発酵デザイナーの食国探訪
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しょうゆは最低2種類を使い分けるべし 調味料の上手な選びかた(中)

発酵文化のスペシャリスト小倉ヒラクさんが、「食」を起点に国内外の文化や歴史を掘り下げる連載です。じつはたくさんあるしょうゆのカテゴリー。その特徴と使い方を紹介します。

革命成就後は、いよいよしょうゆ!

皆さま、発酵してますか? 小倉ヒラクです。

前回に引き続き調味料の選びかたの話。おみそ→お酢→みりんの革命ステップを踏んだら、次はベーシック調味料の解像度を上げていきましょう。今回はしょうゆを取り上げます。

しょうゆは個性を感じにくい

自炊ビギナーは、おみそ→お酢→みりんの順番で調味料を変えるべし!と前回お話ししましたが、少なからぬ人が、

「あれ? しょうゆは?」

と思ったことでしょう。実はね、しょうゆはスーパーの特売品とローカル&クラフトしょうゆの差が前述の調味料よりもわかりにくかったりするのです。

というのも。しょうゆは昭和の後半に国によって規格(JAS規格)が定められ、窒素分(うま味)はこれぐらい、塩分濃度はこれぐらい……と細かく成分や原料の幅が決められています。その枠のなかで大手もローカル蔵もしょうゆを製造しているので、ある程度味の幅が決まってくるのですね。

対してみそは、しょうゆのような細かい規格がないので味の幅が地域やメーカーによってかなり広い。スケートでいうと、演技の枠が細かく決められている競技のフィギュアスケートと、エンタメとして枠が自由なアイスショーの違いのような感じです。

日本におけるしょうゆの生産量の過半数は大手数社によるもの。細かい規格があると、安定した品質で大量生産できる大手が強くなるのですね。

そもそもみそと比べてさらに塩分の高いしょうゆ。ビギナーがテイスティングしてみても「しょっぱい!」となるだけで違いがわかりにくい。お酢やみりんならば廉価品とハイクオリティー品を比べれば誰でも圧倒的な違いを実感できるのですが、しょうゆはどんな価格帯のものでもフツーにおいしいのです。

しかし。やはりしょうゆにも個性があります。調味料革命を経て調味料センサーが鍛えられた皆様ならば、しょうゆの個性の違いを楽しめるはずです。

カテゴリーの特徴をふまえてチョイス

それではいよいよしょうゆの選びかたについて。
結論から言うと、キッチンに最低2種類のしょうゆを常備していただきたい。

ひとつは、用途の広い定番しょうゆ。規格でいうと「濃い口しょうゆ」というヤツです。
もうひとつは、地域性が反映された個性派しょうゆ。これは料理の好みに合わせてチョイスします。

「えっ、しょうゆってそもそも種類があるの?」

そうですよね。料理のレシピとか見ても、しょうゆは「しょうゆ」としか書かれていないことが多いです。でもおみそのようにしょうゆにもカテゴリーがあるのです。

「熟成期間」「味」「原料のバランス」から分析 みその基本をマニアックに解説!
素晴らしきディープローカルみその世界

濃い口しょうゆ

レシピに「しょうゆ」として書かれているのは、「濃い口しょうゆ」というカテゴリー。大豆と小麦でつくった麴(こうじ)を、塩水と混ぜて発酵させる濃い茶色のキリッとした辛口のしょうゆです。うま味や酸味、塩味のバランスが良く刺し身にも煮炊きにも使える用途の広いスタンダード。これを一本常備しておく、というかだいたいみんな常備しているはず。なぜならスーパーで売っているしょうゆのほとんどが濃い口しょうゆだから。

うす口しょうゆ

濃い口しょうゆと基本は一緒ですが、ややうま味をあっさりめにし、甘酒や糖類を少しだけ足したしょうゆです。江戸時代に兵庫県の龍野で開発されました。塩味とともに甘味やうま味もつけられるため、実はかなり便利なしょうゆです。刺し身には若干不向きですが、煮炊きには最高。さらに他の調味料との組み合わせも良い。なんならお湯で割ってお吸い物的に飲めたりします。

再仕込みしょうゆ

大豆と小麦の麴を、塩水のかわりにしょうゆで仕込む二重仕込みのフルボディしょうゆ。とにかく重厚なうま味が特徴。脂の乗った魚介の刺し身や、すき焼きの割り下などに力を発揮します。中国地方や四国など、濃い味付けが好まれる地域でよく見かけます。

