野村友里×UA 暮らしの音
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野村友里さん×UAさん対談 年を重ねた今が楽しい

「eatrip」を主宰する料理人の野村友里さんと、現在カナダの島で暮らす歌手UAさんの往復書簡「暮らしの音」。互いをソウルメイトと称し、手紙のやり取りを重ねる2人がオンラインで語り合い、昨年を振り返り今年への思いをはせました。

野村友里さん×UAさん対談 年を重ねた今が楽しい

――2021年はどんな年でしたか?

UA:AJICOの20年ぶりの再始動とライブツアー、「UA x NARUYOSHI KIKUCHI Cure jazz in Blue Note Tokyo 2021」など、たくさんのショーの舞台に立ち、たくさんの作品を発表した1年でした。

私がステージの上で音楽を表現し、それを心から必要としてくださる方々と同じ空間を共有する。これは以前と変わらないけれど、隣の人の汗を感じるほどだった距離感は遠のき、マスクをしたまま声援も上げられない。そんな状況にもかかわらず、以前にも増して会場の一体感や熱い何かを感じて。この感覚は一体なんだろう? と。

FUJI ROCK FESTIVAL’21も、出演は国内のアーティストのみ。入場者数も観覧スタイルも制限され、どうなるんだろうという緊張感に包まれていました。ステージの上に立つと会場はシーン。初めての経験でした。でも、静寂の中だからこそさらに感動が伝わってきて、歌っていて涙があふれてきそうになりました。観客の方々も静かに涙を流しているのがわかった。音楽という目に見えないものを共有し、そこで生まれる一体感が大きな希望と勇気を生み出していて。以前とは次元が変わったと強く感じました。

「癒やし」という言葉はときに安っぽく聞こえてしまうけど、でも私自身、音楽、そして聴く人たちの熱い思いという、目に見えない何かに癒やされました。一昨年から始めたInstagramに寄せられる声にも励まされて。当然ネガティブなこともあったけれど、これまで感じたことのない幸福感と感謝に包まれた1年でもありました。

野村友里さん×UAさん対談 年を重ねた今が楽しい
FUJI ROCK FESTIVAL’21

野村:言葉を選ばずに言うのなら、私にとってこの1年半余りは、世の中の速度がゆるくなり自分には生きやすい流れだったように思います。今ってなんでもスピード感や計画性が求められ、常に「何かをやらねば」という焦燥感があるけれど、それが一瞬止まった、というか。人の目を気にしないで、自分がどうしたら一番心地いいんだろう? と考える瞬間が増えたと思うんです。それはすごく楽だったかもしれない。飲食業もやっているから大変なことはたくさんあったけれど、置かれた状況で物事をどう捉えるか、その機会を逃してはいけないと考える時間でもありましたね。

UA:内観の時間ね。誰かのために何かをしたい、特に家族など大切な人のためならば時に自分を犠牲にしてしまうこともあるけど、それに慣れすぎてしまわないように。自分が何をしたら幸せになれるのかにもう少し貪欲(どんよく)になってもいいのかな……。そんなことを感じた時間だったかもしれません。

自力と他力をうまくミックス

――野村さんは昨年、自身のグローサリー「eatrip soil」と同じ敷地内で花屋「the little shop of flowers」を営む壱岐ゆかりさんとともに、展覧会「Life is beautiful」を手がけました。開催するきっかけとそこに込めたメッセージは?

野村:壱岐さんとはもう20年ほど一緒に活動してきました。私が料理、彼女が花と違うジャンルの仕事をしてきたのですが、気づけばお互い畑に通うようになり、料理も花もその本質を見つめていたら「土」でつながっている、と。その探求を進める中で、生きるために欠かせない「衣食住」の「衣」だけがなんとなく結びつかなかった。そんな私にある方が「衣は命を守るものだったんだよ」と話してくれたのです。つまり、土が育む植物が、命を守る衣となり命をつなぐ食になる。衣食住はどれも等しく、どれも必要な関係だったと気づき、それを多くの方と共有したいと考えました。

当初5月に開催する予定でしたが、コロナの感染拡大の影響で11月に延期に。世の中の空気感が少し変わったこともあって、同じテーマでももう一度ゼロから作るイメージで見つめ直しました。もう一つ、実はとても大きな出来事が。夏に私たちの大切な人が亡くなったのです。その方が目に見えない種をたくさんまいていたことを亡くなった後に知ることに。魂はなくなったけれど、「気配」を残して旅立った。そのとき、私たちは先人たちの生きてきた証しや気配に必ず何かしら影響を受けていると感じて。衣食住もそう。じゃあ今を生きている私たちはどんな気配を残せるのだろう? その夏を越え、より強くそう思うようになりました。

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展覧会「Life is beautiful」

UA:残念ながら私は展覧会には行けなかったんだけど、友里が本質的なところにどんどん向かっていくんだなと感じて。彼女は「自分の作品じゃない」と言っていて、その通りなんだけど、でも展覧会全体に友里が伝えたいことが流れている。自力と他力がうまくミックスされている。私も楽器は弾けないし、作曲を人にお願いすることもあって、自力と他力が複雑に絡み合いプロデュースしているので、そこはすごく似ているし共感できた。

野村:誰から頼まれたわけでもないのにね(笑)。でも、本当に大変だったのよ。

UA:何が大変だった?

野村:今回、アーティストで近世麻布研究所所長の吉田真一郎さんにアドバイスを受けて、古来日本で神事にも使われてきた大麻布の古いコレクションや、吉田さんらが現代の技術でよみがえらせた「麻世妙 majotae」を展示したのね。吉田さんは70代で、生きてきた道もすごくおもしろい人なんだけど、自身がいろんな経験をしてきたからこそ「本当にそれでいいの?」と私たちに真剣に問いかけてくる。生き方や人に感動を与えることについて、「全然わかってない」「甘い!」ってもう泣くぐらい(笑)。

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近世麻布研究所所長の吉田真一郎さん

UA:本質をついてたんだ。

野村:そう。あとね、こんなことも言ってた。「50歳になったとき、それまでの経験や寄り道が自分の中で一つの道になってきた感覚を受けた。君たちもこれからの20年から30年が大事なんだ」。さらに「人生で認められるのは前半か後半か? その選択肢があるなら、そりゃ後半楽しい方がええやん」と。その言葉を聞いて、人生にはいろんな時期があって、楽しいことばかりじゃないけど、最終的に「楽しい」と思えること、あるいはそういう技を身に付けることが大事なのかなって考えさせられた。

UA:私は20代でデビューしてCDもすごく売れて、人生の前半に認められた、成功したと思われるかもしれない。でも、30代半ばから人生が一変した。プライベートでも世の中にもいろんなことが起きて、沖縄やカナダに移住するなど試行錯誤しながら自分自身を見つめる旅が始まって。かつて自分がいた場所から一番遠いところを目指して、意識的に自我をなくして自分を「パーツ」と捉えるようなトライをしてきたんだけど、結局まわりまわって元の場所に帰ってきた感覚がある。

とはいえ、以前の私はもっと閉じていて色んなことに興味が持てなかった。それは若くてとがってたから仕方がないんだけど、旅を続けてきたことで視野や感じ方がすごく広がった。だから今の方が確実に楽しいし物事が深く感じられる。これぞ人生の醍醐(だいご)味。そう考えると年齢を重ねるのも悪くないよね(笑)。

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