大海原の開放感を全身で感じる 高知県・土佐白浜駅

ぽかぽかとした日差しの心地よい、3月下旬。1両編成のディーゼルカーから土佐白浜駅(高知県黒潮町)のホームに降り立つと、正面には視界いっぱいの海が広がった。太平洋へと続く土佐湾だ。辺りを包むのは、波の音と海の風。空は快晴。この駅で待っていたのは、あまりにすがすがしい時間だった。(訪問:2013年3月)
連載「海の見える駅 徒歩0分の絶景」は、アマチュア写真家の村松拓さんが、海のそばにある駅で撮った写真を紹介しながら、そこで出会ったこと、感じたことをつづります。
さえぎるものがないというぜいたく
高知県の南西部を土佐湾に沿って走る、土佐くろしお鉄道中村線。海の見える駅も数多い路線だが、中でもここ土佐白浜駅は抜群の眺望を誇る。

はるか遠くには、空と海をきれいに分かつまっすぐな水平線。一方、波打ち際ではごつごつした岩肌に白波が勢いよく打ち付ける。駅と海との間には国道や集落があるものの、標高およそ20メートルのホームにいれば、視界は良好。屋根はなく、フェンスも高すぎない。さらに足元の舗装も最低限で、駅によくあるコンクリートや鉄骨の無機質さもほとんどない。まるで周囲の景色に溶け込むように、駅としての存在感を消していた。

これだけさえぎるものがないと、波の音、海の風もダイレクトに体へと伝わってくる。中村線の各駅では駅名標にキャッチフレーズが書かれていたが、土佐白浜駅のそれは「渚の潮騒が聞える」。このホームは、目ではもちろん、耳や全身でも海の存在を実感できる、なんともぜいたくな展望台なのだ。
駅名標の脇にある階段を降りて、駅の出口へと向かう。頭上には開花して間もない桜の花が、海を背景にゆっくりと揺れていた。

そのまま桜の枝をくぐり、細くて急な坂道を下る。さらに田畑と民家に挟まれた小道を抜けて、ようやく集落の中に出た。無人駅なので改札がないのはもちろんだが、駅舎もない。驚いたのは、駅前に看板すらなかったこと。あらかじめ知らない限り、ここに駅があるとは気づけないだろう。そんな「ひっそり感」も土佐白浜駅の愛すべき特徴といえそうだ。

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やはり、この地から…
こんな景色を観たら、
さえぎるものはなにもないです。
素晴らしい人を産んだ、海ですね。