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100年先も食べ飽きない食パン 京町家でコーヒーとともに/小川珈琲堺町錦店

京都産小麦食パン

京都錦市場の近く。古い喫茶店や粋なカフェが多く、「朝はコーヒーとトースト」という文化が根付いたこの街に、2月11日に新たに登場したトーストの“老舗”が「小川珈琲(コーヒー)堺町錦店」。「できたばかりなのに、老舗ってどういうこと?」と校閲の人から疑問が出されそうだが、出なかった前提で話を進めよう。

100年先も食べ飽きない食パン 京町家でコーヒーとともに/小川珈琲堺町錦店
外観

築100年以上の京町家に吹き抜けの空間を作り、モルタルのうつくしい壁面を木と調和させた内部は圧巻。扉をくぐったときの驚きがいっそう高まるのは、外観が、看板も掲げずそっけない京町家そのものであるため。

そんな中にも、トーストを売りにする店だとわかるたったひとつのアイコンがある。ショーウィンドーに並べられた、3斤がつながった「三斤棒」と呼ばれる長い食パン。トーストを提供するため、なんとわざわざ店内で製造される。これを監修したのが、京都を代表するブーランジュリー「ル・プチメック」創業者の西山逸成(にしやま・いつなり)さん。

有機JASやフェアトレードの認証を獲得したコーヒーにいち早く取り組んできた小川珈琲。その集大成と位置付ける堺町錦店のコンセプトは「100年先も続く店」。それに合わせ、西山さんも「100年先も食べ飽きない、毎日食べられる食パン」を作り上げようとしたという。

100年先も食べ飽きない食パン 京町家でコーヒーとともに/小川珈琲堺町錦店
炭焼きトースト 糀バターと京都産大納言

モーニングで提供される「炭焼きトースト 糀(こうじ)バターと京都産大納言」。2種の食パンのうち「京都産小麦食パン」を選んで、いただいた。

白と黒のうつくしいストライプは、スペイン製の炭焼きオーブン「ジョスパーオーブン」で焼かれた焦げ目。小麦と塩と水と酵母、そしてほんのわずかな油脂のみで焼き上げた、いわゆる「ハードトースト」。それだけに、邪魔するものもなく、直球で小麦の香りがやってくる。香ばしさ、ざくざく感。中身はふにふに。もちもちというほど重くはなく、でありながら、おやきのようにねっとりと歯にくっつく感じに”和”がある。

清らかに染み出してくる小麦の甘さ……かみ締めていくうち、おもしろい風味に出会った。にがりに似た“雑味”が舌をかすかに揺らし、形容しがたい個性的な香りが鼻をくすぐるのだ。これが京都のテロワール(その土地ならではの風味)なのだ。京都・佐々木酒造の米糀を合わせた糀バターが香らせる甘口の日本酒さながらの香りが、和の愉楽を加速させる。

100年先も食べ飽きない食パン 京町家でコーヒーとともに/小川珈琲堺町錦店
京都産小麦食パン断面

この食パンを作るにあたって小川珈琲から西山さんが与えられたミッションは、「京都産小麦使用」。試作を標準的なレシピからはじめたものの、できあがった食パンはごく平凡だった。そこで、西山さんが取った作戦は、余計なものを削(そ)ぐこと。

「脱脂粉乳がマスキングしたんじゃないかな? そう思って、僕は引き算しました。材料を引いていって、小麦の風味を前面に出す」

といっても、生地の伸びをよくし、食べやすい味わいに着地させるため入れられている材料。それを使わず、食パンとして成立させるのはむずかしい。試行錯誤を繰り返し、書いたレシピはノート2冊分。たどりついたのは「湯種(小麦粉に熱湯を合わせたもの)12%」。20~30%が相場だが、小麦由来の甘さを引き出しつつボリュームを出すという、二つの相反する要素のバランスをとったのが、この数字なのだ。

日々のパン作りを担うのは、パティシエの河合郁二(かわい・ゆうじ)さん。店で提供するスイーツを作るかたわら、針の穴を通すようなレシピを西山さんのイメージ通りに焼き上げるのは、技術と感性なくしてできない仕事だ。

100年先も食べ飽きない食パン 京町家でコーヒーとともに/小川珈琲堺町錦店
九条ねぎとしらすの玉子サンドイッチ

この店のプロデュースはオールスターキャスト。フードの監修は、フレンチ「MAISON CINQUANTECINQ」のオーナーシェフ丸山智博(まるやま・ちひろ)さん。先述のトーストに加え、「九条ねぎとしらすの玉子サンドイッチ」も丸山さんのレシピ。「全粒粉食パン」でいただいた。

京都産食パン同様のふにふに感がありながら、ふすまの香りを添えて、ざくざく感と香ばしさはより迫力を増している。小麦風味に、しらすが発するダシ感と潤いのある卵、九条ネギの組み合わせは、まるで明石焼きのようだ。糀バターと自家製マヨネーズによる、いきすぎない甘さが、まさに「はんなり」とした印象を与える。

100年先も食べ飽きない食パン 京町家でコーヒーとともに/小川珈琲堺町錦店
店内風景

食パンをかんでは、ネルドリップのコーヒーを啜(すす)る。深煎りによるしっかりとしたボディーは昔ながらの純喫茶スタイル、それでいて雑味や角がなく、澄み切った甘さや風味は現代的。このコーヒーを安定して抽出するために、最新のマシンで88度という低温と繊細な湯の流量をコントロール。安定してバリスタの技を再現できるという。

YouTubeチャンネル 「パンラボ」
※ナレーションで錦市場を「にしきしじょう」としていますが、正式な呼び名は「にしきいちば」です。

京町家で食べるコーヒー&トースト。昔から変わらぬ朝の楽しみであり、地産地消やフェアトレードで現代の課題を解決しつつ、未来へつなげていく。「新たな老舗」と形容したのは、コンセプトも居心地も、新店舗でありながら、老舗のような普遍性を備えているように思われたからだ。こんな朝が、変わりなくつづく、100年後の京都が見たい。

小川珈琲堺町錦店
京都市中京区堺町通錦小路上る菊屋町 519-1
075-748-1699
7:00-20:00 (L.O.19:30) 無休

フォトギャラリーへ(写真をクリックすると、くわしくご覧いただけます)
「このパンがすごい!」紹介店舗マップ(店舗情報は記事公開時のものです)

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