最先端の場 光も謎もある幸せ パリ・ファッションウィーク公式アンバサダー 鈴木保奈美さん

2022秋冬のパリ・ファッションウィーク(PFW=パリ・コレクション)が、先月末から今月上旬にかけて開催された。朝日新聞はPFW公認の特設サイトで動画などを同時配信し、現在もアーカイブ視聴ができる。昨年秋から「日本におけるPFW公式アンバサダー」を務める俳優の鈴木保奈美さんが、注目のブランドやファッションへの思いを語った。
昨年秋にあった前回のPFW期間中は精力的に各ブランドの新作発表動画を見ました。仕事柄、どんな照明や音楽を使って服を見せているのかという点を気にしながらの鑑賞でした。
印象に残っているのはルーブル美術館でのルイ・ヴィトンのショーでした。夕暮れの時間帯に外観を映すところから始まり、やがて陽(ひ)が落ちて、街に灯がつく。そういう要素も全部使った演出だったと思います。

1990年代に一度、プライベートで現地を訪れてパリ・コレを見ました。あの時、そんな見方も出来ていたら、もっと楽しめたのになぁって感じていました。
こういうご時世ですから、ブランドによって現在は動画のみの発表だったり、ショーをライブ配信したりという手法が取られています。ファッションを勉強する下地としては、とても便利ですよね。でも、だからこそ生のショーはいいな、とも思いました。やっぱり生身の人間が動く良さというのは間違いなくありますから。
気になるザ・ロウ 自分の質を試される
今回発表のブランドで一番気になるのはザ・ロウです。格好いいんですよ。値段はあまりにも高くて、ため息しか出ないんですけど。ミニマルなデザインだけど、高級素材の布の使い方がぜいたく。実際に着ると、自分自身の質も試されているような気がします。

今日の取材で着用しているのは日本のビューティフルピープル。日本からもたくさんのブランドがPFWに参加していますよね。ファッションの世界のトップレベルの場で、日本ブランドが発表し続けているというのは、心強い。そういうところにも注目したいです。
多くのブランドが発表しますし、インターネット上でその模様を全部見られるのは楽しいですよね。最先端の発表の場ですから、中には私が見ると「これは、どう受け止めたらいいんだろう」というものも正直あります。でも、それがあってこそ、うんときれいなものも光る。謎のように感じるものを含めて、いろんなものがあることの幸せを感じます。
これはどんなことにも当てはまると思っています。芸術や音楽、テレビ番組もそうですが、玉石混交でいい。玉ばかりでは疲れてしまう。金メダルだけじゃなくて、予選落ちのようなものにも価値はあると思っています。
自分の装いについても同じで、いつも気合を入れておしゃれしなくていいと考えているんですよね。「今日は服装について何も考えない日」というのがあっていい。ファッションって、自分の精神状態に寄り添って、気持ちを調整してくれるものだと考えるといいんじゃないかな。
意外かもしれませんが、私は疲れちゃった時にもおしゃれをしたいと思うんです。「このままじゃダメだ。とりあえず顔を洗って、お化粧して、着替えないと……」って。そんな時に気持ちを上げてくれる効果もあるんですよね。
聞き手 編集委員・後藤洋平
写真はブランド提供