冬の美食!焼きガニと「立ってつかる」かけ流し 鳥取・岩井温泉 「岩井屋」

あの温泉につかり、あの宿ならではの美食をもう一度味わいたい。忘れられない湯と味わいを求めて、冬の山陰へ出かけました。鳥取県岩美町の岩井温泉は山陰最古の湯と言われ、1300年の歴史を誇る温泉です。岩井屋で出会った、焼きガニの「ご当地流の味わい方」は衝撃のおいしさでした。
【動画】鳥取県岩美町の岩井温泉「岩井屋」
■連載「楽しいひとり温泉」は、国内外の温泉をめぐり、温泉・自然・食で美しくなる旅を研究する筆者が、テーマごとにひとり温泉にぴったりなお宿を紹介します。
深い湯船に立って入る自然湧出「山陰最古の湯」

岩井屋の名物風呂は「源泉長寿の湯」。男女入れ替えで楽しむ大浴場のひとつです。東屋風の建物のような脱衣場から石段を下って湯船へといざなわれる内湯のデザインが印象的。ステンドグラスの窓がレトロモダンな雰囲気です。
さらに、独特なのは湯船の深さ、立って入っても胸元までお湯が達するほどの深さがあり、湯船の底は松板のすのこになっていて、その下から温泉が時折ぷくぷくと自然湧出してきます。かつては自噴する源泉だけをためて利用していたので、少しずつ掘り下げていくうちに深くなっていった名残だそうです。この深さが大変心地よく、生まれたての新鮮な湯が全身をぎゅっと包み、温泉の恵みがじんじんと染みわたっていくような感覚。泉質は、カルシウム・ナトリウム-硫酸塩泉、pH7.1の中性。なめらかでつるりとした感触で湯上がりの肌はしっとりつやつやの「美肌湯」です。
鳥取民芸の世界観を楽しむ宿

鳥取といえば民藝(芸)。民芸運動に傾倒した吉田璋也氏をはじめとして、今でも日常に民芸の美を楽しむ文化が根付いています。岩井屋は、館内の随所に民芸家具や器などがありその世界に浸ることができます。部屋も民芸調でほっと落ち着きます。

感激したのは、寝具のすばらしさ。しっかりとした厚さがあるマットレスと布団を重ね、ほどよい硬さの敷布団にふんわり温かな羽根布団。温泉で温まった体で布団に滑り込むとすぐに熟睡、気が付いたら朝でした。
カニ刺し、焼きガニ……お待ちかねの夕食に心躍る

美しい盛り付けの前菜は、丁寧につくられた一口ずつの品々が並びます。「添えられている赤い実は近くの山のグミです。今の季節にしか採れないものですのでお料理の合間に味わってみてください」と、仲居さん。口に含むと独特の弾力があり、甘酸っぱい風味が広がります。酸味も渋みも魚介をいただくよい「アテ」となり、熱かんの地酒がすすみます。

食事はあえてカニのフルコースのプランではなく、季節の会席コースに、カニ料理を追加することにしました。カニ以外のお料理も楽しみ、カニはお気に入りのゆでガニと焼きガニを集中的に味わうという欲張りな作戦です。今回の旅では友人とシェアしたので2杯ですが、これは、ひとり温泉でカニを楽しむ裏技としても使えます。ひとり宿泊はできるけど、カニのコースは2人以上からという宿も多いのですが、たとえば、カニを1杯だけ別注なら対応してくれる可能性もあるからです。ゆでガニは甘みがあってぷりんとしたおいしさに顔がほころびます。
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