美しい大自然が根づく場所、写真家が旅する石垣島

「気軽な旅の機会が限られているからこそ、こだわった旅がしたい。」
“持続可能な旅”、“サステイナブルな旅”、そんな言葉を耳にする今日この頃。地球の温室効果ガス排出量には観光も影響していると言われている。 旅する者にとっては聞き流せない問題だ。旅先で消費するだけではなく、環境を考えながら旅を楽しみ、その土地に暮らす人々も生活が豊かになるようにしたい。2021年秋、八重山諸島の玄関口、石垣島の大自然と共に生きる人たちに出会ってきた。
八重山諸島の塩づくり発祥の地で生まれた「石垣の塩」
石垣島は気持ちいい南国の海風がそよぎ、太陽の光が燦々(さんさん)と降り注いでいた。サンゴ礁に囲まれた透明な海と、沖縄県で最高峰の於茂登岳(おもとだけ)がそびえたつ石垣島。約300年前、八重山諸島の塩づくりはここから生まれた。石垣島生まれ、石垣島育ちの島人(しまんちゅ)、通称“得ちゃん”こと東郷得秀さんの「石垣の塩工房」を訪れた。

案内されて緑のトンネルを抜けると、そこには“塩の畑”であるきれいな海が広がっていた。勧められて海水をなめてみると甘さを感じ、於茂登岳の森とサンゴ礁から生まれた自然のエッセンスが凝縮されたような味がする。ミネラル豊富な海水はしょっぱいだけではなく、甘みと深みがあるようだ。

「塩づくりと言うと“海の人”と思われがちだが、森も深く関係しているんだよ」。得ちゃんは、使われなくなった畑や荒れた土地を整地するなどして森も守っている。元気な森がある海は、白化したサンゴもよみがえる力が強く、おいしい塩を作る海を育ててくれると話してくれた。

同じ海水から採れる塩でも、月の満ち欠けや季節によっても味が違い、かめで8年熟成された塩はかなりまろやかな味がした。満月にとれた塩は野菜に合い、新月の塩はお肉に合うと聞いて感動してしまった。野菜が季節や気候によって味が違うように、自然から採れる本物の塩もその時々で味が違うのだ。
「今度来るこ時は、今日なめた塩の味とは違うからね!」
健康的に日焼けした爽やかな笑顔で見送られて、工房を後にした。
於茂登岳のふもとで採れる月桃オイル

「海と森(山)は深い関係がある」と知り、石垣の海の後は山へ向かった。於茂登岳のふもとにある島人ファーム「畑里(はるさと)」を訪れた。ここには島で一番大きな精油釜があり、月桃のエッセンシャルオイルづくりの体験ができる。
月桃は島に生息するショウガ科の植物。葉は長さ50~70cm、幅10~20cmと大きく、笹(ささ)のような形をしている。このファームでは、オイルは300kgの葉からたった150mlしかとれないといい、希少価値が高い。

この植物は貴重なオイルがとれるだけではない。強い台風が毎年やってくる島では、暴風雨の影響で農地の赤土が海に流れ込み、サンゴが破壊されるという深刻な問題を抱えている。月桃の強い根は、その赤土の流出を抑えることもでき、グリーンベルトとなる。海を守るために月桃を育てる農家が増え、畑里の伊良皆さんはその農家から月桃の葉を買い、収穫、葉の細断、精油までを行っている。

月桃のことを知った上でオイル作りに臨むと気合が入る。まず、茎から大きな葉の細断から始まる。ひたすら切っていく単調な作業だが、精油釜いっぱいの葉が必要となると時間もかかる。その後は、釜に入れて抽出されるのを待つのみ(最終的に使えるオイルに仕上がるのには数日かかる)。出来上がったエッセンシャルオイルは甘く爽やかな南国の香りがした。
サンゴを守る月桃から作られるオイルだからこそ価値がある。石垣島の海を守り、オイルを作れるなんて一石二鳥。この月桃オイルは島の恵みそのものだ。
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持続可能な旅…素敵なコンセプトですね。
賞味期限の近いお土産などを見つけたら自宅用に買うなど、小さな積み重ねを心がけたいです。