名店への登竜門「間借りカレー」 先駆者が構えたリアル店舗「ケニックカレー」(東京・渋谷)

このところ間借りカレーが名店への登竜門のように思えるほど、間借り出身の人気店が増えてきた。その先駆者ともいわれる小菅健一さんが、6年間の間借り営業に別れを告げて、2020年3月にオープンしたのが「ケニックカレー」だ。
当時プロダクトデザイナーでもあった小菅さんは、さまざまな人が集う場所を作るために、カレー作りを始めたそうだ。ところが、それが話題になり、やがて雑誌や人気TV番組に引っ張りだこに。気が付けば間借りではキャパオーバーになってしまった。それなら、本腰を入れてと、間借りしていたバーから50mほど先の渋谷・井の頭通りのビルの4階に店を構えた。
看板メニューのキーマカレーは、20代の頃から知人にふるまっていたものが基本。誰に習ったわけでもなく自身の感覚で作り上げたものだ。水を一滴も使わずに豚ひき肉と野菜、数種類のスパイスで作り上げるカレーは、スパイス感はしっかりとありつつも、食べやすく、初心者も、マニアもどちらも満足させる絶妙なバランスだ。
強烈な個性際立つカレーは求めておらず、万人においしいと思ってもらえるカレーを目指しているというが、確かにコリアンダーやターメリック、カルダモンなど多彩なスパイスを使いつつも、いい意味で分かりやすい味だ。今回はキーマカレーに、もう一つの看板メニューでもある魯肉飯(ルーローハン)と週替わりメニューのカルダモンチキンカレーを加えた奮発の「3種のあいがけ」(1900円、以下税込み)にした。

この3種盛りは、かなりの当たり。魯肉飯は、仕事に疲れた小菅さんがバックパッカーになり、台湾を巡っている時に教えてもらったという本場仕込み。水分がよい加減に飛ばされた、濃厚なキーマとは好相性だ。それぞれにおいしく、混ざり合うことでまた新たなおいしさが楽しめた。

硬めのライスにこだわる店は多いが、こちらのターメリックライスもかなり硬め。ただ、硬さだけでなくターメリックとロリエで香りをつけ、ほんの少し米油を使うことで米同士がくっつかないように工夫するなど、細やかなこだわりが、カレーのグレードを上げている。

実店舗を構えた今も、カレーは人とのつながりの媒介という考えは変わらない。だからこそ、おいしくなければ意味がない。人を引き付ける魅力があるからこそ、それが可能になるのだと話す。この店には、小菅さんの歩んできた人生、取り巻く人たちとのつながりが詰まっているようだ。店に通って来てくれるお客様、野菜やスパイスの生産者や流通の人たち、カレーの仕事を発展させながら、人との輪が広がっていくのが今は何よりも楽しいという。

ケニックカレー
東京都渋谷区宇田川町13-9 KN渋谷1ビル4F
03-6884-2188
https://kenickcurry.com/