ここまでが「いわゆる普通のしょうゆ」。濃い口を基準に、うま味を引いて甘味を足すとうす口、うま味を足すと再仕込みです。では次からは個性派。

たまりしょうゆ

みそを熟成させる途中にたまる液体部分を使ったしょうゆ。主に東海圏の豆みその液体部分が使われます。穀物(麦)が使われていないため、和食っぽいうま味が弱く、シャープなコクが持ち味。なので洋食によく合います。東海の民は濃い口しょうゆの代わりに、刺し身でも煮炊きでもたまりしょうゆを使う人もよく見かけます。スタンダードしょうゆに慣れた人からするとビックリな味わいですが、慣れるとなかなか使い勝手が良いんですよ……!

しょうゆは最低2種類を使い分けるべし 調味料の上手な選びかた(中)
みそ桶からにじみ出るたまりしょうゆ(筆者撮影)
白しょうゆ

普通のしょうゆは大豆をメインの原料とするのですが、白しょうゆは大豆はほとんど使わず小麦をメインに仕込みます。その結果、ベージュの色の薄いしょうゆができあがります。関西の高級料亭などで、料理に色をつけたくない時に使われます。ビールのヴァイツェンのように、軽くてフルーティーな印象があります。が、塩分とうま味はしっかり利いてます。

魚醤(ぎょしょう)

規格としてはしょうゆのカテゴリーには入っていないのですが、用途としては近いので僕はしょうゆの一種として扱っています。魚介を塩漬けにして発酵させドロドロに溶かし、その上澄みを調味料にしたもの。能登のいしる(原料はイワシ、イカの内臓)、秋田のしょっつる(原料はハタハタ)など、主に日本海側でしょうゆがわりに使われてきました。東南アジアやアフリカ、イタリアなどにもあるグローバル調味料。魚介のワイルドな風味を使いこなせると料理の幅が広がります。

九州しょうゆ

こちらも独立した規格はないのですが、どう考えても地域色が強いので僕は一つのカテゴリーにしています。濃い口しょうゆに大量の糖分を加えたとんでもなく甘いしょうゆで、九州の南に行けば行くほど甘さが強くなっていく傾向があります(鹿児島、熊本あたりがスゴい)。辛口のしょうゆが当然の関東の人からすると「?」なのですが、身の締まったブリや馬刺しにこの甘口しょうゆをたっぷりつけて食べるとトリップ感の強い食体験をすることができます。

上から五つが規格として定められたしょうゆ、最後の二つが規格として定められていないものの、地域性と独自性があるしょうゆです。僕のお店(下北沢発酵デパートメント)では七つのカテゴリー全てを網羅して、しょうゆ文化の多様性を伝えています。

濃い口しょうゆ以外のカテゴリーは、地方のクラフトメーカーの製品が大半。定番の濃い口はまずはいつものヤツで良いので、それに加えてその他の6カテゴリーのどれかをゲットしてください。僕のオススメはズバリ!たまりしょうゆです。濃い口しょうゆと同じように使えて、かつ料理の印象が全く変わってしまうので、

「なるほど。しょうゆにも個性があるのだな……!」

と納得しやすいと思います。あっさりした料理が好きな人はうす口、脂っぽいものが好きな人は再仕込み、上品な正統派和食をつくりたい人は白しょうゆ、エスニック料理が好きな人は魚醤を選ぶと良さそうです。なお九州しょうゆは僕が言うまでもなく、九州の民はみんな家に1本常備している……!

なお濃い口でも、最近はクラフトメーカーのとがった商品が台頭してきて選ぶのが楽しい時代になってきました。特にポイントは「木桶(おけ)仕込み」。杉の巨大桶で仕込むアナログな製法がいっけん没個性になりがちな濃い口しょうゆにキャラクターを与えます(この話しだすと長くなるのでまた別の機会に)。

しょうゆは最低2種類を使い分けるべし 調味料の上手な選びかた(中)
濃い口しょうゆの個性を引き出す木桶(筆者撮影)

最近はデパートや食材のセレクトショップでも濃い口しょうゆ以外のカテゴリーの取り扱いが多くなってきました。ぜひこの記事を参考にふだん手に取らないしょうゆをお試しください。

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