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月経痛をやり過ごしていたあの頃の私。女性の体への理解をもっと/萩原智子さん

2月に閉幕した北京オリンピックや現在開催中のパラリンピックで、女性アスリートが大活躍しています。また、さまざまなスポーツ競技で男女混合種目が増えるなど、男女平等の意識がスポーツ界でも高まっています。ただ、女性アスリートは、月経中のコンディションの調整や、妊娠・出産と現役選手としての活動の両立など、女性特有の体の課題に直面します。

女性の体と女性アスリートをめぐる環境の変化などについて、元競泳選手の萩原智子さん(41)にご自身の経験を踏まえて語っていただきました。現役時代、萩原さんはトップスイマーとして活躍する一方で、ひどい月経痛に悩まされ、子宮内膜症によるチョコレート囊胞(のうほう)の摘出手術を受けました。

月経痛は「みんなある」と納得させていた高校時代

――月経痛はいつごろからひどくなってきたんですか。

高校生の時にも痛みがあって、だんだんひどくなってきました。先輩や全日本の仲間などにきいたこともあったのですが、「私もあるよ。腰が痛くなるし、頭も痛くなったり、おなかも痛くなったりするよ」というような反応でした。ただ、痛みの度合いは人それぞれで定義が違うので、「あるよ」と言われただけで安心していた自分が、いま考えるともったいなかったですし、もっと勉強すればよかったなと感じます。

――練習中の痛みとはどのように付き合っていたんですか。

痛みがきついときには、痛み止めを飲んで練習に行きました。指導者からも、月経が試合と重なる可能性もあるから、そういう状況に慣れておかなきゃいけないよね、という話もあり、その時は納得していました。当時は、月経や月経前症候群などの女性の体の情報は、あまり公に出ていなかった。ましてや、男性指導者が多数を占めるスポーツ界においては、私が高校生時代は、そんなことを言うのもよくない、恥ずかしいというような雰囲気が、正直ありました。当時の指導者を責めるというのではなく、女性の体についての情報がなかった。特にスポーツ界にはなかったと思います。

――水泳の選手は、月経のときはどう対処しているんですか。

今ではピルを服用して、試合の日程と重ならないよう月経を調整できるようにはなってきましたが、私が高校生の頃は、タンポンをして試合に出ていました。試合に自分の月経があたるかどうかは、だいたい予測がつきます。試合にあたるとなると、体調だけでなく、「嫌だな」とメンタルも左右されてしまうこともありました。

練習のし過ぎからくる疲労ではなかった……思いがけない診断

――大学に進み、その後は月経痛がさらにひどくなったのですか。

ひどくなっていったんですが、慣れがあるんですよね。1カ月に1回なので、そのときだけ痛み止めを飲んで我慢すれば、あとはまた普通になるということの繰り返しでした。2004年のアテネ五輪の選考会の後に一度水泳を引退し、09年に復帰したのですが、月経痛はさらにひどくなっていました。月経痛が、それまでは3日前くらいに来ていたのに、1週間や10日前ぐらいから来るようになり、寝汗がすごいこともありました。胃が痛いというか、胃が硬くなっているのが自分でもわかりました。トレーナーさんにも「背中がすごく硬いから、内臓系をちょっとやられているかもね」と言われたこともありました。でも、私は練習のがんばり過ぎからくる内臓疲労みたいなものだと思っていた。婦人科系の病気になっているなんて考えもしなかった。

月経痛をやり過ごしていたあの頃の私。女性の体への理解をもっと/萩原智子さん

――周りにも婦人科系の病気を疑う人はいなかったんですか。

全くいなかったですね。自分でも疲労からきていると思っていたので、最初は内科に行きました。11年のはじめ、30歳のときでした。立てなかったり、食べられなかったり、排便痛もあって、とにかく痛くて。内科の先生に診てもらうと、「心配だから、ちょうどエコー(超音波)検査の先生がいるし、診てもらおうか」と。そして、エコーの先生に「すぐに婦人科に行きなさい」と言われたんです。

紹介状を書いてもらい、すぐに婦人科に行きました。そこで子宮内膜症による卵巣囊胞(チョコレート囊胞)で、その囊胞が大きい、しかも放っておくと不妊症になる可能性が高くなる、と言われたんです。ショックでした。なんで今まで気づかなかったんだろう、水泳をやっている場合じゃない、と落ち込みました。そうなった時も、相談できる婦人科のスポーツドクターのような存在を知らなかった。いまは相談する制度が手厚くなっていますが、当時はまったく確立されていなかったんです。

