いしわたり淳治のWORD HUNT
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ありそうでなかなかない歌詞 『ありがとうございました』 

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載ではいしわたりが、歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の5本。

 1 “ありがとうございました”(湯木慧『ありがとうございました』/作詞:湯木慧)
 2 “いま焦ってるからね!”(我が家の次男)
 3 “「全部燃やしてまえや」って言いますか?”(ブラックマヨネーズ 小杉竜一)
 4 “バーのカウンターでたまたま隣同士になったとして話しましょう”(糸井重里)
 5 “コタツ記事”

日々の雑感をつづった末尾のコラムも楽しんでほしい。

ありそうでなかなかない歌詞 『ありがとうございました』 

湯木慧(ゆき・あきら)さんの新曲『ありがとうございました』を聴いて以来、メロディーが頭から離れなくなってしまった。『ありがとう』をテーマにした歌は、これまでもいきものがかりや井上陽水奥田民生などたくさんのアーティストによって作られ、歌われてきたけれど、「ありがとう」の後ろに「ございました」が付いている歌は私の記憶する限り、まだなかったように思う。

この歌が特別なのは、この「ございました」の部分にある。つまり、これまでのありがとうの歌は感謝を伝える相手に対して愛(いと)しさや親しみの感情みたいなものが大前提としてあったのだけれど、彼女の曲には、そういったものがまるっきりないのだ。感謝の意味であるはずの言葉を、ひたすら冷たく、よそよそしく、「ありがとうございました もう壊れているこの社会に向けて ありがとうございました 理不尽なんてとうに、もう溢(あふ)れてた」と歌うのである。そのアイロニックな視点が素晴らしい。

しかも、このサビで歌われる「ありがとうございました」は、私たちが普段、誰かに向けてしゃべる時の「ありがとうございました」とよく似たイントネーションでメロディーに乗っている。そのおかげで、この歌を一度聴いたが最後、私は日頃の暮らしの中で「ありがとうございました」と口に出そうとする度に、反射的にこの歌が頭の中で鳴るようになってしまったのである。メロディーと言葉が抜群の親和性を持っていて、異常なまでに刷り込み効果が高い。皆さんもぜひ一度聞いてみてほしい。

ありそうでなかなかない歌詞 『ありがとうございました』 

幼稚園に通う我が家の次男が、出かける準備をしている時などに、「急いでいる」の意味で「いま焦ってるからね!」と言う。いや、急ぐと焦るは違うんだよ、と内心では思うのだけれど、いざこれを正しく説明しようと思うとなかなか難しく、頭がこんがらがってくる。

というのも、急いでいる時はすなわち焦っているし、焦っている時はすなわち急いでいるのである。じゃあ、二つは同じ意味なのかというと、いや、やはり絶対に違う気がする。そんなこんなで、彼の言葉をまだ直せずにいる。

「いま焦ってるからね!」と言われるたび、その可愛い言い間違いに、こちらも笑顔になって「別に焦らなくていいけど、できるだけ急いでね」と声をかける。すると一生懸命な顔で「わかった!」と返事してくれる。そして私はいつも心の中で「お、おお……わかったんだ」と思う。

ありそうでなかなかない歌詞 『ありがとうございました』 

1月26日放送のフジテレビ『ホンマでっか!?TV』「薄毛芸能人」集団お悩み相談の回でのこと。ブラックマヨネーズの小杉さんが「薄毛じゃない人は生半可なアドバイスをしてこないで」と怒っていた。前髪を伸ばしてみたらとか簡単に言うけど、何年も前からそれくらいのことは試して違うなって結論に達しているし、中にはいっそ剃(そ)ってしまえば?と言う人もいるけれど、「じゃあ、家が燃えてて、消してる人に『全部燃やしてまえや』って言いますか? 一生懸命、消火活動してる人に、『もう結構、燃えてんねやから、燃やしてまえやそのまま!』って?」と語気を荒(あら)げていた。

薄毛に限ったことでなく、悩み相談の回答というのは難しいものである。ふと、誰かの仕事の悩みに対して、「辞めちゃえば?」というのも、消火活動をしているところに「全部燃やしてしまえば?」と言っているのと同じことなのだと気づいた。

悩み相談というのは、相談者が相手に解決策を求めている訳ではなく、ただ話を聞いてもらって、自分の中の答えの背中を押して欲しい場合がほとんどだから、何も意見は言わず、頷(うなず)いて聞いてあげることこそが正解だ、というような話もよく耳にする。

誰もが大なり小なり何かしらの悩みごとを抱えて暮らしている。ということは、誰もが心の中でその悩みの火種の消火活動を懸命にしているということである。

もし誰かに悩み事を相談された時は、その人がバケツの水を欲しているのか、新しい消火器を欲しているのか、はたまた消防車を呼んで欲しがっているのか、冷静に見極める必要があるのだろう。間違っても、「もう諦めたら?」と言ってはいけないのだ。

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