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この虫の名は。図鑑で調べることが楽しくなる指南書

撮影/猪俣博史

『図鑑を見ても名前がわからないのはなぜか?』

通勤路や散歩道で目にする草花や、家の網戸やベランダにへばりついている虫たち。これは何だろう?と一歩踏み込んで調べてみるも、なかなか名前がわからなくて、そこで投げ出してしまった経験、ありませんか? 本書『図鑑を見ても名前がわからないのはなぜか?』は図鑑を用いてお目当ての生き物の名前がわかるようになる、すなわち「同定」の指南書です。

昨年12月に発売されてこの度5刷が決まったという人気の理由は、「体験学習」のような構成にあるのかもしれません。まず第2章で9匹の虫の中から1匹だけいる「蚊」を選ぶクイズで体験できます。夏の天敵である蚊の体の仕組みをまじまじと見ることになるなんて!

ハエトリグモの研究者で小学校の理科教諭でもある著者の、わかりやすくユーモラスな語り口で、まるで授業を受けているかのように一緒に考えながら楽しく読み進めることができ、違いを見分ける生物学の奥深さ、同定という作業の面白さを知ることができます。

その後、著者と共にシダ類を同定するプロセスの章になります。図鑑と言えば情報量が多いほど良い書籍だ、コスパが良いなどと思ってしまいがちですが、初心者は情報量が多いとかえって混乱してしまうことを指摘し、2種類の図鑑を入手し、使い分けることを提案しています。

ここでは著者の撮影したシダ類の画像を見て、著者の思考を追っていくことで、まるで観察会に参加しているかのように、ぱっと見どれもこれも似ているシダに種の多様性があることを知ることができます。この時、文中で紹介されている『シダハンドブック』(文一総合出版)がお手元にあると、一層共感度が高まるかもしれません。

この虫の名は。図鑑で調べることが楽しくなる指南書
図鑑を見ても名前がわからないのはなぜか?』 須黒達巳 著 ベレ出版 2,200円(税込み)

6章では、著者自らが図鑑の検索表を用いて昆虫の同定に挑戦します。少し専門知識があれば、進化系統にそって系統分類することが近道のように思われがちですが、自分の目の前にある標本を同定、分類するのには遠回りになりやすいこと、そして検索表は後戻りできないので、意外に使いづらいことを指摘しています。

検索表で行き詰まってしまったら、ひとつ前まで戻るというアドバイスをしています。山登りで道に迷った時に、確かなところまで戻るのはなかなかできないことですが、遭難のリスクを避けるためには最も重要なことと同じかもしれません。

最近はスマホのアプリで、AIを使った植物や鳥類などの種類を同定することができます。湖の水を採取することで、環境DNAによって、生物の姿が見えなくてもその存在を特定することができるようになりました。著者はアナログの図鑑がいつまで必要とされるのかという疑問や不安を感じてはいるものの、目の前の未知の生物を同定、分類できた時の喜びを知っているので、図鑑の未来に希望をもっています。人力でできるなら、それはAI同様のスキルを持つ超人的なことなのだと。

多くの種類が載っている図鑑を開くと、その種類の中で同じような姿をした生き物たちがズラッと並び、その一つ一つに名前があります。種同士のほんのわずかな違いこそ、これまでに各分野の研究者たちが人生を賭けて見分け、そして命名した成果です。そういう視点を伴って自然風景を見た時、「世界のほうは何ひとつ変わらずとも、『自分にとっての世界』は、個々の存在の名前を知ること、すなわち同定によって、驚くほど豊かで美しいものへと一変するのです」(本文p.5より抜粋)。

もうすぐ啓蟄(けいちつ)。地面から虫たちがはい出てきて、そして色々な花も咲き始める季節。本書を読んだ後、興味のある生き物の図鑑を片手に外に出てみれば、目に映る生き物を通して、「わかる」楽しさをきっと発見できると思います。

この虫の名は。図鑑で調べることが楽しくなる指南書
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PROFILE
川村啓子

かわむら・けいこ
湘南 蔦屋書店 児童書・自然科学コンシェルジュ
読書といえば小説が主で大学も文学部、ずっと「人間のこと」ばかり考えてきましたが、このお仕事に出会ってからは「人間以外のこと」を思う時間が増えました。いま気になっているのは放散虫。「自然界は美しいものだらけです」

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