実は私、セカンドオピニオンを受けました。納得できなくて。最初の婦人科も含めると3カ所。診断に納得いかないのと、治療方針も含めて、きちんと説明してもらえなかったためです。質問しても忙しいのか、機械的に「はいはい、こうで、こうで、こうね」みたいな感じだった。自分が納得して、この先生に任せたいと思えなかった。

でも、最後の3カ所目の先生は、絵も描いて、とても丁寧に時間をかけて説明をしてくれました。薬物療法をしたらこういうことがあるかもしれない、手術をしたらこういうことがあるかもしれないと、選択肢もきちんと示してくれました。私の場合、囊胞が6~7センチあって、それが他の臓器と癒着し、そのために胃が痛くなったり、排便痛が起こったりしていた。痛みがひどすぎるので、私は手術を選択しました。

月経痛をやり過ごしていたあの頃の私。女性の体への理解をもっと/萩原智子さん

――こうした病気の診断を受ける以前、06年に結婚。ご主人は萩原さんが不妊症になる可能性もあると診断されたことについて、どんな反応でしたか。

とにかく納得いくまで病院を探そうという感じでした。最後に診てくれた先生を紹介してくれたのは夫で、その病院にも一緒に行きました。

――診断を受けて、「水泳なんてやってる場合じゃない」と、その後は練習をしなかったのですか。

全くしなかったですね。ちょうど東日本大震災の年で、いろいろな意味で落ち込んでいる時期に、自分自身のことも重なって、つらかったですね。

手術は4月でした。腹腔(ふくくう)鏡手術でしたが、私の場合は癒着がひどかったので、下腹部を5センチほど切開しています。直径約7センチにもなる囊胞だったので、先生が「こんな大きいおもりがとれたから、速く泳げますよ」って(笑)。手術までは沈んでいた気持ちが、とてもすっきりしました。「子宮を含めて周りもきれいにしたから、今後3年以内であれば、妊娠できる可能性は高くなっていると思いますよ」ともおっしゃってくださいました。

病気をブログで公表 思いを共有したい

――手術前にご自身のブログで病気について公表したのは、どういった心境だったのでしょうか。

一つは、アスリートも人間なんだという気持ちからです。それまで私は、肩痛、腰痛などの関節や腱、筋肉の部分は気にかけていましたが、内科的部分はあまり気にしたことがなかった。アスリートはこれだけ体に気をつけているつもりでも、病気になる時はなるんだと思いました。これから先、後輩たちにも起こる可能性があるだろうということも想定して伝えたかった。あとは、世の中に同じような病気に悩む人がきっとたくさんいるだろうなと思っていたので、思いを共有できたらと考えました。

もう一つは、国際大会の日本代表選考会を欠場しての手術だったので、大会にエントリーしない理由についての問い合わせがマスコミからあって。はっきり伝えた方がいいと思いました。

公表後、ブログにコメントをくださったり、メールや電話をくださったりと、反響が予想以上に多くありました。「実は私も同じ病気です」「私の妻もそうでした」と。デリケートな問題なので、口にしてはいけない、恥ずかしいといったイメージがとても強くて、言わないようにしていたようです。もちろん病気について言わなくてもいいんですよ。でも、私のところにはたくさんご連絡が届いて、とても励まされもしましたし、励まされましたと言ってくださる方もいました。両方向でいい形のコミュニケーションができ、エールを送り合えた気がしました。

月経痛をやり過ごしていたあの頃の私。女性の体への理解をもっと/萩原智子さん

――手術後、すぐに復帰なさってますよね。

手術の翌年、12年4月にロンドン五輪の選考会が開催されることになっていました。それまで残り10カ月ほど。もうこのままやめてもいいかなとも思いました。でも、ロンドンを目指すという目標、強い決意で復帰した水泳です。周りのたくさんの方々が「3年間は大丈夫って先生は言っているし、あと10カ月、水泳に集中してもいいんじゃない? そうしないと後悔しちゃうんじゃない?」と言ってくれました。私も「悔いなく第二の水泳人生を終えたい」と思い、その後の10カ月間はどっぷり水泳につかりました。体調はまったく問題なく、集中できた10カ月間でした。

調子はほぼ元に戻りつつある中で迎えた選考会でした。結果出なかったですけどね。目標としていた2回目のオリンピック出場はかないませんでしたが、すっきりして、やってきてよかったなと思えました。水泳のおもしろさ、難しさをあらためて知ることもできました。

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