京都ゆるり休日さんぽ
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古きよき昭和の酒場ムードに酔う 西陣で愛される名店「神馬」

「神馬(しんめ)」の3代目主人・酒谷直孝さん。情に厚く話し好き。常連客はもちろん一見(いちげん)さんにも温かい=京都市上京区

赤ちょうちんが灯(とも)る軒先の縄のれんをくぐれば、そこは昭和の酒場です。カウンターの向こうには、湯気をたてるおでん鍋と酒燗(かん)器。壁には京都五花街(ごかがい)の一つ、上七軒の芸舞妓(げいまいこ)らが寄せた名入りうちわが並び、勘定に立った客は木製のレジスターに向かいます。今回訪ねたのは、1934(昭和9)年創業の大衆酒場「神馬(しんめ)」。古き良き酒場のムードと季節を映し出すお品書きが、老若男女に愛される理由です。

暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。

景気が良くても悪くても 旬をおいしく供する心意気

「戦後、千本通で生ビールが飲めるんが、うちと『西陣ときわ』(すきやき屋、閉店)さんくらいやったらしいですわ。戦争中の最後の配給で、お酒の4斗樽(だる)を40本いただいたとか。信じられへんでしょう?」

そう笑うのは、「神馬」で3代目ののれんを守る酒谷直孝さん。祇園の割烹(かっぽう)で10年ほど腕をふるった後、父親が体調をくずしたことを機に、23年前に店を引き継ぎました。最盛期の「神馬」は、上七軒に夜遊びに行く前に立ち寄る西陣の旦那衆で大にぎわい。しかし、街のうつり変わりとともに人の流れが減り、酒谷さんが店を引き継いだころは「客が一番いなかった」とふりかえります。

京都らしいと喜ばれる「きずし」(1155円)。熱燗(1合550円)。いずれも税込み
京都らしいと喜ばれる「きずし」(1155円)。熱燗(1合550円)。いずれも税込み

ところが今は、男女問わず一人客でも気兼ねなく立ち寄れ、昔なつかしい酒場の雰囲気を味わえると評判に。その理由は、酒谷さんの割烹仕込みの確かな腕と、自ら毎朝市場に出向いて仕入れる新鮮な魚介を使った料理にあります。

「その日その季節に一番おいしいものを」という先代の教えに生真面目に、日々変わるお品書きには今しか味わえない味覚がずらり。淡路、長崎、北海道……と魚介に記された産地と、カキやカニ、フグ白子といった冬ならではの旬の食材に、訪れた人は「今日は何を頼もうか」と心躍るのです。

木製レジ現役、おでん復活……心に響く「歴史」

店内中ほどに架けられた太鼓橋と小さな石庭
店内中ほどに架けられた太鼓橋と小さな石庭

奥に長い店の中ほどに、石灯籠(どうろう)と太鼓橋があります。なぜこんなところに橋を作ったのか、酒谷さんも確かなことはわからないと前置きしながら「店の裏手にお稲荷さんがありますが、千本通を広げる前はこの場所(太鼓橋)にお稲荷さんがあったので、土足で踏むことがないようにと橋を架けたみたいです」。

厨房(ちゅうぼう)との間仕切りに瓦屋根の軒をつけるなど凝った造りの店内
厨房(ちゅうぼう)との間仕切りに瓦屋根の軒をつけるなど凝った造りの店内
4桁までしか計算できない木製のレジ。物価の変化を物語る
4桁までしか計算できない木製のレジ。物価の変化を物語る

改めて店内を見回すと、橋の他にも室内とは思えない瓦屋根の軒(のき)や、作り付けの棚などがあちこちに。かつては店の2階にお抱えの大工が住んでいて、色々と作ってもらったのだとか。タイプライターのようなキーが付いた木製のレジは「4桁までしか計算できんのです」と笑いつつも、現役で活躍しています。

「できるだけ昔の雰囲気を残して。これがなくなるとどこにでもある居酒屋になってしまうんでね」(酒谷さん)

長年休止していた「おでん」が今冬復活。「牛すじ」(440円)「ちくわ」(110円)など定番のほか「さえずり(鯨の舌)」(880円)なども。すべて税込み
長年休止していた「おでん」が今冬復活。「牛すじ」(440円)「ちくわ」(110円)など定番のほか「さえずり(鯨の舌)」(880円)なども。すべて税込み

この冬、「神馬」には10年以上休止していたおでんが復活しました。眠っていたおでん鍋をぴかぴかに磨き上げ、カウンターの向こうで湯気を立てながら訪れた人を迎えます。

昨年末、大そうじをしていてふと目に留まったおでん鍋が、おでん再開のきっかけに
昨年末、大そうじをしていてふと目に留まったおでん鍋が、おでん再開のきっかけに

「おでんを出してたころを知っている人がなつかしんでくれるんで、やってみよかなと。僕が3代目ってことは、お客さんも2代目、3代目。赤ちゃんだった子が成長して、受験に合格したと報告してくれることもあります。自分のことのようにうれしゅうてね」

イチボ(牛もも肉)を使った「ローストビーフ」(1,650円・税込み)は、食べた人の多くが「今まで食べた中で一番おいしい」と絶賛する逸品
イチボ(牛もも肉)を使った「ローストビーフ」(1650円・税込み)は、食べた人の多くが「今まで食べた中で一番おいしい」と絶賛する逸品

コロナ禍で夜の営業が制限されるようになっても、苦境を乗り越え、再び西陣の名酒場の活気を取り戻した経験が「神馬」を支えています。ランチ営業やテイクアウトなど、老舗酒場の味や雰囲気を楽しむ間口はさらに広がりました。新鮮な旬の味覚を、歴史と人情とともに味わう。進化し続ける、古き良き酒場ののれんをくぐってみてはいかがでしょう。

千本通に面した、酒蔵のような外観と赤ちょうちんが目印
千本通に面した、酒蔵のような外観と赤ちょうちんが目印

■神馬 https://www.shinme-kyoto.jp/

フォトギャラリー(クリックすると、写真を次々とご覧いただけます)

BOOK

古きよき昭和の酒場ムードに酔う 西陣で愛される名店「神馬」

京都のいいとこ。

大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が2019年6月7日に出版されました。&Travelの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。

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