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本当に大切なことって? 当たり前のことができなくなった今、考える

撮影/猪俣博史

『死ぬ瞬間の5つの後悔』

私がこの本『死ぬ瞬間の5つの後悔』に出会ったのは昨年末、ヨガの師であり鎌倉にあるイナムラキャビンヨガスクールを主宰する鈴木一平先生より、おすすめの一冊として伝えられたのがきっかけでした。

この本がはじめて発行されたのは、2012年12月のこと。それからほぼ10年の月日が経ち、すでに読まれたことがあるという方もいらっしゃるかもしれません。しかし、あえてこの一冊を私が選書した理由。それはいま私たちが、コロナ禍で10年前に当たり前であったことが、当たり前でない世界で生きているということ。家族が病に伏していてすら、思うように会うことができない現実、今もなお制限されてしまうことや思うようにできないことがあるなかで、私たちは後悔せずに生きるために何ができるのか?

本書はオーストラリア出身の著者ブロニー・ウェアさんが、ご自身の波乱の人生とともに、まもなく死が訪れるであろうと悟った患者との出会い、そして別れが訪れるその瞬間まで寄り添う姿が描かれています。やがて限られた時間を過ごすなかで多くの患者が、主に五つの後悔を抱えていることに気づきます。

・自分に正直な人生を生きればよかった
・働きすぎなければよかった
・思い切って自分の気持ちを伝えればよかった
・友人との連絡を取り続ければよかった
・幸せをあきらめなければよかった

著者には、幼少期より家庭内で虐げられ、傷つくと分かっていながらも家族からひどい言葉を浴びせられてきた過去の辛い経験があります。そして、まるで自分を愛することに引け目を感じるかのように長く苦しんできました。定住をせず、放浪を好み、職を変え、時には自分自身を虐げてしまうことも……。そのような自身の苦悩を抱えながらも、看護の仕事と向き合うことになります。

出会ったうちのひとり、グレースは、50年以上辛い結婚生活を続け、いつか自由になることを最期まで望んでいました。しかし、ようやく自由を手に入れた頃、病にかかってしまいます。勇気を出して、家族のためにもどうしてやりたいことをやらなかったのか、どうして強くなれなかったのか、「自分に正直な人生を生きればよかった」ことを悔やみます。グレースとの会話の中で、著者が「人生について学んだ一番大切なこと」として書かれた次のような一文があります。

私が人生について学んだ一番大切なこと、何よりも何よりも大切なことは、共感は自分から始まるということだ

死を前にした患者が抱えている思いはさまざまで、時には看護を拒否され、「もう来なくていい。出て行って……」と荒い口調で、帰るよう追い払われてしまうケースもあります。私ならそのような時、どのようにして向き合うだろうか?と自問せずにはいられませんが、本書では、患者が抱えている思いを全て吐き出してしまうまで待ち、見守り、心が落ち着いたのを見届けたとき、そっと隣に座り寄り添う姿が描かれています。まさに、それは「共感する」ということでした。

多くの患者をみとることになる著者ですが、さまざまな形で「死ぬ瞬間の後悔」に立ち会い、また「同じような後悔をしてほしくない」というメッセージを受け止めるに至ったのは、お互いの共感と信頼があったからなのでしょう。同時に、自身の過去と向き合い、家族が自分に対して辛い態度や言葉を取り続けた現実をどのように受け止めるべきなのか、葛藤と共感に揺れ動く姿は心に突き刺さります。

「働きすぎなければよかった」という後悔を残したジョン。とても仕事が好きだったというジョンは、仕事に打ち込み、定年後には妻が待ち望んだ旅行に出かけようと将来の計画を立てていましたが、間もなく妻の願いが叶(かな)うという直前になって、妻が病にかかり先立たれてしまいます。そのときになって、はじめて気づいた大きな後悔。

私は人生で本当に自分を支えてくれたものに十分な時間を費やさなかった

「いつの時代も、多くのひとが自分の価値を心ではなく、自分の所有している物ややり遂げたことにあると考えることに悲しみを感じる」という著者の思い、「きっと大事なのはバランスだ」というジョンの言葉、この二つは印象的でした。

この本を読んだタイミングで、私は2年ぶりにまもなく両親と会おうとしています。いま、ジョンの言葉をとても強くかみ締めています。そして、「思い切って自分の気持ちを伝えればよかった」という後悔をしたくないなと思っています。本書には次のような言葉も記されていました。

・罪悪感は人を傷つける

・一番大切なことは、自分の気持ちを伝える勇気を持つことで、自分にも他人にも何かを与えられる。伝えられるようになるのが遅ければそれだけ、言わなければならないことがたまっていく

なかなか言えなかった感謝の気持ちをもっと素直に伝えよう。そして欲張りすぎることなく、自分にとって大切なひと、大切なことをシンプルに大切にしていきたいと、いま思っています。この本は、私にとって本当に大切なもの、手放しても構わない思考や価値観、その答えをダイレクトに教えてくれているように感じられる一冊でした。

本当に大切なことって? 当たり前のことができなくなった今、考える
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PROFILE
藤井亜希子

ふじい・あきこ
湘南 蔦屋書店 旅コンシェルジュ
旅行会社勤務時代は、海外ホテルやオプショナルツアーなど現地への手配を担当。その経験を生かし、ハワイ・北欧・フランス・イギリスなどを中心に、旅行書の選書をはじめ世界各国の自然や文化、人々の暮らしなどその土地にまつわるフェアや旅行イベントを提案。プライベートでは、自他ともに認めるハワイラバー。

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