冬の美食!焼きガニと「立ってつかる」かけ流し 鳥取・岩井温泉 「岩井屋」


さて。もう一杯のカニは、焼きガニです。「せっかくなので足の大きいところは刺し身にいたしました」と、登場したのは、流れ落ちる滝のごとく盛り付けられたカニ刺し。新鮮な松葉ガニだからこそ、美しく花開くぷりぷりの身。
それぞれのテーブルに仲居さんとともに七輪がやってきて、目のまえで始まる焼きガニショー。芳(かぐわ)しい香りに誘われて、思わず立ち上がり、焼き具合を眺めてしまいます。焼きガニは火入れの仕方が命、焼きすぎず、生すぎずの絶妙のタイミングを見極めるのは、まさに熟練の技なのです。カニの身が程よく焼けてきたら仕上げに塩をひとつまみ。はふはふと熱いカニをほおばれば、甘くて芳しくてジューシーなカニの味わいが鼻へと立ち上っていきます。
「むむむむむぅ」。思わずうなる焼きガニのクライマックス

山陰では松葉ガニ。カニの呼び名も地域によって変わりますが、食べ方にもご当地流があることをこの宿で知りました。それは、焼きガニのしめである、カニみその味わい方。甲羅ごと炭火にかけてカニみそを焼くのですが、隠し味に味噌(みそ)とお酒、そして箸でねってねって、とろとろふっくらになるまでねりあげます。

七輪の隣に待機していたおひつから、つやつやのごはんを盛り、熱々のカニみそをとろりと乗せるのです。これぞ忘れられない岩井屋の美食。「むむむむむぅ」。あまりのおいしさに言葉にならないうなり声が他のテーブルからも聞こえてきて、ほくそ笑んでしまいました。
豆腐ちくわの朝ごはんと、民芸の器でコーヒー

心地よい寝具ですっきり目覚めたら朝湯へ。もうひとつの大浴場「祝いの湯」も、深湯の部分があり、自家源泉かけ流し。立って入る深さの温泉は、ふわふわと無重力の空間にいるようでリラックスできます。

鳥取名物の豆腐ちくわは、鳥取産大豆と白身魚で作った江戸時代の庶民の知恵から広がった食文化。ふんわりとした食感で和みます。稲刈り後の稲架(はざ)掛け天日干しのお米はつやつやの炊きあがり。しみじみとおいしい朝ごはんです。

食後のコーヒーを中庭を眺めるティーラウンジで。鳥取民芸の流れを継承する陶器作家さんの器がそろっていてコーヒーカップを選ぶのも楽しみなのです。日常のひとコマに取り入れたい幸せな時間でした。
帰りの列車でも鳥取名物「元祖かに寿し」

カニと温泉の旅は、最後までカニづくし。鳥取駅で名物の駅弁「元祖かに寿(ず)し」を買って、特急列車に乗り込みます。鳥取県東部から兵庫県北部で水揚げされるカニを新鮮なうちにボイルし、一本ずつ手作業でカニの身をとりだして作るこだわりの駅弁です。お米、水、卵も全て鳥取県産と、地元愛もぎっしり詰まった駅弁は半世紀を超えるロングセラーだとか。数種類のお酢をブレンドして味付けするすし飯は、甘すぎず酸っぱすぎず、カニを引き立てる上品な味わい。車窓から冬景色を眺めつつ、最後の一粒までおいしくいただきました。
■岩井屋 https://iwaiya.jp/
*ひとり宿泊利用は平日のみ(電話0857-72-1525で受付)
*ひとり宿泊でカニを楽しみたい場合は別注、電話で応相談。
*どなたでも利用可能な冬の味覚キャンペーン(限定)はHPで確認
■アベ鳥取堂(元祖かに寿し) https://www.abetori.co.jp/item/194/
*駅弁の通販もあり
■「楽しいひとり温泉」ポイント
1.自然湧出かけ流し
2.松葉ガニをご当地流で
3.極上寝具で熟睡
フォトギャラリー(クリックすると、写真を次々とご覧いただけます)
BOOK
石井宏子さんの著書「全国ごほうびひとり旅温泉手帖 いい湯、いい宿、旅ごはん!」(世界文化社)。温泉ビューティー研究家・旅行作家ならではの、旅してみつけた、女性がひとりで安心して楽しめる温泉宿を紹介するハンディーな一冊。公共交通機関で行ける、自分へのごほうびで泊まりたい、いい宿を全国から厳選し、あわせて、女性目線で選んだ周辺の立ち寄り先、ランチやスイーツも取り上げます。ひとりでも楽しい観光列車も登場します。税別1400円。
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