パワフルに繊細に、復活の光 22年秋冬ミラノ・コレクション

2022年秋冬ミラノ・コレクションが2月下旬に開かれた。前回まではコロナ禍で縮小気味だったが、参加の60を超えるブランドのうち9割が観客を入れたショーを開くなど2年ぶりにほぼ元の形に戻った。ミニマリズムや1990年代調、女性性への注目などトレンドも発信された。

ここ数シーズン、新作発表の場をミラノ・コレクション以外で行っていた人気の2ブランドが、今回は戻ってきた。まずはグッチ。ゆがんだ鏡の壁を背景に、女性モデルが華麗に着こなす端正なメンズ調スーツや、アディダスとのコラボで3本線を脇などに施したドレスなどパワフルで話題性のある作品がずらりと並んだ。

ボッテガ・ヴェネタは、新デザイナー、マチュー・ブレイジーによる初のショーだった。ブレイジーは84年パリ生まれ、ラフ・シモンズやセリーヌなどを経てきた注目株。白いタンクトップと、デニムそっくりにプリントをしたレザーのパンツなど、シンプルでありながら微妙な質感が魅力的な作品を披露した。

ごくシンプルなタンクトップと言えば、プラダも透ける細身スカートなどと組み合わせて象徴的なアイテムにしていた。「女性たちの過去から現在までの個人的な歴史」に注目したといい、アールデコ調の幾何柄や刺繡(ししゅう)、アップリケなど人間的な温かみのあるテクニックも随所に差し込まれていた。

ジル・サンダーも、持ち前のミニマルなデザインの中に、いつもに増してリリカルな優しいディテールを盛り込んだ。彫刻的なフォルムの服に可愛らしいリボンやボタン飾り、吟味されたほんの少しの量感が加えられている。

トレンドでは、民族調のスタイルや手仕事に焦点を当てるブランドも目立った。エトロは民族的な幾何柄の刺繡布を多用したノスタルジックな作品。

また、80~90年代調のビッグシルエットも多かった。ドルチェ&ガッバーナは、大きな肩や細いウエストを誇張したボディコンスタイルが楽しかった。

日本を活動拠点にするアンブッシュのデビューショーも、肩を強調した独特のダークなバイカースタイルが印象的だった。

今回もショーの模様などがオンラインで配信された。コロナ禍により1月のメンズ・コレクションの発表を中止していたジョルジオ・アルマーニは、メンズも合わせたショーを開催。ショーの数日前からロシアの侵攻を受けたウクライナの人々への気持ちの表現として、急きょ背景の音楽なしでショーを行った。
観客の拍手だけが響く会場で、暗い色調の中に宝石のようにちかちか輝くラメやスパンコール刺繡のドレスなどを並べた。ショー後アルマーニは「この場でお祝いをしている場合ではないことを伝える方法を探した。沈黙はどんな音楽よりも大きく、インパクトがあったと思っている」とコメントした。
戦禍がもっと広がりそうな危機の中でファッションは何ができるのか? 世界中のデザイナーたちはそれぞれが仕事の現場で感じている思いを抱えながら、新作発表の場で集い、新たな光をなんとか見いだそうとしているようだ。
編集委員・高橋牧子
写真はブランド提供