加し、説明を受ける。「時速 200 キロで飛びまわる」「6 日以内に捕まえないと元に戻らない」「居場所は自分が知っている」というヒントを元に、イチモツ=ポプランを探す旅に出る。

「目標だった場所にたどり着いても、幸せかどうかは分からない」上田慎一郎監督×皆川暢二 映画『ポプラン』
©映画「ポプラン」製作委員会

成功の先にあるもの、それは栄光の未来なのか。ポプラン探しで描かれているものは、人生で置き去りにしたもの、忘れていた情熱的な衝動を振り返る作業だ。それは私たちも経験のあることで、働くためや稼ぐために日々妥協を繰り返しながら生きる姿にも重なる。

上田:「僕の場合、映画監督になれたらゴールだと思っていたんです。役者ならバイトを辞めて、役者だけで飯を食っていけるみたいな。そんな憧れが実現しても、すぐにただの通過点でしかないと気づかされました。映画監督で食えるようになれば幸せだし、夢のようなバラ色の生活が送れると思ったんですけどそうじゃない。日本が誇る大スターになってもそれはゴールじゃない。人生は全然シンプルじゃないんですよね」

皆川:「スターになったらなったで、また違う壁が現れる。それはどんな社会的地位にいても無くならない部分ですよね。そういったことを何かしら感じる瞬間が僕にもあって、それを監督が何か共感できる部分があるんじゃないかと言ってくださっているんだと思います」

『ポプラン』に登場する男性キャラクターは、とても多様だ。田上はやり手の社長だが、育児にも仕事にも積極的なアットホームな父親、ポプランを失っても静かに生きる若者、情熱を失わず仕事に打ち込む元同僚。そんな中で田上の存在は、今の時代に失われた男性観や男性優位主義の見本のようにも映る。

「目標だった場所にたどり着いても、幸せかどうかは分からない」上田慎一郎監督×皆川暢二 映画『ポプラン』
©映画「ポプラン」製作委員会

上田:「漫画配信会社の社長は、取材してみるとそこまでバブリーな人は多くなくて、もっと草食系で庶民派の人も多いんです。でもこういう人もいるよね、とリアリティの中で田上を作りました。田上は、今の時代から見れば最後の化石みたいな人物ですよね。ジェンダー的にも田上のような男性性を振りかざしている人への風当たりは、ここ数年で一気に強くなったと思います。面白いと思うのは、この話は男性性を取り戻す話にも見えるし、男性性を手放す話にも見える。どちらにも取れるところです」

NEXT PAGE僕はいまだにつかめない。つかもうとするとスルッと逃げる、そんな魅力がある(皆川)

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