同じコートでプレーしていても テニス・青山修子&柴原瑛菜ペア、“個”の壁越えるコミュニケーション

二人一組のペア同士で対戦するテニスのダブルス。今の女子テニス界でその最前線にいるのが青山修子と柴原瑛菜の“青柴ペア”である。2021年のダブルス世界ランキングは二人そろってトップ10入り。2019年の結成から2年、約10歳の年齢差がある二人は、普段から「アオさん」「エナちゃん」と呼び合う姉妹のような仲だ。
個人戦のシングルスでは大坂なおみ選手がグランドスラム優勝、世界ランキングで1位になるなど、日本でも近年注目が高まっている女子テニス。だがシングルスで強い選手同士が組んでも、ダブルスで勝てるとは限らない。ダブルスで世界の頂点を目指す青山と柴原の挑戦には、個人の壁を越える大きな可能性が詰まっていた。
どうしてもアオさんと組みたかった
青山と柴原が急接近したのは2019年の4月、米チャールストンの大会(Volvo Car Open)だった。
青山 ホテルと試合会場を行き来する送迎のシャトルバスで会ったんです。エナちゃんはお父さんと一緒に参加していたんですけど、すごくおとなしいイメージでした。
柴原 毎日のようにアオさんと同じシャトルに乗っていたんですけど、私は自分から声をかけることができなくて、私のお父さんが代わりにあいさつしてくれたんです。

実はもともと青山のファンだったという柴原。その出会いは高校時代にさかのぼり、いつかパートナーになりたいと思いをあたため続けていた。
柴原 初めて青山選手を直接見かけたのは2015年、日本で開催された牧之原国際女子オープンだったと思います。隣で練習に集中している姿を見て、すごい選手だ!と思ったんですけど、当時からアオさんはシングルスでもダブルスでもトップクラスだったので、自分ではどうしてもあいさつに行けなかったんです。チャールストンで再会して、ペアを組みませんかと誘ったときも、アオさんには別のパートナーがいたので断られてしまって。でも次にパートナーの決まっていない試合があったら、組めたらいいなと思ってお願いしました。
青山 チャールストンの大会中に、エナちゃんと一緒に練習をする機会があったんですけど、テニスの技術はもちろん、練習と向き合う姿勢や色々な面でいい刺激があったんです。その後も機会があればペアを組んで大会に出たいと誘い続けてくれていたところ、ちょうど組む相手を決めていなかった大会前に、私からどうですかと声をかけたら「飛んで行きます!」と(笑)。
柴原 アオさんとだったら、どこにでも行って組みたいと伝えました(笑)。そのぐらい、アオさんと組めることが、とにかくうれしかったんです。
ペアとしてのプレーに感じたチャンス
柴原からの熱烈なアプローチに応える形で、青山から誘い返し、二人の挑戦は第一歩を踏み出す。
青山 私は自分が小柄なので、身長が高くてパワープレーに長(た)けた海外の選手と組むことが多かったんです。ただ、英語力の問題などから、相手に自分の思いを十分に伝えきれない部分もあって。その状態でさらに上を目指すのは難しいかなと感じていた時期ではありました。エナちゃんのプレーは一球一球を全力で打つような印象を受けましたし、パワーもあって、組んだら相性がいいかもしれないと思ったんです。
柴原 実際にアオさんと同じコートに立って、ポイント(試合形式でポイントを取る練習)をやったときに、前(ネット付近の前衛でプレーするポジション)の動きが読みにくくて、対戦相手としてはやりにくい選手だったんです。ペアを組んで、私が後ろ(ベースライン付近の後衛でプレーするポジション)でいいボールを打ったら、アオさんが前でいい動きをいっぱいしてくれるようなイメージを抱きました。
前衛における俊敏にして大胆な青山の機動力と、後衛から力強く攻める柴原のストローク力。二人での具体的なプレースタイルがイメージできたことに背中を押され、ペアとして初めて出場したのは、2019年8月のシリコンバレー・クラシック。そこでいわゆる“青柴ペア”が誕生すると、いきなり準優勝に躍り出て、今に続く転機となった。
青山 やっぱり結果が出たということは一つの大きな決め手になりました。単に勝っただけでなく、試合の内容的にもよかったので、二人のプレーにチャンスを感じて。すぐに正式なペアを組みましょうという決断ではなかったのですが、まずは次のアジアシリーズも一緒にトライしてみませんかと声をかけました。それが2回戦を勝った後ぐらいだったかな? その段階で既にいい手応えがあったんだと思います。

“二人なら勝てる”ダブルスの可能性
そもそも二人はなぜダブルスというスタイルを選んだのか。
青山 私はずっとシングルスがメインだったんですけど、ダブルスのほうでランキングが上がって、グランドスラムにもたまに出られるようになっていたんです。そこからグランドスラムに出られるダブルスのランキングを維持することを優先して、少しずつダブルスにシフトして、今は完全にダブルスになったという形です。
柴原 プロになった当初は、シングルスもダブルスも両方やっていきたかったんですけど、途中でITF(国際テニス連盟)のルールが変わったりして、シングルスではランキングの上位に入れなくなってしまったんです。でもダブルスの結果はよくて、ランキングも上がっていました。2020年にオリンピックも控えていたので、ダブルスでオリンピックを目指そうとゴールをセットして、しばらくはダブルスに集中することを決めたんです。
プレーヤーとして感じるダブルスの魅力についてはこう語る。
青山 シングルスでは互角に戦うことが難しいトップ選手相手でも、ダブルスだと個人のパワーや技術だけじゃなくて、コンビプレーのスキルや戦術面で勝つチャンスがある。試合を見ている人にとっても、たとえ小柄な選手でも体格面で恵まれた相手に勝てるんだな、みたいに感じてもらえたらうれしいなと思いながらやっています。

柴原 ダブルスは戦術や戦い方のパターンが多くて、パートナーとの問題解決の方法にもいろんな可能性があるので、そういうところはすごく面白いなと思っています。
テニスという共通言語があるとはいえ、日本育ちの青山と、アメリカ育ちの柴原。触れてきた文化や歩んできた環境も違えば年の差もある。自分と相手の違いを認めていたからこそ、練習や試合でのコミュニケーションは、一つ一つ大切に築き上げてきた。
柴原 アオさんと組み始めた頃、私は日本語にあまり自信がなくて、そこまでうまく話せなかったんです。でもアオさんは年上なので、敬語を使わなければならないのかなと緊張していたんですけど、「敬語は心配しなくていいよ」と言ってくれて。私のつたない日本語でも理解しようとしてくれたので、すごく安心しながら練習できました。私の言おうとしていることが間違っていても意味を察してくれますし、そういうところでコミュニケーションが成立していたので、コートの上でも心配はなかったです。オンコートでもオフコートでも、何でも理解し合いながら、いつでもon the same pageな感じ(同じ考えを共有)でやってきたことがテニスにも反映されて、プレーにつながっているのかなと思います。
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