親しみやすくセンスよし 普段着の韓国食堂「하하하(ハハハ)」

一度聞いたら忘れられない、口に出すだけでなんだかご機嫌になれる名の韓国食堂が、下京区の街なかを少し外れた路地の一角にオープンしました。今回訪ねた「하하하(ハハハ)」は、京都で「ピニョ食堂」「ミリネヤンコプチャン」などの人気韓国料理店を手掛ける全敞一(ぜん・しょういち)さん(38)の新展開。タイル張りの外観と町家の内装が独特のミックス感を醸し出す、一軒の空き家に全さんが出会ったことが始まりでした。
■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。
今っぽいのに懐かしい 普通の食堂の居心地の良さ

洋館建築のような外壁に、陽気な印象のハングルの看板。「하하하(ハハハ)」は日本語と同じく韓国語でも笑い声を意味し、オーナーの全さんが好きな歌のタイトルでもあります。カラフルなモザイクタイルのカウンター、レトロなテーブルや照明、ネオンが光る冷蔵庫……と、どこか懐かしさを感じるインテリアが親しみやすさの理由。カフェと居酒屋の中間のような雰囲気で、お酒を飲む人も飲まない人も気軽に立ち寄ることができるのです。

「このモザイクタイルのカウンターは、韓国の田舎町の食堂にあったテーブルを模して作ってもらったんです。古くさくて懐かしいのがいいなと思って」
そう話す全さん。日本でも韓国でも、お気に入りの店は、地元の人が昼食ついでにお酒を飲めるような、日常の延長線上にある店。それでいて、自分と同世代の人々の感性にぴたりとハマる、新しさと古めかしさのあんばいを大切に、店づくりをしてきました。和洋と新旧が混在するこの店の物件に出会い、これまで手がけたどの店とも違う「하하하」のイメージがふくらんでいったと話します。

多様で滋味深い、日常の韓国料理を

韓国食堂でありながら、「하하하」のメニューには日本人が見慣れた韓国料理名はほとんどありません。「モンクッ(海藻のスープ)」「コサリユッケジャン(ゼンマイなど具だくさんのスープ)」「チャンアチ」などと書かれた料理の説明をよく読むと、チェジュ(済州)島の郷土料理だったり、韓国の伝統的なしょうゆ漬けだったり……。いずれも素朴で滋味深く、辛さや刺激をうたったものばかりではないことがわかります。

「韓国料理ってなんぼでも種類があるんですよ。辛いのもあれば柔らかい味わいもある。すごく多様で、地方料理も豊富で。そういう当たり前のことが知られてないから、僕自身がよく知っている韓国料理を出したくて」(全さん)

自国の食文化は、異国の地で展開した途端にわかりやすいイメージだけが先行し、その国で暮らす人々の本来の食卓とはかけ離れてしまうことがあります。けれど、ひとたび耳慣れない料理のおいしさや食材の多様さを味わえば、まるで旅をしたような忘れられない食体験になる。その記憶はまた訪ねずにはいられない理由になり、やがて日常に欠かせない店になっていきます。

「“韓国っぽい”店ではなくて、普通に韓国の街にあって同世代にはやるような店でありたいと思っています。僕にとってはそれが韓国らしいということだから」(全さん)
昼でも夜でも気軽に立ち寄れて、お酒を飲んでも飲まなくてもよくて、その国の飾らないおいしい料理が食べられて、センスが良いのに親しみやすい。普通なようでどこにもない、そんな等身大の韓国料理店。京都には「하하하」があります。

■ 하하하(ハハハ)https://www.instagram.com/hahaha.teramachi_takatsuji/
フォトギャラリー(クリックすると、写真を次々とご覧いただけます)
BOOK
大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が2019年6月7日に出版されました。&Travelの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。