花のない花屋
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つかず離れずだったお隣さん。その距離が縮まったのは

読者のみなさまから寄せられたエピソードの中から、毎週ひとつの「物語」を、フラワーアーティストの東信さんが花束で表現する連載です。あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら

〈依頼人プロフィール〉
野原泰子さん(仮名) 53歳 女性
自由業
宮城県在住

    ◇

東京の出版社などで働いたあと、母がひとり暮らしをする仙台にUターンして、15年ほどになります。住宅地のせいかご近所付き合いは意外にあっさりしていて、お仕事をリタイアしたご主人と奥さん、息子さん、小型犬1匹という家族構成のお隣のご一家とも、回覧板を回したり、道で会えば挨拶(あいさつ)を交わす程度のお付き合いでした。

そのつかず離れずの距離が縮まったのは、3年ほど前のことです。最初に高齢だったご主人が亡くなり、続いてワンちゃんが亡くなり、今度は息子さんをお見かけしないと思っていたところ、ある日、奥さんとたまたま顔をあわせた庭先で打ち明けられたのです。

「わたしひとり暮らしになるかもしれないの」

息子さんは長く入院されているとのことでした。私は料理が好きで、料理の仕事もときどきしているので、自分の友人や母の友人などに、季節の味を差し入れすることがよくあります。そこで80歳代の高齢で、思いがけなくおひとりで暮らされているお隣さんに、数日後のある夜、はじめて手料理をお届けしてみました。ちなみにメニューは、鮭(さけ)はらこ飯、秋刀魚のつみれ汁、茄子(なす)の中華風冷製などでした。

玄関に出ていらした奥さんはとても憔悴(しょうすい)した様子で、こうおっしゃいました。

「昨日息子が亡くなって、今さっきお葬式から帰宅してきたところなの」

言葉もありませんでしたが、なんとかお悔やみを伝え、差し入れをお渡ししました。すると翌日お電話をいただき、涙声で「何も食べられないと思っていたのに、おいしくて全部いただきました」と。

その後は、ご高齢でおひとりになられたことが気になって、何か買い物があれば「頼まれますよ」と声をかけたり、多めに作ったお総菜を届けたり。逆に「病院の帰りに買ったのよ」と和菓子のおみやげをいただいたりと、以前より親しいお付き合いをしています。

奥さんは読書好きで、文学少女がそのまま年を重ねたような方です。独身で53歳の私のことを「ピンクのほっぺで、いつまでも可愛くいてね」と気にかけてくださり、ささやかな贈り物にも心から喜んでくれたり、また女性の友人が車で家に迎えにきただけなのに「もしかして男性の車なのでは? あなたが結婚なさっていなくなったら、さみしくなるから困るわ」と心配されたりするような、とてもチャーミングな方です。

お花も大好きで、庭でさまざまな植物を育てていましたが、「動けるうちに」と、庭の植木も縮小され、週に1度は必ずタクシーで買いに行っていた仏壇のお花も、思い切ってドライフラワーにしたと言っていました。生花がお好きなのにお寂しいのではと思っています。そんな奥さんに花束が届いたら、さぞびっくりして喜んでくださることと思います。そんな姿がぜひ見たいと思って投稿しました。

「人生の終わりは、花束だ」

これは、とある花の絵に添えられていた画家の言葉です。人生にはいいことも悪いこともあるけれど、人生の最期にはそれが美しく華やかな花束になって、誰もがそれを抱えて旅立つ……そんな意味と解釈して、折に触れて思い出しています。

今、こうして奥さんのことを綴(つづ)りながら、またこの言葉を思い出しました。奥さんの人生は、もちろんまだまだ終わってほしくないのですけれど。

つかず離れずだったお隣さん。その距離が縮まったのは
≪花材≫ラナンキュラス、クレマチス、クリスマスローズ、シレネ(グリーンベル)、ミモザ

花束をつくった東さんのコメント

隣家の奥さまが「お花の中で一番好きなの」とおっしゃったという情報を投稿者さまにいただいて、ラナンキュラスをふんだんに使ったアレンジを作りました。

ピンクや黄色など、さまざまな種類のラナンキュラスを入れたほか、やはり奥さまがお好きというミモザで回りをぐるりと囲んであります。そのほか、最近さまざまなお花を育てていらしたお庭を縮小なさったという奥さまに楽しんでもらおうと、ガーデン風のナチュラルなアレンジに仕立てました。

お花を囲んで、お二人のおしゃべりがますます楽しいものになるといいですね。

つかず離れずだったお隣さん。その距離が縮まったのは
つかず離れずだったお隣さん。その距離が縮まったのは
つかず離れずだったお隣さん。その距離が縮まったのは
つかず離れずだったお隣さん。その距離が縮まったのは

文:福光恵
写真:椎木俊介

■東信さん出演の「&フェス」開催!
3月26日(土)に開催するオンラインイベント「&フェス」に、東信さんが出演。連載「花のない花屋」ができるまでを追ったショートムービーをお届けします。プレゼント応募も受付中です。詳細はこちらから。

読者のみなさまから「物語」を募集しています。

こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。

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