寝る前に見るお笑い動画が明日の活力に 紛争地での通信事情

「国境なき衣食住」は、国際NGO「国境なき医師団(MSF)」の看護師として紛争地や危険地に赴任してきた白川優子さんが、医療・人道援助活動の傍(かたわ)らで出会った人々、触れ合った動植物、味わった苦労や喜びについて、哀感を込めてつづるエッセイです。
2021年8月、緊急の招集があり、3年ぶりに海外派遣に赴くことになった。派遣されたのは、米軍の撤退とタリバンの復権で混乱するアフガニスタンだった。タリバンの復権は国際社会を揺るがし、市民への弾圧や恐怖政治の懸念を伝えるけたたましい報道が続く中の入国だった。
私自身、覚悟を決めてこの派遣に応じた。もしかしたら現地からは家族と連絡は取れないかも知れないという想定もしていた。

アフガニスタンでの通信環境はきわめて良好
ところが、到着した広い宿舎には、その隅々にまで届くWi-Fi(ワイファイ)が設置されており、家族への連絡はもちろん、動画を見る時も他のチームメンバーに遠慮する必要など一切ないほどに容量も速度も「文句なし」だった。
これまでも活動現地でWi-Fiが使えていたとはいえ、速度は遅く、トラブルでネットワークが途切れたこともあった。チーム内の誰かが動画視聴やビデオトークなどをしていると、他のメンバーのネットの速度やつながり具合に影響した。お互いに遠慮しあい、気を使いながら、「動画を使用する際には短時間の使用を守る」という暗黙のルールがあった。
しかし、3年ぶりの派遣となるアフガニスタンでの通信環境は、きわめて良好だった。すると、宿舎内でどんなことが起きるだろうか。スタッフが部屋に引きこもってしまいがちになるのだ。宿舎は、ガーデンが素敵だった。木製のテーブルやベンチが備えられており、「みんなで集まってお茶でも飲みながら雑談をすれば楽しいだろうなぁ」と思うものの、仕事が終わったあとの夕焼けの空を仰ぎながらベンチにいるのは私くらいなものだった。

時々、60歳を過ぎたチームリーダーが部屋から出てガーデンを眺めていたが、他のスタッフたちはみな「いやぁ、家のWi-Fiよりすごいぞ」と感嘆しながらそれぞれ、自室で家族や大切な人とビデオトークをしたり、映画を見たりしていた。日中の仕事で疲れている中、同じメンバーと共同生活をするわけで、個々のプライベートの空間や時間は非常に大切である。