「私が産んだ子どもの名前だ」。偶然出会えたその人が

読者のみなさまから寄せられたエピソードの中から、毎週ひとつの「物語」を、フラワーアーティストの東信さんが花束で表現する連載です。あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら。
〈依頼人プロフィール〉
吉敷美紀さん(仮名) 36歳 女性
自営業
広島県在住
◇
「この名前、私が産んだ子どもの名前だ……」
私宛てに送られてきた封筒の差出人の名前を見て、母がそう言ったのは数カ月前のことです。私はある難病を患っていますが、手先のリハビリと趣味を兼ねて、ハンドメイドのアクセサリーを作って販売しています。
その封書の主と最初に出会ったのは、私がアクセサリーを出品した、とあるイベントでのことでした。「これかわいい!」と私の作ったアクセサリーを手に取って、買ってくれたご夫婦がいたのです。その女性とはその後、SNSのメッセージを交換したり、ランチに行ったりするようになりました。明るくて素敵な方で、私にとっては、初めての大切なお客様。アクセサリー制作ももっと楽しくなっていました。
その後、ご夫婦が買ってくれたアクセサリーにお直しが必要になり、郵便を使って商品の受け渡しなどをすることになりました。
「私が産んだ子どもの名前だ」と母が言ったのは、そうして私に届いた封筒の名前を見てのことです。母は、私が生まれる前に結婚、出産しており、離婚の際に泣く泣く生後半年の娘を手放したということも聞いていました。その生き別れた娘と、私のアクセサリーを買ってくれた方の名前が同じだったのです。
それにしても、まさか……そう思いながら、気が合って何度かその方とお会いするうち、理由もなく、その方が、母と生き別れたまだ見ぬ姉に違いないと感じるようになりました。
そしてこのたびついに、その方に母のことを話したところ、本当に私の姉だということがわかったのです。
もう二度と会えないだろうと諦めていた母と、ずっと母を探していた姉は40年ぶりに再会を果たしました。今は頻繁に連絡を取るようになっています。母はいきなり、大きな2人の孫がいるおばあちゃんに、私もおばちゃんになりました。姉の夫も、「この奇跡すごい」と泣いてくれるような素敵なお義兄さん。またひとりっ子で、この先病状の進行が不安だった私ですが、家族が増えたことで、不安が少しだけ軽くなりました。
本当にこんな偶然があるのですね。奇跡の再会ができたことに感謝し、母と私から、離ればなれになってしまった姉に「ごめんなさい」と伝えたいです。そして、これからは一緒に思い出を作っていけたらという気持ちを込めて、花束を贈りたいです。

花束をつくった東さんのコメント
初めて会えたお姉様は、ガーベラが好きなオシャレで明るい女性とのこと。そこでお花はガーベラのみを使ったポップなアレンジに仕上げました。
ガーベラと一口に言っても種類は多く、今回はそのうちの7種類のガーベラを使いました。例えば同じピンクのガーベラでも、花びらの先が白いものもあれば、細長い花びらがツンととがったスパイダー咲きのものなどもある。そんなガーベラ畑をポリシャスやアイビーなどのグリーンが囲みました。
うれしい偶然が重なり、ご縁がつながった投稿者様とお姉様。お二人にとって、思い出のページはまだ開かれたばかりです。これからも明るく楽しいページがめくられていくことを願っています。




文:福光恵
写真:椎木俊介
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
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