戻った華やぎ、服に演出に力 独自のバランスで清潔感、アートと共演 22年秋冬・東京コレクション

2022年秋冬の新作を発表する東京コレクション(楽天ファッションウィーク東京)が3月14日から6日間、都内を中心に開かれた。全54ブランドのうち約半数が観客を入れてショーやプレゼンテーションを行い、コロナ禍以前の活気を取り戻しつつある。
若手のみずみずしい感性が光るシーズンだった。デザイナーの海外進出を支援する「東京ファッションアワード2022」(東京都など主催)の受賞者がそれぞれ開いたランウェーショーでは、服そのものの力強さに加え、演出にも目新しさがあった。

デザイナー山縣(やまがた)良和が開校した私塾「ここのがっこう」で学んだ村上亮太のピリングスは、強い個性に洗練されたムードが加わり、進化を感じさせた。
テーマは、社会とうまく折り合えず「道に迷う人」。会場の天井からグランドピアノをつるした。「僕は子供のころから音痴で、音楽が怖いんです。ピアノはズレが許されない、正しくなければならないという社会のメタファー(隠喩)」と村上。ビッグサイズの手編みのニットには昆虫の大きな飾りをつけ、歩きにくそうなボトムスは引きずるほどに長い。それでも全体のバランスや色の組み合わせ、ニットに合わせた白い丸襟のシャツが、清潔感を引き出していた。

ショー会場をギャラリーに見立てた演出が目を引いたのはヨーク(寺田典夫)。寺田と接点のあるアーティストによる写真や焼き物などを並べ、モデルはソファに座ったり、立ち止まったりして作品を眺めながら歩く。新鮮な見せ方で、アート作品にインスパイアされたという複雑な色合いのニットなどの服にリアリティーが生まれた。

マリオンヴィンテージ(石田栄莉子・清水亜樹)の2人は、人気セレクトショップだった「シェル」の出身。古着を新たな服にリメイクしている。サステイナブルの意識ではなく、純粋に古い生地の良さに魅力を感じているという。80本のネクタイをパッチワークしてつくったという手の込んだダウンジャケットのほか、シャツやスカートもクラシカルでありながら今っぽさがある。

ミニマル路線も
既存の服を解体して再構築したり、さまざまな要素を混ぜたりして複雑な服をつくるブランドが目立つなか、ミニマルでエレガントな路線を貫いているのがハルノブムラタ(村田晴信)だ。ジル・サンダーのデザインチームで働いた経験があり、そぎ落としたデザインがキャメルやシルク、ウールの素材の良さを引き立てていた。

受賞ブランド以外では、屋外の広場で幻想的なショーを見せたフミエタナカ(田中文江)、装飾が多いのにまとまりがあるコレクションをみせたシンヤコヅカ(小塚信哉)の完成度の高さが際立っていた。

恒例となった冠スポンサー楽天の支援枠には、トモ・コイズミ(小泉智貴)とトーガ(古田泰子)が登場。小泉は、ブランドを象徴するラッフルをたっぷりと使ったボリュームあるドレスを、寺島しのぶやともさかりえ、市川染五郎といった豪華な俳優らに着せ、東京の夜を華やかに彩った。ブランド設立25年の古田は、テーラードのスーツを解体しストレッチ素材と組み合わせるなど、ユニークなシルエットのドレスなどを披露した。
デジタルと融合
今季は、プレゼンテーションで展示している服を1点もののデジタルデータ「NFT」として購入できる仕組みを用意したり、現実の画像に仮想の画像を重ねるAR(拡張現実)の体験コーナーを設けたり、リアルとデジタルの融合に挑戦するブランドが出てきたことも特徴的だった。
メタバース(仮想空間)がファッションの世界でも広がっていて、東京ブランドがデジタルにどう向き合っていくのかも注目だ。
長谷川陽子
写真はトモ・コイズミ、トーガ、ヨークはブランド提供。他はJFWO提供